私の夫は毎年この時期になると暗い顔をするようになる。

 

…会社の昇進試験があるのだ。

残念ながらここ数年落ち続けて、万年平社員歴を更新し続けている。

 

だが、私は夫のことを、仕事の面で無能呼ばわりするつもりは断じてない。

むしろ夫は、有能社員ですらあると思う。

 

 

努力家だし、真面目実直。

危険物取扱、電気工事士、溶接管理者、消防設備の資格、難関のエネルギー管理士などなど…入社してから独学で様々な資格を取っている。(正式名称じゃなくてすみません)

定期的にPC雑誌を購入し、エクセルの関数やネット環境の知識などを誰よりも勉強している姿も涙ぐましい。

しかも、その知識を独り占めしないで、困っている社員さんにもシェアするから、結構頼りにされる存在だと、私も人づてに聞いたことがある。

 

 

が。昇進できない。

 

その原因は、昇進試験の課題が夫の能力と相反するものばかりが出されるという一点に尽きる。

 

昇進試験の課題は小論文とプレゼンテーションだ。

 

夫に決定的に欠けているものがコミュニケーション能力と文章力なのに、この課題は辛すぎる。


夫は、年賀状の余白に書く一言ですら、1時間に3枚ぐらいのペースでしか仕上げられないのに…。

※しかもメチャクソ悩んだ割には、「今年こそ飲みに行きましょう」とか下らない一言が書かれているレベル。

そんな彼に小論文を課すなんて、無茶ぶり過ぎて過呼吸になりそうだ。



 

夫は毎晩、「はぁ…小論文の下書きをしなきゃいけないのに、今日も出来なかった…」と凹んでいる。

平日も休日も同じセリフを吐いては、溜息をつきながら寝床へぼてぼてと去っていくのである。

見ているこっちが「もうっ、何て不健康なんだぁっ!!」と地団太を踏みたくなる有様だ。

 


しかも、万一会社の温情で昇進試験に合格したとて、夫はコミュニケーション能力が低すぎるし、他人に全く興味がないので、リーダーとして人に指示を出したりする仕事は全く向いておらず、最悪、メンタルを病む恐れすらある。

 

 

私が「もうさぁ、昇進しなくてもいいじゃん!大人になってまで、やりたくない勉強なんざ無理してすることないよ!」と慰めても、夫は形状記憶になってしまったドヨーン顔を崩さない。

 

「いやぁ…自分も全然昇進したくないんだけどさぁ、後がつかえてるから、お前が昇進しないとって言われちゃうしさぁ。しかも、昇進すれば給料が1割ぐらいアップするんですぜ?」と夫。

 

それを聞いた私は一瞬、目の玉が¥マークになりかけたのだが…。

※イメージ図⇒( ¥∀¥)チャリーン¥

「いやいや、給料が1割アップしたとて、キミが精神疾患になって働けなくなったら、そっちの方が問題なんだよ!!」と強く反論しておいた。

 

 

夫は数年前、仕事のプレッシャーからうつ病を発症し、通院と服薬を経て、約3年かけてようやく寛解したのに。

無職の私が言うのも何だが、夫のお給料が今のままだろうと、ボロ賃貸に住み、粗食に甘んじれば生きて行くのに十分な金額を頂いている訳だし、心と体の健康を引き換えにする事なんかないんじゃないかと思うのだ。

 

 

もちろん、部下に的確な指示を出してリーダーを担う才能がある人は、正しく評価されて、しかるべきポジションを与えられるべきだと思う。


私はバカなので、単純に「適材適所、共存共栄でいいんじゃね?」と思ってしまうけど、ダメなのだろうか。


夫はリーダーには向いていないが、裏方にいれば、きちんと能力を発揮できるヤツなのだ。


「これでいいのだ」って、バカボンのパパも言っていたのだ。

 

 

発達障害と診断されてもいない夫ですらこんなに苦労しているのに、自閉っ子の息子が将来、社会人としてやっていけるのか…。


ニュースなどで、「採用担当者が社会人として最も重視する能力はコミュニケーション力」などという情報が入ってくるたび、もはや息子は採用すらされないんじゃないかとブルブル震えてしまう。


今から余計な心配をしまくっている母なのであった。