2021年1月、父が最初の施設(有料老人ホーム)に入居してから数ヶ月間、
ずっと帰宅願望が続いていました。
入居して数週間は何事もなく過ごしていたのですが、
ちょうどひと月が経った頃、施設から連絡がありました。
「そろそろ家に帰ると言っているのですが、
入居に際して、どのようにご説明されていますか?」
慌てて父の面会を申し込みました。
ガラスドア越しの面会で、
「帰りたいんだよ。ここは僕には合わない。」と訴えかけてきます。
父は耳が遠いので、ガラスドア越しでの会話は成り立ちません。
身振り手振りでガラスドアを開けてそちらに行かせろと訴えてきます。
ガラスドアの向こう側とこちら側の面会は、状況を納得していない父には、
酷で無理があることなのだと悲しくなりました。
帰りたい、帰れないの堂々巡りの会話しかできず、早々に切り上げるしか
ありませんでした。
振り返ると、父はベンチに佇んで、車に向かうわたしの後ろ姿を見ています。
自宅に帰りたいだろうとは理解ができるけど、可哀想と思う気持ちと罪悪感と、
なんで認知症になっちゃったのかと、お願いだから迷惑をかけないでと
いろんな気持ちが交錯していました。
夫の運転する車の助手席で、相談員の方に電話をしました。
わたし「父は、まだ座っていますか?」
相談員「そうですね、まだいますがもう少し落ち着いたらお部屋に案内しますよ。」
わたし「どうしたらいいんでしょうか?」
相談員「お父さまはご病気なので、仕方ないんですよ。こちらで対応できますので
ご安心ください。」
その後も帰宅願望は酷くなっている様子なので、手紙を書いて父に送りました。
わたしからの手紙を読んで少しの間落ち着くけれど、しばらくすると、
キャップを被ってリュックを背負いエレベーターで降りてきて、
「帰るから、娘を呼べ!」
「貴様ら、監禁する気か!」
と職員の方たちに怒鳴っていたそうです。
こんな状態の父には、会いたくない、辛いだけだから面会はしたくない。
コロナ禍もあったので、もう会いには行かないと心に決めました。
認知症である父を思いやることよりも、迷惑をかけられていることに腹が立って
仕方ありませんでしたし、こんな状態がいつまで続くのか、わたしたちの生活が
脅かされるのは嫌だと、気持ちは落ち込むばかりでした。
数十年間一緒に過ごした父のネガティブな素行ばかりが思い出され、
もういなくなってくれたらいいのにと思っていました。
父はまもなく退院して施設に帰るのですが、
施設では看取り対応になります。