今日は昔読んで深く感じ入った、有吉佐和子さんの「和宮様御留」、これは江戸時代末期でしょうか、江戸に将軍がいて幕政を敷いて権力は一手に担いつつ、京都に天皇がいて、従前からの公家文化も形骸化しつつも残存し続けて、そんな300年?を過ごしていた日本に、ある日、ペリーが黒船でやってきて開国を迫り、新しい時代を受け入れるかどうかの激しい変化にいきなり晒されていた時代のお話。


公武一体論という、将軍家と天皇家が一体となって日本の危機に立ち向かうべきとする、その論の先鋒として、京都の和宮に江戸の徳川家への降嫁が持ち上がり、それからのドタバタを、身体的な不具の秘密を抱え、江戸の大奥に行って話題に取り沙汰されることを恐れる和宮、天皇の代替わりと共に公家社会であからさまな斜陽の憂き目に会って不満を募らせていた女達、和宮の降下を江戸城の大奥内の権力争いに利用しようとする女達、その他諸々の思惑渦巻く状況を活き活きと、まるで目の前で見ているかの様にドラマを描いています。


以前読んだ時は悲惨な運命を辿る少女をとにかく切なく苦しく読みましたけれども、改めて、いやこれは高度に女達の人生を賭けた息詰まる攻防の物語であり、周囲の、和宮の母親やお付きの女官達の焦りや懊悩、呻吟、感情の動きそのものこそが一番の読みどころだと思いました、とにかく一瞬の気の緩みも許されぬ舌鋒鋭いつ皮肉や嫌味の応酬が続く、男達も登場しますがハッキリ言ってこれということもなく、終始とにかく女同士の激しい戦いの物語です。


将軍家に降嫁する姫宮をどこかへ隠して替え玉を江戸城へ送り込むという大胆極まりないことを、克明に、本当にこういうことがあったんじゃないかというほどに真に迫った筆致で描き切っているのが凄い、実際にそういう噂話もあるそうで、歴史の闇を覗き込む様な感じもあり、最後まで全く目が離せない濃厚な女の死闘のドラマをこれでもかと堪能できます。