民事執行法の改正により、養育費の取り立てがしやすくなりました | 愛知市民法律事務所のブログ

民事執行法の改正により、養育費の取り立てがしやすくなりました

(事例)

A子さんは、2年前にBさんと離婚をしました。

離婚の際、養育費月5万円を払ってもらうという公正証書を作成しました。

しかしその後Bさんは養育費を支払ってくれなくなりました。勤務先や預貯金口座などもわかりません。

どうすればいいでしょうか。

 

 このようなA子さんの場合、債務者であるBさんが任意で支払ってくれないことから、強制執行手続(預貯金口座や給与債権の差押え)などで回収することが考えられます。

 

しかしBさんの勤務先や預貯金口座などが分からない場合、これまでそれらの差押えもできず養育費の回収が困難でした。

 

このような問題点を踏まえ、令和2年に民事執行法が改正されました。

 

養育費の回収に関しては、債務者の給与債権(勤務先)についての情報まで得られる手続ができたこと、公正証書も情報開示制度の対象となったことから、今後強制執行による養育費の回収の可能性が高まることが期待されています。

 

 

2 令和2年民事執行法改正のポイント

 

改正のポイントは大きく分けて2つです。

 

(1)債務者以外の第三者からの情報取得手続を新設

 

強制執行の申立てには、執行の対象となる債務者の財産を特定することが必要です。

 

平成15年に、債務者の財産に関する情報を債務者自身の陳述により取得する手続として、「財産開示手続」が創設されました。

 

⇒ しかし, 「財産開示手続」の利用実績は年間1000件前後と低調であり、債務者財産の開示制度の実効性を向上させる必要があるとの指摘がありました。

 

そこで、令和2年改正により、裁判所を通じて、金融機関等の第三者から、債務者の財産や勤務先等についての情報提供を得ることができるようになりました。

 

【情報取得手続の概要】

 

★1 金融機関から、①預貯金債権②上場株式、国債等に関する情報を取得

(銀行、信金、労金、信組、農協、証券会社等) 【新民事執行法207条】

 

★2 登記所から、③土地・建物に関する情報を取得 【新民事執行法205条】

 

★3 市町村,日本年金機構等から,④給与債権(勤務先)に関する情報を取得 【新民事執行法206条】

 

※ 給与債権に関する情報取得手続(上記④)は、養育費等の債権生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者のみが申立て可能です。

 

 

(2)財産開示手続の見直し

 

平成15年に創設された財産開示手続をより利用しやすく実効的なものにするため、以下の2点が改められました。

 

1 不出頭や虚偽の回答をした場合の刑事罰が新設

 

これまでにも財産開示手続はあったのですが、債務者が出頭しなかったり虚偽の陳述をした場合であっても30万円以下の過料(行政罰であり刑事罰ではない)が課されていただけであり、実効性の低さが指摘されていました。

 

そこで今回の改正では、債務者の不出頭や虚偽陳述等には刑事罰(6か月以下の懲役又は5 0万円以下の罰金)による制裁が科されることになりました。【新民事執行法213条】

 

不出頭や虚偽陳述の場合が犯罪となり、懲役や罰金の対象となることによって財産開示手続の実効性が向上することが期待されています。

 

★2 財産開示手続が使える対象を公正証書等にも拡大

 

改正前の制度では、財産開示手続の申立権者は、確定判決などの債務名義を有する債権者に限定されていました。

 

今回の改正では、申立権者の範囲を拡大して、仮執行宣言付判決を得た者や、公正証書により金銭(例えば養育費など)の支払を取り決めた者等も利用可能になりました。【新民事執行法197条】

 

例えばこれまでだと、本件のケースのように離婚時に締結した公正証書だけでは利用できなかった情報開示手続が、今回の改正によって利用できるようになったことになります。

 

3 養育費回収のための改正民事執行法の利用と注意点

 

このように、令和2年の民事執行法改正により、債務者の財産について第三者から情報提供を得られるようになったり、情報開示制度が利用しやすくなっています。

 

とくに今回の事例のように、公正証書で養育費の取り決めをしたような場合には、

 

1 市町村や年金機構から、給与債権(勤務先)についての情報提供を得ることができる。

 

2 公正証書がある場合でも情報開示手続を利用できるようになった。

 

3 情報開示手続への不出頭や虚偽陳述に刑事罰が科されることになった。

 

この3点から、特に今後強制執行による養育費の回収がしやすくなることが期待されています。

 

(注意点)

上記★1の勤務先についての情報を得るためには、公正証書などにきちんと「養育費」と明記されている必要があります。

 

例えば「解決金」といったあいまいな文言にしてしまうとせっかくのこの制度が使えなくなる可能性がありますので、養育費等について相手方と書面を交わす前に一度弁護士にご相談された方がいいかもしれません。

 

このような養育費の回収や、その他債権回収、強制執行等についてのご質問・ご相談は弁護士までお問い合わせ下さい。

 

(愛知市民法律事務所  弁護士 榊 原 真 実)

 

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