自民が大敗しようが国民民主がキャスティングヴォートを握ろうが関係なく、国民としてこれだけは許してはいけないものがある。それは紙の保険証からマイナ保険証への完全移行だ。

 

なぜ許してはいけないのか。それは簡単な話で、保険証を紐づける肝心のマイナカードの所持があくまで任意だからだ。わが国は国民皆保険制度国家であり、個々人がその被保険者たる事実を持たなくても良いはずのカードでしか証明出来ないなどというのは論理矛盾であると同時に、完全に制度矛盾なのである。

 

政府は自ら設定したその矛盾を放置したままで強硬策を進めた結果、さらなる自己矛盾に見舞われてドロ縄式の制度変更に暇が無くなってしまった。その動きそのものが、この政策が如何に不合理であり、ゴリ押しする政府が悪知恵を絞り出すのにどれだけ躍起になっているかを示す証拠となっている。

 

マイナ保険証を持っていない人に交付される「資格確認書」。限定的だった代替保険証の交付対象が広がっている。さらに政府は最近になって積極周知に切り替えた。
 
そこには、12月に控えた現行の健康保険証廃止への不安を払拭したいという政府の思惑がのぞく。ただ、資格確認書の活用を強調するほど、保険証を廃止する意義は薄れていくばかりだ。
 
あくまで任意が前提なのだから、政府も最初からそのカードに保険証を完全集約など出来ないと判っている。判っていながら紙の保険証を廃止すると言い張るのだが、その言い分だって結局通らないということも政府は重々承知している。だからマイナ保険証を持たない人に対して限定的に、「紙の保険証は廃止するが、代わりに資格確認書を配布する」などという言い訳をして繕うことになったのだ。
 
ところが後になってさらに、マイナ保険証を持っている人に対しても資格確認書を配布することにしたのだという。
 
厚生労働省は9月になって、マイナ保険証を持っている75歳以上の後期高齢者の一部にも、資格確認書を交付することを決めた。 
この健保では交付漏れを懸念し、加入者全員に資格確認書を交付することも検討していた。ところが、方針に反するとして厚労省が認めなかった経緯がある。
 
厚労省は9月の変更について「暫定的な運用」と断った上で、「後期高齢者は情報技術(IT)に不慣れで、マイナ保険証への移行に一定の期間を要する」と説明する。

 

 
ITに不慣れだとか、そんなどうでもいい理屈で後出し小出しにするところが「いかにも」なのだが、そんなもん最初から漏れなく配っておきさえすれば、被保険者がマイナ保険証持ってればマイナ保険証を、持ってなければ資格確認書を使うという当たり前の運用が出来たはずなのだ。
 
そもそもが任意のマイナカードに絡む政策ゆえ、正しく合理性を検討すれば保険証の運用は被保険者の任意性に委ねるという解に集束して然るべきである。にもかかわらず原則廃止を急ぐという悪知恵でマイナカード普及を画策したものだから、そのツケを自ら払うという間抜けな結果になっているだけだ。
 
いわゆる「資格確認書」に纏わる変遷だけでも、以下のとおりずいぶんと間抜けだ。
 

 

最初はわざわざ申請が必要だと言っていた。有効期限も1年と小出し。

(これを、国民が「早くマイナカード作らなければ!」と焦るよう仕向けるための「あからさまな悪知恵」だと断じてどこがおかしいのか)

 

それがあとになって申請不要ということになり、マイナカードの更新忘れへの対応にも資格確認書を交付、75歳以上の後期高齢者の一部へも配布するという風に、どんどん変わっていった。

 

保険証を廃止するからマイナ保険証が必須になるぞと、悪知恵にまかせて声高に宣言しつつ、さもなければ資格確認書というシロモノを手にする必要があるから、

 

「相当面倒だぞ!」

「たぶん面倒だと思う」

「面倒なんじゃないかな?」

「ま、ちょっと覚悟はしておけ」

 

的なノリでトーンダウンするという、これぞニッポン政府一流のバカさ加減を示す茶番であり、自業自得の成り行きである。

 

悪知恵のなかでも最高に傑作なのは「万が一病院受付でカードリーダーが使えない場合はどうするのか?」に対する政府の回答だ。上述の資格確認書とは別に、こんなものを用意したのだと言う。

 

 

Q 機械の不具合や停電などによって、カードリーダーでマイナ保険証の読み取りができない時はどうすれば良いですか。
 A 今は、代わりに現行の健康保険証を窓口で提示すれば保険診療を受けられます。
 現行の保険証が使えなくなってからは、マイナ保険証と一緒に、「資格情報のお知らせ(資格情報通知書)」という書面を窓口に提示してください。

 

資格情報のお知らせ(資格情報通知書)とかいうまさかの新アカウントが登場?w マイナ保険証の券面には資格情報の表示が無いから、これをマイナ保険証と一緒に提示すれば良いのだと言う。こんなもん、ほとんど資格確認書の成り済ましとしか思えないのだが、そこは一応線引きをしていると政府は言い張っている。

 

◆「資格情報のお知らせ」はマイナ保険証とセット

 Q 資格情報のお知らせとは何ですか。
 A マイナ保険証を持っている人が、自分が加入する保険組合などの資格情報を簡単に把握するためのものです。
 A4判の書面で、保険証の番号などが記載されています。氏名や保険情報が書かれた部分を切り離し、持ち歩いて使用することができます。
 加入する健康保険組合などから交付されます。中小企業の社員や家族が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)は、9月から発送を始めました。国民健康保険は、現行の保険証の有効期限が切れる前に送付する予定です。
 
 Q 資格情報のお知らせだけ提示しても受診できますか。
 A マイナ保険証とセットで提示しないと受診できません。マイナ保険証の券面から、まず本人であることを確認する必要があるからです。
 ちなみに、現行保険証の廃止後、マイナ保険証を持っていない人に交付される「資格確認書」は、単体で利用できます。

 

資格確認書は単体使用可能だが、資格情報のお知らせはマイナ保険証とセットでしか使用出来ないそうだ。それならマイナ保険証の有無にかかわらず漏れなく資格確認書の方を配っておいた方がむしろ利便性は高い訳で、わざわざ「資格情報のお知らせ」なんて枠組みを設けること自体が不合理ではないか。で、もしマイナ保険証が読み取れない時に「資格情報のお知らせ」を持っていなかったらどうすれば良いかというと、

 

Q マイナ保険証が読み取れない時に資格情報のお知らせを持参していなかったら、どうすれば良いですか。
 A 医療機関に頼めば「被保険者資格申立書」という書面をもらえます。申立書に氏名や加入している健康組合などを記入し、窓口で提出すれば受診できます
 または、マイナ保険証を提示した上で、マイナンバーカード取得者向けのサイト「マイナポータル」にアクセスし、保険の資格情報が載った画面を見せることでも受診できます。
 
だそうだ。このように、あれやこれや、手を変え品を変え、結局は様々な代替手段を用意しなければならない事態に至っているのだ。
  • マイナ保険証不所持者全員に「資格確認書」の配布が必要となる不合理
  • 電子証明書更新忘れのマイナ保険証所持者に「資格確認書」を交付する不合理
  • マイナ保険証所持でもITに不慣れな高齢者には「資格確認書」を持たせる不合理
  • マイナ保険証の読み取り障害時に「資格情報のお知らせ」が必要となる不合理
  • 「資格情報のお知らせ」不所持の場合、「被保険者資格申立書」による申請またはマイナポータルの資格情報画面提示が必要となる不合理

今ざっと見ただけでもこれだけの不合理が浮かび上がって来たのだが、これらはすべて唯一最初の、「任意必須を紐づける」という大いなる不合理にぶら下がっている。これら不合理をそれにかかる費用で勘定したらいったいいくらになるのか。従来の紙の保険証を維持することにより発生する損失に比して、どれだけコストカットが出来るというのか。政府は結局、自分で自分の首を絞めているだけだと思う。

 
最後にせっかくだから、およそ不合理の最高峰を可視化しておいてやろう。
現行の紙の保険証を廃止して、代わりに交付されることになる資格確認書というものの実態がこれだ。

 

 

川崎市は7日、国民健康保険(国保)の保険証を送るはずだった市内497世帯561人に対し、現行の健康保険証がマイナ保険証に原則一本化されることに伴い発行される「資格確認書」を誤って送付した、と発表した。資格確認書は12月2日の一本化まで使えないため、市は返送を呼びかけている。 

 

 
左が現行保険証。右が誤って送付された資格確認書。その内容を見れば、要は券面において名称を変えただけなのは明らかである。
 
我々国民は、どうしてこんなバカなアイデアに付き合わされなければならないのだろうか。
 
政府はマイナカードを普及させたいがためだけに、わざわざこの保険証を廃止すると言うが、あらゆる証拠が示す通り、マイナ保険証所持者であれ不所持者であれ資格確認書を配布しておく方が運用上合理的であり、さらに言えば券面の名称変更などにコストをかけず、元の保険証のまま維持していくのが最も合理的なのである。つまりそれは、わざわざ現行の保険証を廃止する必要など無いという結論に他ならない。
 
以上のように、政府は「デジタル庁」「医療DX」などと銘打って名目上「デジタル化」のための施策を打ち出しているが、実のところ政府に足りないのはデジタル化ではなく、圧倒的に合理化なのだから、今も将来も黙って見ているだけでは絶対に何も良くならないのが確実だ。
 
したがって、国民は今後の政局がどう動こうとマイナ保険証への完全移行にNo!を突きつけ、政府にその不合理政策を撤回するよう迫り続けなければならない。
 
すくなくとも俺は現時点でマイナンバーカードを作っていないし、今後もマイナ保険証のためにカードを作ることなど絶対に無いと言い切っておく。