2つの「人間失格」映画 | 歴史ニュース総合案内

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 太宰治の『人間失格』を原案に、原作紹介とは異なる映画がこの秋に2作、上映された。蜷川実花監督は太宰の執筆風景から実写「人間失格 太宰治と3人の女たち」を撮り、冲方丁は本広克行監督のもとでアニメ映画「HUMAN LOST 人間失格」の脚本を務めた。

 「3人の女たち」は、太宰が「人間失格」を書くに至る背景を映画化。井伏鱒二の紹介で美知子夫人と結ばれ、人気作家の地位を確立していながら、作家志望者の太田静子と未亡人の山崎富栄に子供をせがまれ、半自伝的な『人間失格』を執筆する話だ。太平洋戦争後に青森県の金木町から東京都三鷹市に居を構えた太宰は、無頼派の旗手として『斜陽』を大当たりさせていた。後に作家の津島佑子になる次女の里子も1947年2月に生まれた。

 そんな中で太宰は山崎と出会って愛し合い、戦時中からの付き合いの静子とは私生児をもうけながら「人間失格」は1948年5月に脱稿したが、雑誌「展望」で連載の始まった1948年6月に玉川上水で山崎と心中した。

 

 「HUMAN LOST」は太宰のいた時代とは関係なく、死を亡くした未来のディストピア世界でロスト体になる男の話で、主人公の名前が大庭葉蔵であることや3つの手記で構成するなど原作の体裁を表面だけ借用したが、バトルするなど物語内容はほぼ無縁だ。太宰作品の映画化というより、冲方が『天地明察』を書くまでの立ち位置からつくられた作品だ。なお、太宰の人間失格の英訳は「No longer human」だ。

 

 どちらが太宰に忠実かといえば、いうまでもなく実写の方だ。しかし、R15指定であり、太田を演じたのが麻薬所持で逮捕された沢尻エリカなので、「3人の女たち」は当分映画史で語られない作品になりそうだ。