景品交換所のおじさんは


「アンタ、この景品輪ゴムで止めてあったのはどうした?」


と聞いてきたのです。

そうでした。

貰った景品は確かに輪ゴムで止めてありましたが、私は家でボールペンを開封した時に、輪ゴムを外してしまったのです。


「すいません、輪ゴム、外しちゃったんです」


正直に言うしかありませんでした。


「困るよそういう事されちゃー…次からそういうことはしないでよ」


ぶつぶつと言いながらも窓口の向こう側でガチャガチャと景品の数を数える音がして、それからトレイがやっと私の目の前に差し出されました。


それは、信じられないものでした。


目の前のトレイには14600円。

私に差し出されたのです。




当時、私は専門学校に通いながらアルバイトをしていました。

好きな仕事でしたがあまり割りのいいアルバイトではなく、平日は夕方の二三時間しか入っていない事もあって

月収にして3万ほどしか収入になっていなかった頃のことです。



そんな当時の私が、非常な遠回りをしたとはいえ、一瞬にしてこの金額を手に入れたのです。

ついさっき、5分で1000円を使ってしまった事なんて頭から消え去っていました。



景品のボールペンは1本200円だった事に後から気づきました。

西陣織は1000円、金メダルは5000円だったようです。

私は1本のボールペンの景品は箱を破損してしまっていたので捨てていたのです。

他のケースを開かなくて本当に良かった…と思いつつ、200円損している事も大した事ではないように思っていました。


本当なら、14800円分だったのに…惜しいことしたな、と思っていました。

14800円も儲けた!!

とにかくそのことに興奮していました。



すでに、そのロジックに落とし穴がある事に当時の私は気づいていません。

儲けた純益は本来手にした


14800円分のメダル交換できたうち


最初に投資した-1000円

景品破損損失-200円

交換に来たその日一瞬でなくなった-1000円


この時点で既に純益は12600円なのです。

(確かにそれでも大きな収入ではありましたが…)

けれど、その事に気づかないほど、私は浮かれていました。



私が「パチンコ屋」の魔に取り憑かれたのは、まさにこの瞬間だったと言えるでしょう。








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弟に驚くべき話を聞かされ、もう二度と行く事もないだろうと思っていたパチンコ屋さんにおそるおそるまた足を向けたのはそれから二三日後のことだったと思います。


でも、いきなり景品を持って交換してください、とウロウロするのもためらわれました。

手元の景品がいったいいくらになるのか全く見当がつかなかったのですが、多分5000円くらいにはなるんじゃないのかしら…甘いかな、などとまた色々考えつつ、パチンコ屋さんの表の入口から入ったのです。

一応、また店に行って私は1000円使いました。

ここでまた少しでもメダルを増やして景品をゲットして、その時にカウンターのお姉さんに

「交換はどこでできますか?」

と尋ねるつもりだったのです。


今度は5分もせぬうちに撃沈しました。

そのことにもびっくりしました。

元々ゲームセンターのメダルゲームくらいしか知識のない私にとって、1000円あればせめて30分くらいは遊べるんじゃないのかなあと思っていたのです。


けれど、そのまま帰るわけにはいきません。

家から持ってきた景品をとにかく交換しなくてはわざわざ来た意味がないのですから。

でも、聞けない。

パチンコ屋さんの人をどうして怖いと感じていたのかはわかりません。

でも、その時の私は尋ねるという事がどうしてもできなかった。


意味なくなんとなくウロウロしていると、他のお客さんがカウンターで交換しているのが見えました。

今日は前回の時と違って結構お客さんも入っていて、カウンターも盛況のようです。

おじさんやおばあちゃん達が、私の持っているモノと全く同じ景品を持って同じ出口に向かうのが見えた時、やっと私はパチンコ屋さんの仕組みというものを知る事になったのです。



薄暗い、交換所。

そこに景品を差し出すと、中から無造作に現金が返ってくる。

二人目のおばあちゃんの時も同じように景品を窓口に差し出すと、まもなく現金が出てきているのが見え、あそこが私にとっての最終目的地だという事がわかったのです。



慌ててカバンを漁り、私も前のおじさんと同じように景品を窓口に差し出しました。

しかし、なぜか私の時だけ中でごそごそと数を数えたりしているのはわかるのですが、なかなかお金が出てこないのです。



何故だろう…とドキドキし始めた私に向かって


「ちょっと!!アンタ!!」


中から太いだみ声のおじさんの声がしたのです。

ギョッとしました。





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私の手には、プラスティックの容器に入ったボールペン、そしてよくわからない金色のメダルが入った箱、そして西陣織のような織物で作った小さな小銭いれのような袋の入った箱の三種類のケースが輪ゴムで無造作に止められた塊がありました。

しかも、その箱のどれもがくすんだ中古風の品です。


この景品を欲しいがために、皆はパチンコやスロットをするのだろうか…


その時、疑問に思ったら聞けばよかったのです。

でも、パチンコ屋の雰囲気は一種独特でした。

係の人もなんとなく怖い感じがして、聞きづらい。

あのお姉さんにもう一度聞くのも恥ずかしい。


ひょっとして、何も言わないお客さんには適当な品物を寄越すようになっているのかな…。

ああ、1000円も使ってこんなしょーもないモン手に入れたって意味ないじゃん!!



損した損した!!

そう思いながらかばんの中にその塊を押し込んで店を後にしました。



何も知らなかったとはいえ、今思い出すと失笑モノですね。


でも、そのまま何も知らないですめば、私の人生はもっと違ったものになったかもしれないのに---と今ではそう思います。


持っているのもウザイようなその景品のボールペンを一本ケースから取り出してみたものの、インクがつきません。中身も古びています。

あああ、損した。ゴミじゃんこれ!!


またそんなことを考えながらも、基本的に捨てるという事をしない私はそのゴミの山の塊を自分の部屋の本棚にポンと置いていました。


本棚の隙間の支えにちょうど良い幅だったからです。


こうして、景品は私の部屋に放置されていました。


転機が訪れたのはそれから約半年ほどのことでした。


弟が私の部屋の本を借りに来て、その景品を指差し言ったのです。


「前から気になってたんだけど、これどこの景品?なんで交換してないん?」


「交換?」


「交換所詰まってたとか?早く換えに行ってきたらいいんじゃない?」



弟の口から次から次へと未知の単語が飛び出してきます。

知ったかぶりをしながらも、理解できたのは


「この汚い景品がお金に変わるのだ」


という驚愕すべき事実でした。