ージャンジャンバリバリー


と、うるさい音が鳴るパチンコ屋で開店早1時間半、ミツオは所持金を往復の電車賃と牛丼店の並盛りを残す程度に使い果たした。

今打ってる台に思いっきり憎しみパンチを打ってやりたかったが、そこまでの浅はかさと顧みない勇気を持ち合わせてはいないミツオは、哀愁漂う猫背姿でうるさい雷雲の巣を後にした。


所持金を何度確認したところで、奇跡は起こらず、猫背姿にのし掛かるのは牛丼店の並盛りの事実だけだった。



今日の天気は曇りだが、風が強い。ミツオはその強い風に惹かれた。ここ数ヶ月お金には苦労していたが意を決し、ビギナーズラックとやらに賭けてみたくなった。

この風は自分に吹いているのだと半ば言い聞かせ、欲が渦巻く雷雲の巣に勝負を賭けた。


結果は今の胃袋の中にある、悲しいかな美味しかった牛丼に要約されている。



店を出て、「ふぅー」っとため息をつき、ミツオは周りを見回した。たわいもない会話で楽しそうに笑ってるであろうカップルや、気品漂い、これからあたかも豪華なランチとしゃれ込むであろう中年女性の集団などを妄想しながら見つめていた。

いかんいかんと頭を振る。こういうときは自分以外の人間が幸せに見えるモノだ。楽しそうな笑顔、降りすぎた香水ばりに漂う気品などは見ないようにして、より一層の猫背でミツオは歩き出した。


しばらく歩くと左右に、都内では有数の家電量販店が軒を連ねる通りに出た。もっぱら身体を動かす事が好きなミツオは、家電などには興味がなくここまでわざわざ来ることはない。

どの量販店も店先には、グラビアアイドルばりの猛烈アピールともとらえられる大型テレビが並んでいる。チャンネルがそろっている量販店もあるが、不揃いの量販店もある。


何気なく大型テレビを見ていると一つの画面が飛び込んできた。番組とCMの間にあるお天気カメラが映す砂浜の映像。だが、遠目に見たこともない光景が移っていることに気がついた。


ほんの数秒だが…海面じゃないところでヨットが滑らかに動いていた?


雷雲の巣で所持金どころか視力まで注ぎ込んだのだろうと思い、もう一度意識を集中してみたが確かめる手前で、プリプリの唇ルージュのCMに切り替わった。


いつもならつい見とれる唇が、いまは煩わしく僕の心をプリプリさせた。砂浜はミツオの家からは距離があるが、一旦帰り、行ってみようと意を決し、強い風の後押しをもらうように駅に向かった。