先週末から今週前半は、これも言ってみれば「死ぬまでにしたい10のこと」の一つに入るであろう、Roland Garros(テニス4大大会の全仏オープン)を観戦しにパリへ行っていた。全仏オープンは4大大会の中でも最もチケットが取りにくい大会で、私のアクションが遅かったのもあって、日本を発つ時にチケットが取れていたわけではない。頼みの綱は、現地のホテルのコンシェルジュだった。

夕方チェックインしてすぐにコンシェルジュ・デスクに立ち寄り、チケットを買いたいとメールしていた者だが、と伝える。「ブラックマーケットだから手に入るかどうかわからないけど、やってみる」とのことだったが、その日は連絡なし。
翌朝またデスクに寄ってみると、前日とは違うコンシェルジュ二人が勤務。一人に事情を話すとポケットから名刺やらメモの束を出し、何人かに電話をしだす。しかしチケットはない様子。すると今度はもう一人のコンシェルジュが胸から電子手帳を取出し、また方々へ電話、そしてセンターコートのチケットを見つけた。正価が53ユーロのチケットが200ユーロで、高すぎるから交渉すると言い、150ユーロまで値切ってくれた。

ダフ屋はホテルに出入りできない。従ってチケットは相手の指定する場所まで取りに行かなくてはならない。交渉成立から20分後に場所を知らせる連絡があり、指定された住所をもとにコンシェルジュが地図を出し、目的地に×印をつける。そこは普通の家で、大きな窓が二つあるという。窓をノックして、チケットと現金を交換する手筈だ。コンシェルジュが、「そう、ジェームズ・ボンドがやるみたいにだよ」と言う。私が「ノックは二回?」と聞くと、「そう二回、最初は長く、二回目は短く」とコンシェルジュ。ウィットに富んだやりとりの後、タクシーで目的地に向かい、その民家とおぼしき建物の窓越しに、チケットと現金を無事交換。

試合は男女とも第一シードのフェデラーとシャラポアの試合を見ることができた。合間に女子ダブルスを見たり、お祭り気分も楽しかった。

コンシェルジュにできないことはない。しかも宿泊したホテルのコンシェルジュは、伝統あるコンシェルジュ協会レ・クレドールの会員だ。その名にかけてお客様の希望を何としてもかなえなければならない。そんなプロ根性とプライドを感じた。そしてオマケとして007ごっこも提供して、お客様をスリルとサスペンスの世界へいざなうことができれば、まったく申し分ない。