先日、野毛のお寿司屋さんでのこと。
ご主人の口から出た言葉に、思わず箸を落としそうになった。


かの有名な落語家がお店に来たのだそうだ。
その人の振る舞いはこれといって問題なかったのだが
その取り巻きたちの偉そうに取り仕切った風が
何とも腹持ちならなかったらしい。

「廊下とんびみたいにうろうろしやがってよぉ」

と、舞台俳優も羨みそうな実にいい声で
横浜弁を操るご主人のその発した言葉。


廊下とんび


その言葉を耳にした瞬間、釣り上げた魚が私の目の前で
ぴちぴちと飛び跳ねているかのようなそんな生命力を感じた。


もう一昔も前のこと。
某研究所で日本語(漢字)に対する親密度を測定する実験があり
私は被験者だった。

日本語のさまざまな単語にどれだけ馴染みがあるかを
1~7段階で主観的に評価する。
PC画面に表示される単語を、視覚で受け取って判断するパターンと
画面表示に加えヘッドフォンから聞こえる音から判断するパターン。
確か、そんな仕組みだったように思う。

ラボの中には私の他に数名。
各自がお昼と若干の休憩を挟みながら、
1日9時から5時まで5000~6000語を粛々と消化。
この作業は3ヶ月間続いた。

この間、それまで一度も観たことも聞いたこともない日本語を知った。
まったく意味の分からない言葉は、家に帰って辞書を引いてみた。
そんな言葉のひとつが「廊下とんび 」だった。


この言葉を実際に、そして普通に使う人を初めて目の前にして
ちょっぴり感動。

とかく死語に括られがちなこの言葉。

しっかり生きている。