昨日、ホームページからお問合せを頂いたお客様のところに伺って、お話をしてきました。
埼玉の田舎、住宅街の中にひっそりとあるその会社は、めちゃめちゃ凄い製品を製造販売している。職人技の領域と言えばそうかもしれないが、そこにはちゃんとした技術的な裏付けが存在する。その「本質的な部分」はトップシークレットで、作業する従業員にすら教えておらず、その会社の会長とお会いした方の2名しか知らない(私にも詳細は話してくれなかった)。
その製品の市場はそんなに大きくないが、もう30年以上も市場を独占している。海外からの引き合いも多い。これまで特許など一切取ったことはないが、その必要もなかった。
ところが、最近の出来事がキッカケになって、その製品の市場が大きくなろうとしている。そんな中、とある情報をキャッチした。元従業員が、上記の「本質的な部分」の情報を探っているらしい。その元従業員は、おそらく真似しようと考えているのだろう。
従業員として作業した経験があるので、一番怖い存在。「本質的な部分」の情報を捕まれたら、同じ製品を製造できてしまうかもしれない。そこで、今のうちに特許を取って守れないか。
という相談でした(これだけでは伝わらないかもしれませんが...)。
まず、その製品を既に売ってしまっているので、新規性がなく特許を取ることができません。「製造方法」なら特許化の可能性もありますが、当然ながら、上記の「本質的な部分」を明細書に書かなければなりません。それによって、その「本質的な部分」を公知化してしまうことになります。
仮に製造方法の特許を取ったとして、他社が製品を真似する行為を本当に止められるかという問題もあります。他社が同じ方法で製品を製造販売する行為は侵害行為ですので法律上は止められますが、現実問題としては、他社が行っている製造方法の立証は極めて困難と思われます。コンプライアンス上の観点から他社が自発的に止めてくれればいいですが、そうでなければ止められない可能性もあると思われます。
仮に日本での侵害行為を止められたとしても、まだリスクがあります。すなわち、「本質的な部分」が公知化されてしまいますので、中国など海外で製品が真似される可能性があります。海外で特許を取ればという議論に進みますが、特に中国あたりで侵害行為を止めるのはさらに難しいと考えられます。
そもそも、特許は出願から20年で切れてしまいます。これまでその製品の市場を30年間独占できたのも、特許を取りにいかずに、ひたすら「本質的な部分」を秘匿化していたからだと言えるかもしれません。
という風に感じましたので、私なりの結論として「御社の製品を守るために特許を取りにいくのではなく、秘匿の状態を維持・強化する方がいい」とアドバイスしました。そして、秘匿の状態を維持・強化する具体的な方法を少しディスカッションし、「なるほど~」と納得して頂きました。
もちろん特許出願の話はなくなり弊所の仕事にはならなかったのですが、これで良かったんだと思っています。
あ~明日以降の仕事が...首をながーくして待ってま~すよん