ここは、スパゲッティ渓谷の最深部。
悠久の大地ヴィーノ・ロッソを南北に縦断する大河フィオーレはアマトリチャーナ王国のある平野部を過ぎると、深い森へと入り、スパゲッティ渓谷へと向かう。
その最深部に伝説の剣アルデンテは眠っている。
その昔、まだこの平野が開かれぬ未開拓地だった頃、アマトリチャーナ王国の建国者ブカティーニ大王はこの地に巣食っていた魑魅魍魎の類をたった一人で制圧し、ここに200年の栄華を誇る国を築き上げた。
その際、魑魅魍魎の魂を鎮め、国の繁栄を願ってブカティーニ王はこのスパゲッティ渓谷の最深部にある大きな岩に剣を突き立て、今後二度と争いが起きぬようその力を封じ込めたといわれている。
そしてブカティーニ王はその岩の番人として渓谷の中間地点に占星術師ポモドーロを置き、剣に触れる者のないように未来永劫の命を手に入れる薬を与え住まわせているという。
ポモドーロ翁は不吉な予感をぬぐう事が出来なかった。この2、3日というもの木々はざわめき、大烏が不気味な群れをなし中空を飛び交い、動物たちは忽然として森から姿を消していた。翁はその原因を探るべく、側用人のチポッラ(水野○弥)を呼び町へと向かわせていた。チポッラは4日ほど城下町を歩き回り、情報収拾に努めたあと大急ぎでこの小さな屋敷へと舞い戻った。
「ポモドーロ様。」
「ああ、チポッラか、うん、どうした?」
「町にて様々な情報を集めてまいりました。」
「うん、で?」
「どうやら、リガトーニ王は亡くなられたニ王子に代わって、パンチェッタ嬢が産み落としたカルボナーラ男爵を王位後継者にするとの由。」
「ほほ。それなら王家の血を継ぐ者。問題はないじゃないか。」
「それがでございます。正妻の子でない子を急に世継ぎにするのが憚られたのか、王は国民より王となるものを公募しその中から決めようと。」
「な、なんたること!もし、血筋でないものが王位を継承するような事になればどうするつもりか!」
「左様にございます。しかし、最終締め切りの段階で候補はたった二人。」
「カルボナーラ男爵と?」
「ペペロンチーノ伯爵でございます。」
「よりによって、あの男か。」
「ご存知でいらっしゃいますか?」
「あの男は以前、アルデンテの伝説をどこかで聞きつけこの渓谷の奥へと踏み込もうとしたのじゃ。そのときはたまたまわしがここにいたので何とか阻止したが…。どちらにせよ、また争いが始まるのじゃな。それが理由であったか、剣が異様な雰囲気を醸し出し森がざわめいておったのは。」
「は。」
「では、きっとどちらかのものがこの渓谷へ来るじゃろう。男爵ならよいが。この国に安定をもたらすものだけがあの剣にふれる事が出来るのじゃ。チポッラよ、おぬしは今一度町へと向かい、男爵と伯爵の動向を探ってくるのじゃ。」
「かしこまりました。」