リガトーニ王は威厳を取り直すように大きく一つ咳払いをし、玉座に座りなおし右のひじを肘掛に乗せ体重をややかけた。身体が大きいせいか、それだけで威圧感があり謁見の間は一種の緊張感のようなものに包まれた。そのころあいを見計らって、王は重い口を開いた。
芝居がかっているといえば確かにそう見受けられる一連の動作だった。
「両名に問う。そのものたち、どのような方法で姫の婿たる資格を手に入れる所存か?」
二人はほぼ同時に答えた。
「決闘にて。」(カルボナーラ男爵)
「じゃんけんで。」(ペペロンチーノ伯爵)
リガトーニ王は上手く聞き取れず、もう一度聞きなおした。
「ん?その方法とは?」
今度は男爵がさきに答えた。
「決闘にて、選ばれるがよろしかろうと存じます。」
ペペロンチーノ伯爵は「えー!?」という顔で男爵を見たが、全く相手にされなかった。
「伯爵よ、そなたも異存ないか?」
リガトーニ王の問いかけに伯爵はついジェノヴェーゼを振り返った。
ジェノヴェーゼはこういう時冷たい男で、振り返るのが分かった段階でそっぽを向き知らん顔をした。伯爵もさすがに呼ぶわけにはいかず、悔しそうに王のほうへ向き直り小声で「じゃ、決闘で。」と言った。
「よし!では一刻の後、闘技場にて決闘を行う。両名のものは決して卑怯なマネはせぬよう堂々と戦うように。」
王はそういい残して席を立った。
伯爵は突如として立ち上がってジェノヴェーゼの元へと向かい、その胸ぐらをつかんだ。
「おい、お前、何を考えてんだ!俺が男爵とやり合って勝てるわけがないだろうが!」
ジェノヴェーゼは全く慌てることなく、むしろ不気味なくらい落ち着いていた。
「伯爵、このジェノヴェーゼに万事お任せを。既に策は打ってあります。」
「な、何?策だと?」
「お気づきになりませんでしたか?侍女の中にアランチャを忍び込ませてあること。御覧なさい、姫君の横を。」
伯爵は、ハッとして振り返った。そこには今まさに謁見の間を退出しようとしているナポリタン姫のすぐ後ろを、伯爵のくノ一、アランチャが付いて行っているのが見えた。
「ジェノヴェーゼ、お前…。」
ジェノヴェーゼはその顔をひどく歪めてにやりと笑った。
「伯爵が形勢不利になった時には、アランチャが姫を連れて逃げる手筈を整えてございます。ご心配なく。」
伯爵はそれでも不安をぬぐえないようだった。
「しかしな、ジェノヴェーゼ。あのアランチャはこないだも1mにもならない垣根を登りそこねて任務に失敗したばかりだし、大丈夫だろうな?」
これにはさすがのジェノヴェーゼも一瞬顔を曇らせたがすぐに気持ちを切り替えた。
「ご安心下さい、伯爵。今回の任務の重要性については懇々と説明してありますゆえ大丈夫かと。」
伯爵はほくそえんだ。
「ふふ、ジェノヴェーゼおぬしも悪よのう。」
「伯爵様こそ。」
二人はそう言って、時代遅れな高笑いをした。