ペダルをこぎ出すこと10分。長い海岸沿いの道が続いている。
ロードタイプの自転車とはいえ趣味の範囲を超えないミツオにとって、車に追い付くことは容易ではない。ましてや軽く1時間を超えてここまで来たのだ。なおさら厳しい。
がんばれ、オレ。心の中でつぶやく。
体力も限界に近い。
強い風音を撥ね退けてミツオの乱れた呼吸が聞こえ始めた頃、信号が視界に入った。青信号だ。
願いを込めて信号に言葉をぶつける。
「あか、あか、あか・・・あっ、よしっ!!」
信号は色を変えた。鮮やかな黄色、そして言葉をぶつけられて打ちのめされた赤。
小型トラックはミツオの願いを聞き入れるようにゆっくりと、とまる。
チャンス到来、猛スピードで追いかけた。息が切れ、肩が揺れ、自転車は左右に傾く、渾身のペダリング。
小型トラックがみるみる迫る、ペダリングをぎりぎりまで粘りブレーキをかけた。
がんばった、オレ。
がんばったミツオの二つの誤算は、追いついた所で何をしゃべるのか考えていなかった事と、乱れに乱れた呼吸。
小型トラックの運転席側から、ばっ、と出てきたミツオは運転していた男を捕らえた瞬間に
「が・ば・・りまっ・・し・・・」
人が急に出てきたのでビックリし横を振り向いた男は、意味不明な言葉とミツオのあまりの形相を捕らえて
「ハァ?」と言い放ち、男の目、眉、口が左右非対称に滑らかに動いた。
そこで誤算に気がついたが、もう遅い。
はっきりと男に聞こえたのは、強い風音を撥ね除けて聞こえるミツオの乱れた呼吸だけだった。