我が家の息子コロ(ASD・不登校中)は、ゲームが無しではこの世で生きて行けぬ子である。

 

この世界に「友達」と呼べる子は1人もいないばかりか、不登校ゆえ同世代で話せる相手すら誰もいない。

 

そんな彼が辛うじて日々を過ごしていけるのは、ニンテンドースイッチの本体とコントローラー、出力するためのPCモニターがあるお陰なのだ。

コロにとっては、国宝よりも大事な宝物である。

 

それなのに。

コロは、自分の手で世界で一番大切にしているPCモニターを破壊してしまった。

 

 

原因は「スーパーマリオメーカー2」というソフトで、オンライン対戦をしていた際のトラブルらしい。

 


ちょうどその時、私は別室で仕事をしていたため、現場は目撃していないのだが……。


仕事部屋の扉が勢いよく開くや否や、コロが大泣きしながら入ってきて、「うわぁぁぁん!!ゲームの画面を壊しちゃったんだ!!僕がコントローラーを投げつけちゃったんだ!!マリオメーカーでアンチにいじめられてぇぇぇ!!」と何度も繰り返している。

 

 

私も思わず「うぇぇぇ?!」という声を出してしまったのだが、こんなに半狂乱になった状態でコロを怒鳴っても逆効果だと思い、ひとまず状況を確認することに。

 

PCモニターの画面を確認すると、窓ガラスが勢いよく割れた時のような亀裂が見事に出来上がっており、その部分だけが歪んだ光を放っていた。

 

「……ああ、こりゃ修理も無理だわ不安」ということだけは、機械に疎い私にでも即座に理解できた。

 

この件は私にはどうすることもできず、出社中の夫の携帯に「コロがPCモニターを破壊した」という一報を入れておき、夫の帰宅を待つことにした。

 

 

コロはもともと穏やかな性格の子で、「怒り」を表立って出すことはしなかったのだが、「マリオメーカー2」でオンライン対戦をするようになってからは、怒りの感情を出すことが増えてきた。

 

だから「ついにこの日が来てしまったか…」という心境である。


私は再三にわたり「そんなに嫌な気持ちになるんだったら、別のゲームで遊んだらいいじゃん。ちょっと不満」という、ごく平凡なアドバイスをしていたのだが、そんなアドバイスが小学3年生に通じる訳もなく、しばらく様子を見ていた最中の出来事だった。

 

 

それにしても、今回はPCモニターを破壊するほどの強い怒りだったということだけは、よく分かる。

 

火山が急に爆発すると甚大な被害が出るように、普段は表立って怒りを表さない人が怒る時のエネルギーは強烈なのだ。(夫もその傾向あり)

 

 

この日のコロの怒りはPCモニターの破壊だけでは収まらず、家の収納ケースをひっくり返したり、妹のオモチャまで破壊しにかかっていた。コロがケガをしたら大変だし、急いで押入れから布団を引っ張り出し、コロをグルグル巻きにした。

 

「はい、コロちゃん、ストップ、ストップ!!」

「キミが怒ってるのはよーくわかった。」

「アンチにいじめられて、嫌だったね。」

「でも、ストップだよ。」

 

布団でグルグル巻きになっているにも関わらず、コロは物凄い力で這い出して来て、なおもハコのお人形(メルちゃん)をぶん投げている。それをすかさず、またグルグル巻きにする。

 

「コロちゃん、ストップだよ。」

「今はね、コロちゃんの心に暴れ虫がいるよ。」

「暴れ虫が小さくなるまで、ストップだよ。」

 

コロが徐々に落ち着きを取り戻してきたので、背中をトントンしながら、今日すでに何十回も聞いた「マリオメーカーでアンチにいじめられてぇぇぇ!!」という言葉を受け止めていた。

 

 

日々SNSを使っている私も、言葉で殴り合うような酷いやり取りがあることは知っている。


マリオという比較的平和そうなゲームの中でも、人を陥れるような行動をする人だって当然いるだろう。それは、オンラインゲーム、ひいてはインターネットを使う者の宿命だ。


今後も「楽しく遊びたい」という思いが打ち砕かれることもあるし、その現実は受け止める必要があるだろう。顔が見えない相手だからこそ、とても難しい問題だ。

 

 

私は「コロの体と心が一番大事。コロちゃんが手の骨を折ったら大変だよ?しかも、コロちゃんの大事な宝物が壊れるのも、悲しいことだよね?」と言うのが精いっぱいだった。

 

コロも、自分が取返しがつかない事をやってしまったことは分かっている様子。

「僕、コントローラーを投げつけると、画面が割れちゃうって知らなかったんだ。ぐすん」と口にしていた。

 

心の中で「知らなかったんかーい!!ルネッサンース!!」と、私の中の山田ルイ53世が盛大にツッコミを入れていたが、口に出すのはぐっとこらえる。

 

 

たまたま、ハコが登園して不在だったこと、私のメンタルが比較的安定していたことが幸いして、コロの怒りをどうにか鎮めることができたけれど…。

これがハコが横にいて、私の体調が悪かったら、大惨事になっていただろう。被害は家中に及んでいたかも知れぬ。

 

コロが自分自身で怒りを鎮められたことを褒め、二人で呆然としながら、とりあえずチョコパイを食べた。こういう時の「ちょっと贅沢なお菓子」の存在は偉大である。

 

 


その後、夫が帰宅してPCモニターを確認するなり、「あっ、これはアカンやつ……真顔」と言って絶句していた。

 

何を隠そう、夫は自他ともに認めるPCマニア。PCパーツを買い集め、自作でゲーミング用のPCを組み立ててしまう男なのだ。

 

そんな夫が厳選し、迷いに迷って購入したモニターなのである。お値段も6万円という我が家にとっては超高額だったし、まだ4年ぐらいしか使っていない。

自分は10年物の古いPCモニターを使って、息子に高級PCモニターを貸してあげていた夫の喪失感は大きかろう。

 

「この件で一番ショックを受けてるのは自分かもしれない……。自分のモニターよりコイツが先に逝くなんて……。」と、モニターの早すぎる死を嘆いていた。

 

しかし、たぶん人間をやるのが3回目ぐらいな夫は「まぁ、コロちゃんがケガしなくて良かったよ。」という発言で締めくくっており、格の違いを見せつけていた。

 

 

そうは言っても、我が家に新しいPCモニターを買う余裕はないし、「コロが“壊してもすぐに買ってもらえる”という誤学習をしては困る」という方向は夫婦で一致。

 

しばしの話し合いの結果。

コロには、10年前に購入し、調子が悪くなってきたリビングのテレビをゲーム用のモニターとして使わせることになった。

 

 

ドケチな我々夫婦は、リビング用に新品のテレビを随分前に購入していたのだが、「どーせハコがオモチャをぶつけて壊すに決まってる!完全に壊れるまでは、新しいテレビはしまっておこう!!」と言って、物置に大事に安置していたのだ。

 

まさか、こんな経緯で新しいテレビがリビングに設置されようとは、一体誰が想像したであろうか。

 

こうして古いテレビはコロと共に、ゲーム用モニターとして余生を送ることになったのである。

 

 

これまで通りゲームができるようになったコロ、自分のやったことを棚に置いて「お父さんはいい奴だ。にやり」とボソリとつぶやいていた。


私の心の中の山田ルイ53世が「お前が壊したんやないかーい!!ちょっとは反省せぇ!!ルネッサンース!!」とツッコミを入れたのは言うまでもない。

 

コロには「2度はないぞ。もうわざと壊すんじゃないよ。」とキツめに言っておいたが、果たしてどうなることやら。

 

 

 

 

※物置に物悲しく置かれた(我が家にとっては)高級PCモニターよ。

 

 

※今日は、ハコが袋留めを破壊。これならまだ許せる(笑)

 

 

 

 

 


 

 

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 【余談ですが】


暴れている子をクールダウンさせる時に、わが子も自分もケガをしない対策として布団は有効かなと思いました。


コロを布団で押さえるという方法を思いついたのは、落語「風呂敷」を何度も聴いていたからかも。落語がこんな形で役に立つなんて驚きです(笑)

落語の内容とは全然シチュエーションは違うのけど、コロを押さえながら「あ、風呂敷みたいだな」って少し冷静になることができました泣き笑い

 


今年のお正月、NHKで古今亭志ん生師匠の「風呂敷」が放映されていて、ほっこりニコニコ