◇
最終節はまさに天王山だった。勝ち点、得失点差、全て同じで並んだ両チームの試合は90分で決着が着かず、勝負はPK戦へともつれこんだ。リーグ戦が始まって以来のことだった。両チームとも4人ずつが決め、相手チームの5人目も決めた。次は僕の番だった。僕が外せば相手チームの優勝が決まる大切なPKだった。
ボールをセットし、いつもと同じように助走を4歩取る。小学3年生でサッカーを始めてから、PKは一度も外した事がなかった。必ず同じコースに蹴り、必ず決めた。自信を持ち、過剰に緊張することがなかった。ゴールキーパーを一度だけ確認し、左足から走り出す。いつもと何一つ変わらない。だのに僕の左足から放たれたシュートは、ゴールポストを直撃し、ゴールの外へと転がった。歓声と溜め息が僕の耳に飛び込んで来た。僕はただ呆然とゴールを見ていた。相手チームの選手達がゴールキーパーに駆け寄り優勝の歓喜に身を委ねていた。
味方の選手は誰ひとり僕に話し掛けて来なかった。彼等も僕の失敗が信じられないようだった。ロッカールームでも口をきくものはなく、沈黙だけが雄弁に敗戦の痛みを語っていた。
シャワーを浴び、スタジアムを出ると千佳子が立っていた。残念会をするから、一緒に行こうと。僕はその日、生まれて初めて酒を飲み、カラオケで歌を唄った。山崎まさよしの『One More Time One More Chance』だった。千佳子はずっと僕の隣にいた。彼女は何度も僕を慰め、元気づけてくれた。
そこで初めて僕は気付いた。あのシュートがゴールポストを直撃した時、僕は絶望も失望もせず、これは運命だ、と思ったのだ。僕にはサッカーではない「何か」をする必要があるのだと。
そのことに気付くため、僕は何度もこの夢を見ていたのだ。
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最終節はまさに天王山だった。勝ち点、得失点差、全て同じで並んだ両チームの試合は90分で決着が着かず、勝負はPK戦へともつれこんだ。リーグ戦が始まって以来のことだった。両チームとも4人ずつが決め、相手チームの5人目も決めた。次は僕の番だった。僕が外せば相手チームの優勝が決まる大切なPKだった。
ボールをセットし、いつもと同じように助走を4歩取る。小学3年生でサッカーを始めてから、PKは一度も外した事がなかった。必ず同じコースに蹴り、必ず決めた。自信を持ち、過剰に緊張することがなかった。ゴールキーパーを一度だけ確認し、左足から走り出す。いつもと何一つ変わらない。だのに僕の左足から放たれたシュートは、ゴールポストを直撃し、ゴールの外へと転がった。歓声と溜め息が僕の耳に飛び込んで来た。僕はただ呆然とゴールを見ていた。相手チームの選手達がゴールキーパーに駆け寄り優勝の歓喜に身を委ねていた。
味方の選手は誰ひとり僕に話し掛けて来なかった。彼等も僕の失敗が信じられないようだった。ロッカールームでも口をきくものはなく、沈黙だけが雄弁に敗戦の痛みを語っていた。
シャワーを浴び、スタジアムを出ると千佳子が立っていた。残念会をするから、一緒に行こうと。僕はその日、生まれて初めて酒を飲み、カラオケで歌を唄った。山崎まさよしの『One More Time One More Chance』だった。千佳子はずっと僕の隣にいた。彼女は何度も僕を慰め、元気づけてくれた。
そこで初めて僕は気付いた。あのシュートがゴールポストを直撃した時、僕は絶望も失望もせず、これは運命だ、と思ったのだ。僕にはサッカーではない「何か」をする必要があるのだと。
そのことに気付くため、僕は何度もこの夢を見ていたのだ。
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