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2017-05-12 10:56:56

自営業者(事業所得者)の休業損害

テーマ:交通事故

自営業者の休業損害算出の際の基礎収入額

自営業者(事業所得者)の方の休業損害算出に当たっての基礎収入額(事故前の収入額)は、原則として、事故前年の確定申告所得によって認定するとされています。

 

年度間で収入に変動がある場合

年度間で収入に相当な変動があり、事故前年の収入のみを基に基礎収入額を算出することが不適切であると考えられる場合には、事故前数年分の所得の平均額を採用するなどして適切な金額を算出することになります。

 

固定費

自営業者の方の場合、事故のケガのために事業を休業している場合であっても、その場合の家賃や従業員賃金等のいわゆる「固定費」の支出は続けなくてはならない場合があります。

その場合の固定費は、「事業の維持・存続のために必要やむを得ないもの」であれば損害として認められるとされています。

また、自営業者自身が休業していた場合でも、代替労働力を利用して、事業の維持・存続がはかられた場合には、それに要した必要かつ妥当な額が休業損害と認められるとされています。

 

実際には申告所得を超える収入があった場合の取り扱い

自営業者の方の場合、「実際には申告額より多くの所得があった」との主張がなされることがあります。
この場合に、実際の所得額(申告外所得)が基礎収入として認められるには、かなりの確実性のある立証が必要となります。
基本的には上記のとおり、前年の確定申告所得が基本となりますから、これよりも収入があったことを立証するのは通常は困難が伴います。

もっとも、このような場合でも、経営の状況や生活状況などから、賃金センサス(平均賃金額)を参考に、申告額を上回る基礎収入額が認定される場合も中にはあります。
特に、申告額どおりの収入では生活を維持するのが困難と思われるようなケースでは、申告額を上回る基礎収入額の認定がなされることがあります。

 

確定申告をしていない場合

確定申告をしていない場合も、基本的には上記の申告外所得と同じことが言えます。
確定申告はしていないが、相当な収入があったことを立証できれば、賃金センサス(平均賃金額)を参考に休業損害が認定されることもあります。

 

現実の減収がない場合

事故後も現実の減収がない場合には、相手方保険会社等から「損害が生じていない」という反論がなされることがあります。
しかし、例えば妻や子などの家族の協力により減収を免れた場合や、事故前の営業活動の成果により事故後の休業中も所得の減収がなかった場合、事故後に所得が増加していても、事故前に受注した仕事をしていたためであった場合等には休業損害が認められていますので、このような事実を立証して休業損害を確実に得ることが必要です。

 

自営業者の方の場合の休業損害についてのご注意点まとめ

 

※保険会社が事故前年の所得を基に計算した賠償額を提示してきても、年によって所得に変動がある方の場合には、数年分の平均額を基礎収入額として計算した方が休業損害賠償額が増額する場合がありますのでご注意ください。

 

※申告外所得がある場合には、種々の証拠により現実の所得を立証する必要がありますので、専門家である弁護士にご相談ください。

 

基礎収入額をいくらと計算するかによって、賠償額合計もかなり変わってきますので、自営業者の方はぜひ一度弁護士にご相談ください。

 
 

愛知市民法律事務所

 
ご相談ご予約TEL:052-529-6155
 

 

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2017-03-21 14:23:06

【最高裁】令状なきGPS捜査は違法

テーマ:判決情報

最高裁は、2017年3月15日、令状なくして行われたGPS捜査は違法であるとの判決を出しました。

 

 

【事案】
被告人が複数の共犯者と共に犯したと疑われていた窃盗事件に関し,組織性の有無,程度や組織内における被告人の役割を含む犯行の全容を解明するための捜査の一環として,平成25年5月23日頃から同年12月4日頃までの約6か月半の間,被告人,共犯者のほか,被告人の知人女性も使用する蓋然性があった自動車等合計19台に,同人らの承諾なく,かつ,令状を取得することなくGPS端末を取り付けた上,その所在を検索して移動状況を把握するという方法によりGPS捜査が実施された(以下,この捜査を「本件GPS捜査」という。)。

 

【第1審及び原審の判断の要旨】


(1) 第1審裁判所(大阪地裁)は,本件GPS捜査は検証の性質を有する強制の処分(刑訴法197条1項ただし書)に当たり,検証許可状を取得することなく行われた本件GPS捜査には重大な違法がある旨の判断を示した上,本件GPS捜査により直接得られた証拠及びこれに密接に関連する証拠の証拠能力を否定したが,その余の証拠に基づき被告人を有罪と認定した。

 

(2) これに対し,原判決(大阪高裁)は,本件GPS捜査により取得可能な情報はGPS端末を取り付けた車両の所在位置に限られるなどプライバシーの侵害の程度は必ずしも大きいものではなかったというべき事情があること,被告人らの行動確認を行っていく上で,尾行や張り込みと併せて本件GPS捜査を実施する必要性が認められる状況にあったこと,本件GPS捜査が強制の処分に当たり,無令状でこれを行った点において違法と解する余地がないわけではないとしても,令状発付の実体的要件は満たしていたと考え得ること,本件GPS捜査が行われていた頃までに,これを強制の処分と解する司法判断が示されたり,定着したりしていたわけではなく,その実施に当たり,警察官らにおいて令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとまでは認め難いこと,また,GPS捜査が強制処分法定主義に反し令状の有無を問わず適法に実施し得ないものと解することも到底できないことなどを理由に,本件GPS捜査に重大な違法があったとはいえないと説示して,第1審判決が証拠能力を否定しなかったその余の証拠についてその証拠能力を否定せず,被告人の控訴を棄却した。

 

【最高裁判所の判断】


最高裁は、原判決(大阪高裁)の前記2(2)の説示に係る判断は是認できないとして、令状なくして行われたGPS捜査は違法であるとした

 

(1) GPS捜査は,対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,把握すべく行われるものであるが,その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,また,そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである

 

(2) 憲法35条,「住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ,この規定の保障対象には,「住居,書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。

 

そうすると,前記のとおり,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる(最高裁昭和50年(あ)第146号同51年3月16日第三小法廷決定・刑集30巻2号187頁参照)とともに,一般的には,現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから,令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。

(3) 原判決は,GPS捜査について,令状発付の可能性に触れつつ,強制処分法定主義に反し令状の有無を問わず適法に実施し得ないものと解することも到底できないと説示しているところ,捜査及び令状発付の実務への影響に鑑み,この点についても検討する。

 

GPS捜査は,情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の「検証」と同様の性質を有するものの,対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において,「検証」では捉えきれない性質を有することも否定し難い。

 

仮に,検証許可状の発付を受け,あるいはそれと併せて捜索許可状の発付を受けて行うとしても,GPS捜査は,GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うものであって,GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず,裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある

さらに,GPS捜査は,被疑者らに知られず秘かに行うのでなければ意味がなく,事前の令状呈示を行うことは想定できない。刑訴法上の各種強制の処分については,手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項,110条),他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても,これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは,適正手続の保障という観点から問題が残る。

 

これらの問題を解消するための手段として,一般的には,実施可能期間の限定,第三者の立会い,事後の通知等様々なものが考えられるところ,捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは,刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし,第一次的には立法府に委ねられていると解される。

 

仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば,以上のような問題を解消するため,裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じるが,事案ごとに,令状請求の審査を担当する裁判官の判断により,多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは,「強制の処分は,この法律に特別の定のある場合でなければ,これをすることができない」と規定する同項ただし書の趣旨に沿うものとはいえない。

 

以上のとおり,GPS捜査について,刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある

 

GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば,その特質に着目して憲法,刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。

 

(4) 以上と異なる前記2(2)の説示に係る原判断は,憲法及び刑訴法の解釈適用を誤っており,是認できない。

 

以上のように、令状なきGPS捜査は違法であり、今後GPS捜査を行うのであれば、立法的措置が講じられることが望ましいと判示した。

 

もっとも、本件の結論に関しては、

「しかしながら,本件GPS捜査によって直接得られた証拠及びこれと密接な関連性を有する証拠の証拠能力を否定する一方で,その余の証拠につき,同捜査に密接に関連するとまでは認められないとして証拠能力を肯定し,これに基づき被告人を有罪と認定した第1審判決は正当であり,第1審判決を維持した原判決の結論に誤りはないから,原判決の前記法令の解釈適用の誤りは判決に影響を及ぼすものではないことが明らかである。」

 

として、原判決を維持した。

 

【コメント】
本判決は、令状なきGPS捜査は違法であるとしつつ、GPS捜査の特質からすれば、現在法定されている令状によって行うことには疑義があるから、憲法及び刑事訴訟法の諸原則に適合する立法的な措置を講じることが望ましいとした点に特色があると言えます。

 

【関連記事】
2017年3月15日17時54分 朝日新聞デジタル

・・・・以下引用・・・・・・・・・・・・

 裁判所の令状なく捜査対象者の車などにGPS(全地球測位システム)端末を取り付ける捜査について、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は15日、「令状が必要な『強制捜査』にあたり、捜査は違法だった」との初めての判断を示した。判決は「立法で対処することが望ましい」とも言及した。

 

 GPS捜査について、警察庁は2006年6月に各都道府県警に通達したマニュアルで、令状なしでも実施できる任意捜査と位置づけ、捜査書類に残さないよう指示していた。昨秋からは令状を得て実施するよう事実上方針転換しているが、各地で争われた裁判で、令状が必要だったかについては判断が分かれていた。

 

 今回判決が言い渡されたのは、車を使った侵入盗などを繰り返したとして窃盗罪などに問われた男性被告(45)の上告審。大阪府警が令状を取らずに被告らの車やバイクにGPS端末を装着して捜査した。一審・大阪地裁は「令状なく実施したのは違法」と証拠の一部を排除しつつ、他の証拠で懲役5年6カ月の有罪に。二審・大阪高裁は令状が必要だったか明確に判断しなかった。

 

■新技術活用の根拠、立法促す

 GPS捜査は、違法な高速走行などで尾行逃れを繰り返す相手への対策として、有効性が高かった。犯罪捜査には一定のプライバシー侵害がつきもので、全く許されないわけではない。新しい技術を使って捜査機関が情報を得ることは、自白重視から客観証拠重視へと変わりつつある刑事裁判の流れにもかなう。

 

 それでも最高裁大法廷は、位置情報を網羅的に把握できるGPS技術の特性を重視。法律に根拠がなければ侵害できない「私的領域」を従前より広くとらえる踏み込んだ憲法解釈を示して立法を促し、捜査機関の乱用に警鐘を鳴らした。

 GPSに限らず、メールや防犯カメラ映像など、技術の進歩で個人が様々なデータを残すことは避けられない。憲法で保障された人権を守りつつ、捜査機関は明文化されたルールのもとで情報を扱うことが求められる。(千葉雄高)

 

■判決のポイント

・GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握するもので、プライバシーを侵害する。公権力による私的領域への侵入というべきだ

・私的領域への侵入は、憲法35条が保障する「令状なしに家宅捜索や所持品の押収をされない権利」を侵害する。GPS捜査は、令状が必要な強制捜査といえる

・車両や罪名を特定しただけでは、容疑と関係ない行き過ぎた行動把握を抑制できない。令状を出すには疑義があり、GPS捜査の特質に合わせた立法が望ましい

 

■岡部喜代子(学者出身)、大谷剛彦(裁判官出身)、池上政幸(検察官出身)の3裁判官による補足意見

 GPS捜査の法律ができるまでには一定の時間がかかるが、その間GPS捜査が全く否定されるべきではない。ただ、認めるとしてもごく限られた極めて重大な犯罪捜査で、どうしても必要な場合となる。裁判官がGPS捜査を認める令状を出すのは特別な事情がある場合に限られ、極めて慎重な判断が求められる。

・・・引用以上・・・・・・・・・

 

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2017-03-09 13:59:14

特別受益(生計の資本としての贈与)に当たる場合とは

テーマ:ブログ

遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判、遺留分減殺請求訴訟等で、

一部の相続人から、別の相続人に対し、

 

「相続人〇〇は生前に被相続人から生前贈与を受けていた」

 

と主張がなされることがあります。

 

すなわち、「特別受益」の主張です。

 

遺産分割や遺留分減殺請求の事案においては、一部の相続人が「特別受益」に該当するような生前贈与や遺贈を受けていたと認定される場合には、その贈与を受けた相続人は、その贈与を受けた分を一旦相続財産に戻す形にしてから各相続人への配当を計算することになっています。

 

どういった場合が特別受益に当たるかというのはよく議論になるところです。

 

特別受益については民法903条に規定がありますが、

 

「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは」

 

と規定しているだけで、「生計の資本としての贈与」とはどのような場合を指すのか、

必ずしも明らかでないためです。

 

「生計の資本としての贈与」とは、

 

生計の基礎として役立つような財産上の給付

 

を言うとされています。

 

 

贈与の額、趣旨からみて

 

「相続分の前渡し」と言えるような高額の贈与なのかどうか 

 

がポイントとなります。

 

 

「生計の資本としての贈与」として特別受益が認定される例としては以下のようなものが挙げられます。

 

・居住用の不動産の贈与

 

・居住用不動産の取得のための金銭の贈与

 

・営業資金の贈与

 

・借地権の贈与

 

・月々の多額の送金
(東京家裁審判平成21年1月30日
被相続人の口座から相続人に1カ月に2万~25万円の送金がなされていた場合に、1カ月10万円を超える部分は生計の資本としての贈与に当たり、1カ月10万円に満たない送金は親族間の扶養的金銭援助にとどまり、生計の資本としての贈与には当たらない)

 

・相続人の債務を被相続人が肩代わりして支払った場合に、被相続人が求償権を放棄したとみられる場合

 

・あまりに多額の生命保険
(他の相続人との間に生じる不公平があまりに大きくなってしまうような場合、例えば相続財産の総額が1億円で、一部の相続人が取得した生命保険金も1億円であった場合、相続財産の総額が8400万円で、生命保険金額が5100万円であった場合等は認められています)

 

逆に「生計の資本としての贈与」に当たらない とされるのは以下のようなものです。

 

・遊興費として使うための金銭の贈与

 

・扶養義務としての援助

 

・新築祝い、入学祝いなど、親としての通常の援助の範囲内でなされたお祝いのための贈与

 

・精神的要因又は身体的要因などにより稼働できない子に対する扶養義務に基づく援助

 

・生命保険金(他の相続人との間に生じる不公平があまりに大きい結果とならない程度の額。)

 

実務では、「相続分の前渡し」といえるほど大きな額かどうか、という「額」「程度」が重視されているように思います。

 

明確な基準があるとは言いがたいため、同じ争点に対しても裁判官によって結論が異なることもあります。

 

あまりに些細な贈与を細かく列挙して挙げるだけでは、成果につながりませんので、戦略的に特別受益の主張をする必要があります。

 

一方、相手方から特別受益だと指摘されている場合には、きちんと反論をしていく必要があります。

 

いずれにしても特別受益の争点があるケースでは弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

 

愛知市民法律事務所  弁護士 榊原真実

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2017-03-03 14:03:53

預金が妻の手元にある場合に婚姻費用の支払いを拒める?

テーマ:離婚

こんにちは。

愛知市民法律事務所の弁護士榊原真実です。

 

 

婚姻費用(婚姻中の生活費)の請求の場面で、権利者(ここでは妻とします。)が夫婦の実質的共有財産である預金を保有している場合、義務者(ここでは夫とします。)の側から、

 

「妻は預金を管理しているのだから、まずは預金を生活費に回すべきであって、預金がある以上、婚姻費用の支払い義務はない。」

との主張がなされることがあります。

 

夫が家に通帳を置いて家を出て別居を開始した場合、妻が通帳を持って家を出て別居を開始した場合などです。

 

この点、裁判例はどのような判断をしているでしょうか。

 

東京高等裁判所平成15年12月26日決定(婚姻費用分担審判に対する即時抗告事件)においては、夫のそのような主張を認めませんでした。

 

同決定は、
「抗告人(夫)と相手方(妻)との共有の財産とみるべき預金があり、これを相手方が管理しているとしても、その分与の措置は、財産分与の協議又は審判もしくは離婚訴訟に付随する裁判において決められるべきことであり、相手方においてこれをまず婚姻費用に充てなければならないという根拠はない。」

 

として、妻の方でまず預金を生活費に充てなくてはならないという夫の主張を採用せず、夫に月額7万円の婚姻費用の支払いを命じました。

 

また、仙台高等裁判所平成16年2月25日決定(婚姻費用分担審判に対する即時抗告事件)も、

 

「抗告人(夫)は、相手方(妻)は、まず、婚姻費用分担に先立ち共有財産の清算をすべきである旨主張するが、夫婦間の共有財産の清算は、両者が離婚に至った際に財産分与の形でされるべきものであり、その清算ができなければ、婚姻費用分担ができないという関係にはなく、かえって、相手方が共有財産を当座の生活費のために費消することを前提に婚姻費用分担金を定めることは、後の財産分与の際の法律関係をいたずらに複雑化しかねず、相当でない。」

 

とし、夫の主張をしりぞけ、夫に月額7万5千円の婚姻費用の支払いを命じました。

 

一方で、札幌高等裁判所平成16年5月31日決定(婚姻費用分担審判に対する即時抗告事件)においては、

「妻が管理している預金550万円は、別居から現在までの7カ月分の婚姻費用の分担額を優に賄うに足りるものであり、預金から住宅ローンの支払いに充てられる部分を除いた額の少なくとも2分の1は、夫が妻に婚姻費用として既に支払い、将来その支払いに充てるものとして取り扱うのが当事者の衡平にかなうから、現時点においては夫に婚姻費用分担義務はない」としました。

 

事案によってはこのような判断になることもあるようです。

 

この札幌高裁の件では、預金額が550万円と多かったこと、ここから婚姻費用に充てることができない場合には夫に酷となる状況であったことなどからこのような価値判断になったものと思われます。

 

もっとも、この札幌高裁の決定においても、「妻は預金全額を婚姻費用の支払いに回すべき」という判断にはなっておらず、住宅ローン支払い分を除いた預金の2分の1に限定して、婚姻費用の支払いに充てることを認めているにすぎません。

 

すなわち、預金の残りの2分の1は妻自身の持分と評価されますから、妻の持分である部分についてまで妻は婚姻費用として使わなくてはならないとは言っていません。


あくまで、夫の持分にあたる2分の1の部分についてのみ夫から妻への婚姻費用の支払いとして扱っていますので、誤解のないようにお願いいたします。

 

このように、「妻は持っている預金からまず婚姻費用に回さなくてはならないのか」という争点については、事案によっては、また、裁判官によっては、異なる判断が出ることもありえますので、十分な主張と立証が必要です。

 

婚姻費用の調停は当事者ご自身だけでも手続きをすることは可能ですが、一つの争点で主張が退けられるだけで月々の支払い額に大きく影響することがありますから、あなどることなかれです。

 

特に、このように難しい争点を含んだ事案では、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

 

(関連)別居の際の預金の持ち出しが違法になるか?はこちら

 

愛知市民法律事務所

弁護士 榊原真実

 

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2017-03-03 13:58:54

別居の際の預金の持ち出しが違法になるか

テーマ:離婚

こんにちは。

愛知市民法律事務所の弁護士榊原真実です。

 

 

夫婦が別居をする際に、夫婦の一方が、もう一方の名義の預金通帳などを持ち出して預金から金を下ろして生活費などに使う場合があります。

 

このような場合に、名義人である側から、「違法な行為だ」として、損害賠償請求などがなされる場合があります。

 

この点、裁判例では、

 

準共有あるいは財産分与として認められる蓋然性のある範囲での持ち出しは、

 

違法ではない

 

とされています。

 

 

参考裁判例1 
東京地裁平成4年8月26日判決


(事案)
妻が夫に無断で家を出て別居している。妻は、夫名義の国債、ゴルフ会員権、現金を持ち出して消費した。

 

(判旨)
債券は、妻と夫の婚姻中に形成された財産であると認められるところ、妻は、婚姻中専業主婦で収入を得ておらず、一家の生活費等は専ら夫の収入に依存していたと認められるので、右債券類は、婚姻中の夫の収入を原資として購入されたものということができる。

 

ところで、民法762条1項によれば、婚姻中一方の名で得た財産はその特有財産であるとされているが、夫婦の一方が婚姻中に他方の協力の下に稼働して得た収入で取得した財産は、実質的には夫婦の共有財産であって、性質上特に一方のみが管理するような財産を除いては、婚姻係属中は夫婦共同で右財産を管理するのが通常であり、婚姻関係が破綻して離婚に至った場合には、その実質的共有関係を清算するためには、財産分与が予定されているなどの事実を考慮すると、婚姻関係が悪化して、夫婦の一方が別居を決意して家を出る際、夫婦の実質的共有に属する財産の一部を持ち出したとしても、その持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させる等不当な目的をもって持ち出したなどの特段の事情がない限り違法性はなく、不法行為とはならないものと解するのが相当である。

 

なお、妻と夫の夫婦関係は破綻し、離婚と財産分与を求める訴訟が係属しているのであるから、夫婦の実質的共有財産であるゴルフ場会員権の最終的な帰属は、財産分与の際に決すべきものである。

妻が財産を持ち出した行為には違法性がなく、不法行為は成立しないとして、夫から妻に対する損害賠償請求を棄却しました。

 

参考裁判例2
横浜地裁昭和52年3月24日判決(判例時報867号87頁)


(事案)
妻と夫は、ともに土建関係の寮に住み込んで稼働し、夫の収入は全て妻に交付し、妻が二人の収入を管理して、夫名義の口座に預金を貯めた。収入は夫の方が多く、収入の差は著しかった。妻が家事・育児を担っていた。


夫名義の預金の額は約300万円であったところ、妻が家を出て別居をするに際し、150万円を妻名義に変えて持ち出した。

 

(判旨)
同居中に夫名義の口座に預け入れた合計金300万円は、夫と妻の共有に属し、その各持分は、民法250条により各2分の1であったと推定されることになる

 

このような場合には、この持分はその財産の取得に対する寄与の割合によって定まると解されるところ、寄与は稼働により収入を得ることに限られず、家事及び育児等も含まれると解すべきであるから、夫と妻の収入の格差は、右推定を覆すに足りない。

 

夫は、夫名義の各預金債権を夫の特有財産として取得したとしても、妻との関係では、これにより、本件300万円中妻の2分の1の持分を原告の名において管理するに至ったに過ぎず、さらに、貯金は利殖等のほか金銭の保管の方法としてなされるものであり、本件においてはまさにこの方法としてなされたものであり、金銭は没個性的なものであって、預金債権も又個性的色彩の乏しいものであるから、第三者との関係においてはともかく、妻、夫間においては、本件300万円が右預金債権にいわば変形しているというべきであって、妻は、右預金債権についても、夫に対し、準共有者としての二分の一の持分を主張しうる筋合であるといわざるをえない

 

として、夫から妻に対する損害賠償請求を棄却しました。

 
 

 

 
このように、別居の際に妻が夫名義の財産を持ち出した場合でも、少なくとも妻の持分に該当する2分の1の範囲内であれば、違法とはならないとされています。
 
もっとも、このように、夫婦の一方が別居の際に財産を持ち出した場合に、もう一方から返還請求がなされたり、不法行為だという主張がなされ、もめることはよく起こります。
 
また、夫の側から妻に対し、「預金を持っているのだから婚姻費用を払う必要はなく、生活費は預金から使うべきだ」という主張がなされることもあります(この争点に関する解説はこちら)。
 
別居の際の夫婦間のトラブルについては、直接やり取りをして互いに疲弊してしまう前に弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
 
 
愛知市民法律事務所
弁護士 榊原真実             
 
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