京都歴50年近くになるフランス人の父が帰国した。

 

いろいろ事情があっての帰国だが、ノルマンディーに行くのにまずパリで一泊する事に。

 


 

 

本人はホテルに泊まろうかとも言ってくれてたし、気を遣ったんだろうが・・・

 

コロナ関連で、普段以上にピリピリする私。

 

 

 

着いてすぐ、手を洗ってもらうが、その直後マスクを厭味ったらしく外さないでいるから「別に外してもいいで」と言うと、嬉しそうに、べしゃっとマスクの表面に手をつけて、外して、戻して、外して、と、孫娘にいないいないばぁをする。

 


手ぇ、洗ったところやん・・・そのマスク、日本からつけっぱなしのやつやん・・・・チーン

 

 

 

 

もうその時点で嫌悪感が沸き始め、「あ、これ、明日まで大変やわ」と気づく。

 

 
 
 

1歳になる娘が最近口でブーブーするのにはまってて、それを見てデレデレの父は

 

「ブーブー、上手やね、パッパッもできるんか?パパパ!!!ブブブブー!!」

 

と目尻を下げながら負けじと唾を飛ばしたりチーン

 
真似せんでいいねん・・・

 

 

 

 

朝、コーヒー淹れようとケトルを手にして、

 

「うわ!なんやこれ!!」

 

と叫んで唐突にに注ぎ口に(きったない)指をつっこんでコスコスし始めたりゲロー

 

「カビか!?なんか白いのが!!」
 
とか言うが、ちゃう!!ちゃう、それ、白いのはカルキや!ここ、フランス!カルキや!!あんたの汚い指の100倍無害なカルキや!!!!
 
と、思わず口にしてしまった。
 
父はムスっとはしたが・・・
 
ほんま何触ったか分からへん手を注ぎ口にこすりつけるとかやめて・・・チーン
 
 
 
 
 
買い物についてくるとか言うけどふと玄関で父を見たら、前日着いた時にしていたマスクと同じのを着けてるし・・・
 
「え、それ、まさか、日本からずっと着けてたやつ?」
 
と言うと、堂々と、「せやで」とチーン
 
「え、でも布マスクって飛行機あかんのちゃうん!不織布の使い捨てのじゃないとあかんのちゃうん!」と聞くが、「別になんも言われへんかったで?」とキョトンとしている・・・。
 
 
 
 
「とにかく、一度使った布マスクは洗って!今回は使い捨てのんあげるし!」と言うと、ムスッとしながら、「使い捨てのも持ってるし」と・・・
 
靴を履いたまま取りに行こうとするチーン
 
やめて!靴!娘、ハイハイするし指しゃぶりもすんねんから!ゲロー
 
 
 
 
 

そういう些細な苛々ポイントを散々ばら撒かれた末、昼過ぎ、ようやく行かはるわ・・・と思ってると、ガラガラガラ・・・と音が。

 

嫌な予感がして振り返ると、スーツケースを引っ張って玄関まで持って行ってる・・・

 

え・・・なんで・・・キャスターが汚いって発想はないん・・・
 

指摘すると、「え、じゃぁ何、手に持って運べとでも??」って・・・

 

当たり前やろ!ゲロー

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以外にも、父の宇宙人っぷりは健全で大分振り回された。

 

晩、父が何かをしゃべってる時、まったく、本当にまったく何の話をしているか察する事が出来なかったが、それでも話し続ける父をぼんやり聞きながら、「あ・・・なんか、シュルレアリスムの世界にトリップしてる・・・」と感じた。

 

彼の話を理解しようとするとイライラするのは分かっている。

 

シュルレアリスム文学の一段落やと思えば・・・

 





父の話から何らかの情報を得ようと真面目に聞いてると、途中から狐につままれたような気分になる。


呆然とするほど、言葉の羅列が意味をなさない。


古典文学のアグレジェでフランス語自体はなかなかしっかりしているはずなのだが・・・

 


 

 

 

 


本当に、本当に変わった父だ。

 


私が(手を洗えと言うせいで)独裁者並みだと周りに愚痴ったりはするが、それでもかわいい孫に会わせてもらえるためか、指摘をすれば一応聞き入れてくれる。

 

だから、私もつい、うまい事注意すればうまい事行くんじゃないかという錯覚に毎回陥っているのだが。

 

斜め上の事をされまくってどっと疲れる。

 

 

 

 

 

 

子供の面倒を見るのは疲れると言うが、


私は父と数時間過ごす事の方がよっぽど疲れる・・・

 

 

 

 



 

そんな父も、日本から色々持って来てくれた。

 

そのうち、一つが、父に対してピリピリしている私の心をものすごい威力で癒してくれた。

 

一保堂のお番茶。




 

私の祖母もずっと買っていたというお茶。

 

私もこれで育っている。

 

母がよく「お番茶は色々あるけど、やっぱ一保堂のが美味しいわ」と言っている。

 

お茶の良い悪いはよく知らないが、パリのキッチンから久しぶりの香りがふわっと漂った時、思わず涙腺が緩むのを感じた。

 

あぁ、これや、この匂い。

 

懐かしい。

 

一気に京都の実家に引き戻される。

 

こんなに日本行ってへんのは人生で初めてや。

 

あかん、泣きそう、ってなる。

 

安心感と切なさと懐かしさが詰まった香りだ。

 

 

 

 


 

 
 
 
 


 
疲れと癒しがどっと一気に押し寄せた半日だった。