蔵色散人が何故
魏長沢を好きになったかといえば
江家で初めて彼を見て
言わば一目惚れだった
少し面長の輪郭に切れ長の目
鼻筋は高い方ではないが
顔の輪郭に対して丁度良い高さ
両頬も位置と高さが揃い
彼の顔を一層端正に見せている
唇も厚くもなく薄くもなく
それらは抱山散人の弟子達とは
全く違う顔立ちで
蔵色散人は世の男はみんなこんな
顔立ちと思っていたが
魏長沢を見た時
こんな美男子がこの世にいるのだと目が釘付けになった
一方的な想いを寄せるも
魏長沢には全く相手にされない
そんなある日
急に夜狩りに
行く事になった江家の弟子達
だが運悪く江楓珉は
抜けられない用ができ
夜狩りに行けない
そこで魏長沢に
弟子達で何とかなるはずだから
いざという時だけ
と付き添いと蔵色散人が無茶を
しないようお守りをと頼み込んだ

江家の弟子達と蔵色散人と
お守り役の魏長沢は
夜狩りへ行く事に

民家がチラホラある辺りの
奥まった所に木々が鬱蒼と
生い茂りそのまた奥に社があるが
社といっても廃れていて
今では何も祀られていない
その辺りに着くと
もう怨念の渦巻く空気に
弟子達は気をやられ
吐きけや目眩でその場に棒立ち
風がザワザワと吹き始め
木の葉が舞い散る
それは鋭い刃のように
弟子達の足や腕、頬を傷つけた
蔵色散人は木の葉めがけて
呪符を飛ばすが
それではいくら数があっても
足らない

(誰かが操っている)

そう思う魏長沢は
日が沈んでしまわないうちに

(そいつを見つけなければ)

と、灯籠の上に飛び乗ると
そこからピョンと木の枝に移り
枝から枝へと
飛び移りながら高い位置で
辺りを見回す

丁度、社で死角となっている
見えない位置に生気のない
老男がしきりに呪文を放っていた
魏長沢は気配を消し
そのそばまで近づいたが
老男はとっくに気づいていたのだ
一番生きの良い魏長沢の
生気を吸い取る魂胆

魏長沢が手にした細身の剣
しなやかさと鋭さを持ち
剣を繰り出し老男を
追い詰めて行くが
老男の手も自由自在に伸び
魏長沢の首に手をかけ締めていく

剣の激しい音がする方に
駆け寄る蔵色散人
首を締められている魏長沢を
見つけ
老男の気をそらそうと
何の役にも立たない呪符を
投げつけて
それが上手く老男の目を覆うように張り付いた瞬間
蔵色散人は老男に体当たりし
魏長沢に

「何してるの!
早くとどめを刺して!」

その叫びに剣を拾いあげ
魏長沢の剣が老男の急所に
体は黒い煙となり消滅した
それと同時にザワザワと
吹いていた風もやむ

腰が抜けて立てないのか
ヘナヘナと座りこんでいる
蔵色散人の手を取り
立ち上がらせると
思わず抱きしめた

「君、無鉄砲すぎるよ
でも、君のおかげで
みんな助かった、ありがとう」

蔵色散人を毛嫌いしている
わけではなかった
魏長沢には
太陽のように明るい彼女は
まばゆい存在で
どう接して良いのか
わからなかっただけ

初めて男性に抱きしめられた
蔵色散人は
これはもう彼も私の事を
好いていると早とちりし
夜狩りの後
魏長沢にまとわりついていたが
一向に煮えきらない態度に…

(いいわ、魏長沢!
明日、はっきりさせてやるから)

次の日
船着き場に向かう蔵色散人

続く