藤井王将3度目の先手番は、まさに息が詰まるような大激戦となっている。
圧倒的な先手番勝率を誇る藤井王将にとっては順当に勝ち星を取りたい一番なのだが、今シリーズでかつての輝きを取り戻した羽生九段はそう簡単な相手ではなかったようだ。
俗に「藤井曲線」と呼ばれる評価値のグラフが、いつもとは全く異なる動きを見せている。
藤井曲線とは、AIが弾き出す藤井側の戦況評価が常に右肩上がりとなる現象を指す言葉。
一旦相手に差を付けると、そのまま差が縮まることなく開く一方となってしまうことから、藤井王将の将棋の緻密さ、的確さを数値で証明する現象なのである。
ところが現在行われている王将戦第5局では、一度上がりかけた藤井の評価値が羽生九段に押し戻され、逆にじわじわと下がっている。これまで見かけたことのない現象だ。52歳の羽生九段が後手番で藤井曲線を捻じ曲げて見せるという、とんでもない対局を我々は見せられている。
あと少しで終局を迎えるこの戦い。戦況は未だ藤井王将有利に違いは無いが、何が起こるのか全くわからない。とんでもないことになっているのではないか。