私の両親の出身地で、子供の頃、何度か遊んだ島根県は、人口減少で産業も少ない地域である。

ウェブを見ていたら米子の公認会計士の伊木隆司氏のブログ(2007年8月24日)に興味深い記述があった。


「古い産業が衰退していくのは、日本全国どの地域でも見られる現象だと思う。益田市に建設されたグラントワには、当地を代表する「石州瓦」がふんだんに使ってある。

それを販売する会社が、数年前、産業再生機構によって再生されたが、今年に入り再び経営悪化し、結局倒産した。

田舎で会社を経営していると、どうしても「情」というものに流されやすくなる。しかも、経営者たちは、それを「仕方ない」と思っているケースが多い。

しかし、「情」というものが一体どれだけ経営に役に立ったか疑問に思う。非情だけど合理的な経営判断で難局を乗り切ることと、自己満足な「情」で結局会社をだめにするのとどちらがいいか、経営者は常に判断しなければならない。

そういう合理的判断というのは、山陰の経営者は苦手にする傾向があるが、新しい時代を切り開くのに必須の思考法である、それを助言して差し上げることが私の使命なのだろうと、最近思っている。」


伊木会計士は、意思決定で「情」にながされることを問題としているが、実は、誰でも人には、同様の弱点がある。特に、先進国の中でも、日本の組織文化は、独特で人間関係や空気を読むことが、重要視されてきているからである。

上司が規則を破るような指示を出しても、人間関係の悪化を恐れ、議論を避け、言うべきことを言わなかったり。

 

すべては、「人基準」文化の問題なのである。

「人基準」では、従業員を努力では変えられないか、変えることが難しい要素の「出身、性別、年齢、学歴、経歴、姻戚関係、人間関係など」に基づき、評価を行い、人に報酬を支払う。仕事に報酬を支払うのでなく、性別や年齢を見(評価して)て報酬を支払う。

反対に、「仕事基準」では、人(その属性)を見るのでなく、従業員がなす仕事を見て、その価値に応じて、仕事に報酬を支払う。仕事の評価はするが、人権問題となる人の評価はしないのである。

顧客にとっては、組織内部の人間関係や従業員の属性(学歴、年齢、姻戚関係、出身など)は、どうでも良いことであり、組織が創出する仕事の価値だけが重要なのであるから、その仕事の付加価値に応じて報酬を支払うべきなのである。

当然ながら、このような評価・報酬方法をとると、部長や課長よりも評価の高い社員が出てくる。

それで良いのである。

時には、難しい状況でも苦労をいとわず、仕事の価値を創出する社員の仕事をあるがままに評価し、報酬を支払う。年齢や肩書きなどどうでも良いのである。


そして、報酬には、概念上、上限がないため、非常にすっきりと開放された青天井の気分が、すべてに良い影響を与え始める。あたかも従業員に経営者魂が入った状況を創出できるのである。

従来黙っていた社員が、顧客価値のために議論を始める。社内は、風通しが良くなり、従業員皆が、自立、自発、自治の基本精神で、一気に経営者魂が入る。

対立した議論も、それは、自分のためではなく、顧客のためである。どうすれば、皆が顧客にとっての価値創造をできるかということを議論し始める。それは、彼らの報酬が顧客価値で決まるからである。


公共投資が減少しつつある東北地方で、前田卓三は、数百名の会社に仕事基準評価を入れたが、売上も利益も1割以上も増加させることができた。 すべては、個々の人間の底知れない知恵と行動の結果なのである。

私は、旧ソ連のカザフスタンやロシアで、公正な仕事基準という哲学を説いたが、数ヶ月で著しい経営改善が出始める。

旧ソ連でも日本でも、欧米でも、人間の基本的欲望は、同じである。

誰でも向上心や自立心を持つ。

誰でも、きちんと評価されたい。

 

しかし、

 

その評価が、顧客からの評価でなく、単に年齢だけで評価しても意味がない。

人への評価は、誰にとっても受け入れがたいが、仕事への評価は受け入れやすい。


自分の努力に応じて、顧客価値が評価されれば、動機付けが高まるのである。

(但し、努力そのものや過剰な労働は、仕事基準では評価すべきでない。従業員、一人一人が、常に何が仕事の価値かを考え、行動することが大切なのである。政府行政機関の慢性的な時間外労働は、適切な評価がないために、努力を見せるため職員が頑張ると言う、知的労働の浪費と言う面が大きい。)

公正さ、やればやるだけ、終身雇用を目指すとあれば、モーティベーションが上がり、やがては、組織全体の業績が向上する。

既に、解答はあるのではないか。

地方の中小企業の経営者の皆様!

「仕事基準」「付加価値報酬制」という考え方で、経営を改善してみてはどうだろうか?


http://iedi.org/across/

(日本を仕事基準にする会 コンサルタント 渡辺穣二)