もう論文試験まで2週間を切りましたが、受験生の皆さん、準備のほどはいかがでしょうか?


今日は論文試験直前ということで、論文答案「特許法第30条」について、かな~り深く書いてみたいと思います。論文試験受験生以外の方はスルーして下さい。



まず、次の問題の解答を考えて下さい。


甲は、独自に発明イを完成させたので、平成23年2月1日に、サーチエンジンで検索可能なインターネットのホームページに発明イを掲載した。甲は、本日(平成23年6月21日)、発明イについて特許出願Xをしようと考えている。この場合において、甲が特に留意すべき事項について、説明せよ。



おそらく論文試験の受験生であれば、30条1項の適用を受ける必要がある点に気付くでしょう。ここで、30条1項の要件をおさらいしておくと、


 ・特許を受ける権利を有する者が
 ・所定の行為を行うことで公知となり
 ・その日から6月以内に
 ・その者が特許出願をし
 ・所定の手続きをする


の5点ですね。これは、大丈夫でしょうか?



では、これを答案にどう表現するでしょうか?例えば、こんな答案を書く方がいらっしゃるのではないでしょうか?


甲は、新規性不備での拒絶を回避するため、新規性喪失の例外の適用(30条)を受ける点に留意すべきである。本問では、発明イの特許を受ける権利を有する甲が、電気通信回線を通じて発表してから未だ6月を経過していないので、甲は出願Xをするにあたり30条4項に規定する手続きをすればよい(30条1項)。


内容的にどこも間違っていないです。では、次に、以下の答案と見比べて下さい。


(1)発明イは、既にサーチエンジンで検索可能なインターネットのホームページに掲載されているので公知になっており、原則として特許を受けることができない(29条1項3号)。
(2)そこで、甲は、新規性喪失の例外の適用(30条)を受ける点に留意すべきである。この適用を受ければ、発明イは公知に至らなかったものとみなされるからである(30条1項)。
(3)甲は、独自に発明イを完成させているから、発明イの特許を受ける権利を原始的に取得している(29条1項柱書、30条1項)。甲は、発明イをインターネットのホームページに掲載しているから、電気通信回線を通じて発表している(30条1項)。その発表は平成23年2月1日にされているから、本日(平成23年6月21日)において発表から未だ6月を経過していない(30条1項)。したがって、「その者」(30条1項)である甲は、30条1項の適用を受ける旨を記載した書面を出願Xと同時に特許庁長官に提出し、かつ、その証明書面を出願Xの日から30日以内に特許庁長官に提出すればよい(30条4項)。


何が違うでしょうか?そう、赤字の部分です。具体的には、


 (1)原則→例外の流れになっているか否か
 (2)30条の適用を受ければよい理由(効果)が書いてあるか否か
 (3)要件を検討した過程(問題文に記載された判断根拠)が書いてあるか否か


です。上の答案では、結論だけが書かれていて問題文の条件は全く使われていないように見えます。極論をすれば、あてずっぽうで30条1項の条文をそのまま写したのと同じにしか見えません。短答試験を突破して論文試験に辿り着いた受験生であれば結論を導き出せて当然なのであって、論文試験では、どうしてその結論に至るのか、その過程を具体的に書くことが求められていると思います。


論文模試の採点をしていて余りにもお粗末な内容の答案が多かったので、ちょっと記事にしてみました。ヘビーな内容になってしまいましたが、この記事が論文試験の受験生のお役に立つことを願って止みません。