カルボナーラ男爵は567430980Pのダメージを受けた。

ペペロンチーノ伯爵は驚いた。

「え、俺まだ何もしてないっすよね?」

男爵は痛む左胸を抑えた。

「あ、うん。なんもしてないよ。昨日ちょっと色々あって。」

「結構弱いっすよね、精神的に。」

「そうね、みんな知ってるけどね。」

「とりあえず、クライマックスまで少しなんで頑張って戦いましょうよ。」

「よし、そうしよう。」

伯爵は腰の帯びた剣をすらりと抜いた。剣を両手で握ると下段に構える。男爵はアルデンテの剣を正眼ではなく上段に構えた。伯爵は様子をうかがい、男爵は攻撃を誘った。互いが見合ったまま実に一刻以上もの時が流れた。後ろで見守るナポリタン姫も、ジェノヴェーゼもただただ息を飲んでいるばかりだった。重苦しい時間が続いた。

男爵は思った。-この男、これほどやる使い手だったろうか-

伯爵は思った。-なんとなく下段に構えただけなのに-

両者、互いに見合ったままの時間が続いた。まさに世紀の一戦といえた。その時だった。

「まだ?」

ナポリタン姫の声が響いた。

「あのー、ずっと待ってるのはさすがにだるいんで、何とかならないですか?ツマンナイし。」

男爵はその言葉を無視した。女が男の戦いに口をはさむなんざ言語道断だと思った。ところが、伯爵は違った。伯爵はあっさりと「ごめんね。」といった。「じゃすぐ始めるね。」とも言った。どうしようもない男だ。

刹那、轟音とともに部屋の奥から大量の水が流れ出た。ジェノヴェーゼが貯水タンクの堰を切ったのだ。水は見る見るうちに部屋いっぱいとなり、二人の足の自由を奪った。

「こ、これは。」男爵は動揺した。これでは、足を使った間合いの取り方も、飛ぶ事も不可能だった。

「ふふふ、どうだ男爵。貴様の剣はその華麗な足技の動きによって成り立っているもの、それを封じられた今、成す術はあるまい。」

足の自由がないのであれば、正眼に構えていることはリスクが高かった。

そこで剣を上段に構えなおすと伯爵を誘いの間へと誘導しようとし始めた。そうは問屋が卸すものかと伯爵は正眼に構えなおす。

しかし普段、剣の稽古をしない伯爵の腕は、正眼に構えたと同時くらいにはもう、乳酸がたまりだるくなってきていた。その時、一瞬伯爵に隙が生じた。男爵がそれを見逃すはずがなかった。

「覚悟しろ伯爵!南斗水鳥拳奥義・飛翔白麗!」男爵はアルデンテの剣を背負い、両手で水面を叩くその力で虚空へと舞い、空中で剣を抜き、伯爵めがけて振り下ろした。

紅く燃えるアルデンテの剣に思いを込めた男爵の一太刀が伯爵を襲う。伯爵はそれを交わそうと剣を振るう。しかし、伯爵の剣は無残にも折られ、宙を舞う。アルデンテの剣が伯爵の右肩深く振り下ろされる。

ザン!!!!!!!!!

「ま、まさか…。完全にパクッてくるとは…。北斗の拳ファンにおこ…ら…れる…よ。」

伯爵の体が、がくっと力を失い水の中に落ちようとする。男爵はそれを左手で支え起こす。

「男爵よ、話しておかなくてはならない事がある。最後の願いと思って聞いてくれ。」

そう言って、ペペロンチーノ伯爵は話を始めた。