金木犀。嫌いだった。

まだその木の名前も知らない小学生の頃。

甘く蒸せ薫る匂いは、ママの香水を思わせた。
ママは好き。秋は好き。でも、彼女の香水は嫌い。
あの木の甘い匂いも嫌い。

中学三年生。
ある女の子と仲良くなった。
家は遠いが、気が合った。
私は、休みの度にその女の子の家へ出向いた。

渋い日本家屋の二階、日だまりの部屋。

いつもそこで、昼寝した。まだ漠然とし過ぎた未来に、イッチョマエに思いを馳せりして。気付いたらうつらうつら眠る。
するとね、暖かい部屋の窓から、あの甘い薫りが漂ってくる。
その時の自分の気だるい感じと波長があったのか、初めていい匂いに感じる。

「金木犀、薫るね」
友達が口にして、初めて名前も知って いつの間にか、その、タワワで黄金の木が好きになった。
秋を知らせる花。
三週間位前かな、駅に向かう道一瞬だけフワッと薫ったその花は 今じゃ街中で満開。

匂いって、色んなことを思い出させるから不思議。
記憶が勝手にやってくる。
お芝居でも、するはずのない匂いを見てる人に感じさせるとかって出来るのかな?ノスタルジックな感じとか。

私はそういうお芝居がみたい。自分でも、いつかそういうことがやってみたいな。