安彦良和の全貌展 | 歴史ニュース総合案内

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発掘も歴史政治も歴史作品も

 歴史漫画から「ガンダム」監修まで手掛ける安彦良和の世界を概観する特別展「描く人 安彦良和展」が6月8日から9月1日まで兵庫県立美術館で開催されている。学生運動に関わって大学から除籍されたところから、宇宙戦艦ヤマトや機動戦士ガンダムでの活躍とシベリア出兵の最新漫画『乾と巽――ザバイカル戦記』まで回顧する総合展は初めてという。

 6章構成。北海道遠軽町に1947年生まれてから青森県の弘前大学人文学部に進み教員を目指すも、学生運動の全共闘を主導して除籍された。その頃の漫画『遥かなるタホ河の流れ』ではスペイン内戦を描き、思い出したくないほど左傾した考えが綴られている。

 除籍されて失業した訳だが、画力で手塚治虫の虫プロに拾ってもらい、養成所経由でアニメーターとして出世。西崎義展の「宇宙戦艦ヤマト」に関与した後、「勇者ライディーン」で初のキャラクターデザインを手がけ、富野由悠季の「機動戦士ガンダム」(1979~)にキャラデザ兼アニメーションディレクター(ロボは大河原邦男)として関わり、全国区の知名度を得る。この前後から自身も漫画家となり、自作の『アリオン』や『ヴイナス戦記』を劇場アニメ化するが、これはガンダムほど著名にはなれなかった。『機動戦士ガンダムThe Origin』の漫画を2001年に始めてやっとガンダムの主導権を手に入れたが、新世紀のガンダムシリーズには関わっていない。

 平成時代になると、年齢層を上げてアニメから歴史漫画の世界に登場。スクリーントーンを用いず、擬音や絶叫を大きく描く個性的な画風で歴史世界を描いた。日本神話系の『ナムジ』や『ヤマトタケル』から満州や朝鮮半島を一大舞台にした『虹色のトロツキー』や『王道の狗』『天の血脈』で政治を描く。学生時代の敵役だった人物も魅力をもつ中で、主役になるのは英雄よりも庶民という。

 

 学生運動と挫折の記憶がガンダムなどでの人物造形の原形に流れているのだろう。歴史漫画の世界ではそれがより顕れる。ともかく、ガンダムの物語作法は敵キャラも魅力的に描くという美学として受け継がれていった。しかし、学生運動の記憶に基づくリアルな政治意識はアニメ業界全体から薄れ、図式的なものへと変わっていった。(安彦でも手塚でも水木しげるでも今になって読みたくなるのはアニメになりそうもない青年誌連載のものばかり

 特別展は9月以降も各地への巡回が決まっている。