やっと、私の知ってる奥田英朗さんらしい、いや、それ以上に面白くてページをめくるのがもどかしい作品に出会えました、こういうのが読書の楽しみで、こういう出会いがあるから本を読むことはやめられない。


最初はこの犯人に同情的に、悪いと言っても決定的に悪いわけじゃない、物やお金のあるところから自分が生きるために必要な最低限のものを貰うだけで、もちろん犯罪ですけどバックボーンを考えたらむしろ応援したくなる、そんな気持ちで進んで行ったんですけど、全体の2/3を過ぎるあたりから徐々に、いや、そうじゃない、本人がそうと意識してなくても、むしろ本人が意識してないだけに余計に本質的に悪そのものなんだと、ジワジワと戦慄に襲われるようになります。


東京オリンピック直前の日本の大復興期、ただしみんなが一様に単純に豊かになっていった訳ではなく、とんでもなく酷いやるせない現実が引き続きあって、そして表に現れない強烈な、いや、本人に悪気がないにしてもこれは悪、それも犯した罪の重さも何も微塵も感じることのない、まさに絶対的な悪だと思いましたね、リアルにこういうことはあるのかもと思わされるのも流石でした。