明け方近くになってようやくカルボナーラ男爵は眠りに落ちた。それは唐突にやってきて、酷い夢を男爵に見させた。


「男爵!男爵様!カルボナーラ男爵様ぁ!」


誰かが男爵を呼んでいた。男爵は声のするほうを必死で見つめた。

濃い闇の中にナポリタン姫の姿があった。姫は古ぼけた椅子の上に座らせられ、縄で縛られていた。

(実際はメイドカフェごっこしてるんだけどね。)

姫は必死の形相で男爵の名を呼び助けを求めていた。どこからどうみても悲劇のヒロインにしか見えなかった。

この1年で磨かれた彼女の演技力はものすごい迫真の何かを男爵に訴えかけた。



「男爵さま、早く私を助けて。私、あんなロリコン変態中年のお嫁さんになんか死んでもなりたくない。スクール水着を誕生日に贈ってよこすようなあの眼鏡男のことなんかどんなに頑張っても好きになれない。男爵、男爵さま。早く、早く来て…。」


男爵はガバッと布団をはねて飛び起きた。


「…演技か。あ、いやいや、そうじゃないや。えー、と。あ。夢か。」

男爵は前身汗だくだった。東の空が白み始めていた。もう、出発の支度をしたほうが賢明だった。姫の訴えが演技であれ本心であれ、この国を救うには姫を取り戻し、王位継承者となるしかないのだ。

そのとき、部屋のドアがノックされた。

「王子。大丈夫ですか?ボロネーゼです。」

「入れ。」

ドアが開いてボロネーゼが入ってきた。暗闇のせいか背が低いせいかすぐにはボロネーゼを見つけられなかった。

「ボロネーゼ?」

「はい、ここにおります。」

ボロネーゼはベッドの脇でひざまづいていた。

「背が低いんだから、余計な事すんなよ。探しちゃったじゃん。」

「あ。すいません。それよりかなりうなされていらっしゃいましたが大丈夫ですか?」

「ああ、酷い夢を見た。迫真の演技だった。」

「演技?」

「あ。いや。なんでもない。」

「そろそろ出発の支度をなさいますか?」

「そうだな。もう夜が明ける。」

二人は一旦めいめいの部屋へと戻り、支度を始めた。

最後の戦いが待ち受ける、アラビアータの塔を目指して。