国王の怒りは居並ぶ100名余りの文武官の心臓を凍えさせるほどだった。謁見の間に移動したあとも怒りは止む事がなく、周りに当り散らし手をつけることが出来なかった。

「何たる事だ!あんなへっぽこ侍にまんまと姫を連れ去られるとは!ぬぅ、許せん。許せんぞ!!」

コンキリエは、何とかリガトーニ王の怒りを静めようと殊更落ち着いたふうで話し掛けた。

「国王陛下、どうかお気をお鎮めになってくださいまし。連れ去られたとはいえ、場所もわかっております事ですし、すぐに救出の手筈を整えて…。」

「おぬしがそのような悠長な事でどうする!」

その時、居並ぶ家臣の列を掻き分けてカルボナーラ男爵が玉座の前に踊り出た。

「国王陛下。」

「おお、カルボナーラ男爵ではないか。」

「お願いがございます。どうか、私めに姫の救出をお申し付けくださいまし。」

「一人で行くと申すか?」

「はい。もとはと言えば、あの時わたくしがとどめを刺さなかったのがそもそもの間違いの始まり。ここはひとつ、わたくしにお任せくださいませんか?」

「コンキリエよ、どうじゃ?」

「それは願ってもないこと。いま、近衛兵は疫病の影響でそれほどたくさんの兵士が揃わない状況。ここは男爵の武勇を持って姫を是非取り戻していただきたい。」

「ふぅむ。宰相がそういうのなら仕方ない。では、そのほうに任せよう。しかし、くれぐれも油断するでないぞ。」

「は。ありがたきお言葉。わたくし、この名にかけて必ずや姫を連れ戻して見せましょうぞ。」

コンキリエは、不安げに男爵を見、こう言った。

「しかし男爵、アラビアータの塔の事はご存知かな?」

「と、いいますと?」

「あの塔は、五層からなる塔で、中に階段は一つきり。しかも、ペペロンチーノ伯爵はその塔の一階毎に,

なんでも魑魅魍魎の類を住まわせ自身は最上階に陣取っているとのこと。つまり、伯爵と戦うためにはまず、その魔物どもと戦い勝ちつづけなければならんのだ。しかも、やつらには普通の武器では歯が立たぬ。特別な武器が必要なのだ。」

「特別な武器?」

「その事はわしから話したほうが良かろう。」

リガトーニ王はそう言うと、ゆっくりと椅子に座りなおした。

「今から200年前のことじゃ。このアマトリチャーナの建国者ブカティーニ大王はこの地に潜む魑魅魍魎と戦うため、伝説の剣アルデンテを手に入れた。大王はその剣を縦横に使いこなし、魔物を駆逐しその魂を封印すべくスパゲッティ渓谷の奥地にある大岩に剣を突き立て、王国の繁栄を後々までのものとした。その剣は、正当な王位継承者にしか持つ事が許されず、また使いこなす事も困難なため、過去に何人もの人間があの刀に触れたために命を落としておる。つまり、あの剣を岩から引き抜き、使いこなす事が出来るものだけがこの国をあんずる事ができるという証明でもあるのじゃ。分かるか、男爵よ。」

カルボナーラ男爵は知っていた。自分が、このリガトーニ王の子ではないかということを。もし、その噂が本当なら剣を使いこなし、姫を助け、この国に再び平和をもたらす事ができるのは自分だけだということを。

「国王陛下。もう一度、お願いをいたします。わたくしに、姫を救出させてくださいまし。その伝説の剣アルデンテを手に入れ、魔物を駆逐し必ずや姫を連れ帰りこの国に平和をもたらして見せましょう。」

謁見の間は、どよめきと歓声が響き渡った。

「おお!そうか、では、姫の事、よろしく頼んだぞ。もしも剣の事でわからない事があれば、スパゲッティ渓谷の中ほどにポモドーロ翁という老人が住んでおる。かのものに何でも聞くが良い。」

「は!」

かくして、伝説の剣アルデンテを手に入れる旅が始まった。そして一刻も早く姫を救い出し、この国に平和を取り戻さなければならないのだ。そう胸に誓って立ち上がるカルボナーラ男爵であった。

ゆけ、カルボナーラ!この国に再び平和と笑顔を取り戻すために。戦え!カルボナーラ男爵!!