『悪魔の飽食』の森村誠一が死去 | 歴史ニュース総合案内

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 731部隊の存在を『悪魔の飽食』で世に知らしめた作家の森村誠一が7月24日、肺炎のため90歳で亡くなった。推理小説を得意にしており、棟居刑事が活躍する『人間の証明』が代表作である。

 森村はホテルマンから作家になり、『高層の死角』で人気作家に。東京での黒人殺人の謎を解く『人間の証明』などで名声を得た後の1981年11月になって、戦前の陸軍が満州で人体実験をするべく用意した731部隊(関東軍防疫給水部)の実像を伝えるノンフィクション『悪魔の飽食――関東軍細菌戦部隊』を光文社から刊行した。赤旗の下里正樹記者との共作だが、作者の知名度もあって直ぐに話題書になり、続編も出て731部隊の基本像をこの時点で作り上げた。なお、731部隊そのものは、家永三郎らが1960年代の時点で既に論及しているので、新事実発掘でなく一般に弘めた書である。

 しかし、本文は裏付けをとっていても使用した写真に1910年代のペスト患者のものなど誤りが大量に含まれていたことが翌年判明。元隊員からの提供写真に出所不明のものが多数含まれていたためだ。更に内容が内容なだけに右翼団体の抗議が殺到し、本文の全内容も否定しようと画策。光文社は続編ともども絶版処分とした。

 

 それを角川書店が1983年6月に明らかな誤りを訂正して再刊。4作目まで続編を出し、家永の教科書裁判にも協力。海外メディアにも報道され、俳優座の演劇や合唱組曲がつくられた。