私は、現夫との結婚を機に、5年前からマンションに住んでいる。
そのマンションには池があり、鯉が泳いでいた。
私は無類の生物好きなのでとても嬉しかったことを覚えている。
しかし、水は死んでた。
いや、死んでるというよりは、生きていなかったが近いかな。
どうも濾過装置は稼動していない。
藻だけが増えて鯉の姿も水面にこなければ確認できないほどの深緑の池を毎日眺めていた。
私は、現夫との結婚生活に色々な思いを抱えつつ、市役所でのパートや家事に明け暮れ、池どころではなくなっており、それでも私は毎日池に足を運び、鯉に話しかけてた。(周りに人がいないのを確認してから)
そんな折に、出版のオファー、そして現夫との別居からの、出版、保護猫活動が始まる。
そして2冊目の執筆に取り掛かった途端の、「私の存在排除」だらけの父の死だった。
苦しかったよ。
今も苦しい。これは無くならないやつだ。
だからね、苦しいままにしている。無くならないってわかるからね。
母とはこの件で縁を切ったよ。
それだけじゃない。
とても大切な娘とも離れることにした。
娘であることからも、母であることからも手を離すことを選んだ。
生んだことも、育てたことも、無くならないからね。
愛したことは無くならないからね。
でも苦しいのも無くならない。それはきっと向こうも同じだろうから。
色々な喪失の痛みを抱えたまま、池を見てた。
どれほど段取りして予約を入れても行けない天川村。
日時を決めて、行き先まで決めてもなぜか行けなくなるホタル鑑賞。
私のギックリ腰では行くことになる九州旅行。
説明すればするほど、やってあげたのに、が返ってくるやり取りに疲弊してた。
深緑に濁って視界もない池で泳ぐ鯉は、まるで私みたいだな、と思ったら笑えてきた。
濁った藻だらけの池から出ることもできず、ただ餌にぱくついて生きるしかない鯉が、私に見えて。
私は阿部宣男さんが16年に渡るホタル研究について書いた本「人の感性とホタルの光」に感銘を受けたことがある。
ホタルの乱舞を見たい、それだけの為に、ホタルの餌となるカワニナ(タニシの一種)を増やしたら、カワニナの大繁殖。
それでも、試行錯誤しながら生態系を作ろうとした阿部宣男さんの結論。
「生態系は人間が作るものではなく、生き物が作るもの」という言葉に撃ち抜かれたのだ。
私は、父を亡くしたばかりだったが、この池を再生させたい、という思いが頭から離れなくなった。
というのも、住民から「池を埋め立てる案」が出たからだ。経費削減、の気持ちはわかるが、埋め立てるのにも莫大な費用が発生する。
現在、年に2回の水換えだけが行われているが、それも4日と持たない。
しかし埋め立ては、最後の最後なんやないか、と私は思った。何もせぬまま埋め立てることにとても抵抗があった。
私は「濾過装置のない、藻の独り勝ちのこの水質を改善するには」と、延々と考えた。
そして私は、4枚の冊子を作り、「池再生プロジェクト」として理事会に提出した。
私の案はこうだ。
「池の30%の区間に柵を設置し、岩やネットに入れた玉砂利などでバクテリアを発生させる。その柵内には、大きな岩、中岩、玉砂利、砂のゾーンを作り、タニシやエビの生体ゾーン、水中植物のゾーンを作り、ソーラーエアレーションを設置し、藻の独り勝ちが改善されるのかの実験をしたい」
生態系は様々な条件が合わさってやっと整う、太陽系のようなものだ。
だからこそ、失敗はありえる。
だからこそ、実験をしたい、と熱量しかない冊子を提出された理事会も混乱したことだろう。
そこから2ヶ月。
ようやく理事会に承認された!
やったー!
概算表の提出やらも大変で、戦争の影響で材料が色々品薄だが、通ったのだ。
しかしここまでが本当に大変だった。
単なる悪口になるから書かないけど、伝わらないことがこれほど苦痛であることを改めて思い知らされることとなった。
その案が通るまでの間、私は2冊目の原稿を書き上げた。気づくととんでもなくデブになっていた。
そらそうだ。延々と書いて、父まで亡くなって、母と娘と疎遠にしたのだ。あとは食べることしか楽しくない。
眠りすら私を楽にはしてくれないしね。そもそも眠れん。
脱稿したことで解放された私は、脳動脈瘤中だけど、身体を動かしたくて、マンション内の雑草の草引きを始めた。理事長の捕獲男性と一緒に。
パートをそれぞれに決めて、私はあっちをやるから!と、泥と汗にまみれてやったら3日寝込んだ。
腕が上がらない、手が震えて物が持てない、痛い、起き上がれない。それもそのはず、私はずっと文章を書くことと保護猫活動しかしてこなかったからね。
それでも楽しかったのだ。
とてつもなく楽しかった。
太陽の下で土に触れて、虫を見て、空を見て。
どんどんと綺麗になっていくマンションの共用部。
こうなるともうやめられない。
湿布を大量に貼って、でかい帽子に首にはタオル。
誰得でもない、自分の楽しみのためだけにやる草引き。私は徐々に体力がついてきたのを感じていた。
湿布の数も減った。
今では貼ってない。
毎日3時間やっても、疲れない。
いや、間違えた。疲れる。だけど楽しい。
とうとう、マイ草刈りハサミをゲット。
クモだけが苦手な私は、ホムセンで、なんちゃって養蜂家みたいな帽子につける網を購入し、「クモかも、恐怖」を1段階減らすことができて、長靴もゲット。タイルの目地の雑草とりや剪定ハサミなど、様々なグッズが揃った。
そして住民に、業者に間違えられるに至る。
そんな時、父の笑顔が浮かんだ。
父は定年後、畑に異常な執念を燃やして、毎日チャリで朝から夕方まで畑に目を輝かせて行っていたなぁって。
そして毎日欠かさず日誌をつけて、植えた苗や、これからの計画、今の植えている図面、これから植える計画図面など20年書いてた。「キャベツの新種作る!」と意気込んでいたこともあった。
ああ。
私は立ち尽くした。
「お父さん、こんな気持ちやったんや・・・」
私は当時は、3人の育児とかDVとか火災とか色々で、父の畑には芋掘りなどで行くだけだったが、今の私ならどれほど楽しく草引きができただろう、と思ったら胸が苦しくなって息がしにくくなるほどだった。
それは父にもう会えない、とか、死んだとか、そうした喪失の気持ちよりも遥かに大きく私を貫いていた。
父の楽しい気持ちを腹の底から理解してしまったから。父の楽しい気持ち、ワクワク、こうしよう、こうしたい、あれはどうかな?という父の気持ちが、手に取るように理解できたから。
涙が止まらなくなった。
「お父さん、楽しかったんやなぁ」って。
父の具合が悪くなってきた3年前ぐらいかな?
母は父の畑を地主に返した。
畑を更地にしたのは弟だと母からの伝聞で聞いた。
畑を失った父はどんな気持ちになったのだろうか。
ただの推測に過ぎない。私は父ではないから。
でも私は今、草刈りと草引きをやめさせられたら、発狂してしまうかもしれないな、と考えるだけで胸が痛かった。
父以外が更地にするなら、早める必要があったのか、と思ってしまう自分を止められなかった。
お父さんがもしここにいたら。
きっと池のことも、草引きも草刈りも、「ええやん!」と言って一緒にしたんだろうな。
ただの妄想だとわかってるよ。
でも私にはわかる。父がそう言うって。
わかるんだよ。
私は娘だからね。
誰に排除されても、ね。
(捕獲男性の花壇でゲットした、ナミアゲハの幼虫、かわええ。苦手な人ごめんやで)
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(事前に2往復のメールのやりとりあり)
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モラハラやDVにはめっぽう詳しいです。
不登校や親子関係などの共依存関係にも強いです。
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