政冷文熱の日韓特集 | 歴史ニュース総合案内

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 中央公論の2019年11月号の特集は、「韓国という難問――政冷文熱のゆくえ」だ。歴史分野では、日本の植民地支配を近代化と肯定する李栄薫の「私が“反日種族主義”を書いた理由」が収められている。

 同月の文藝春秋にも寄稿した李の論文は、日本人入植者による土地の不法な強奪はなかったと説く内容。手嶋龍一と佐藤優が「偶発的武力衝突を想定せよ」と危機を説き、高安雄一は韓国と日本の関係が、困難を抱えつつも弱まっていくと説いた。政の面では悲観論が大勢だ。

 これと同じ枠内で「文熱」の部分では文学や芸能に注目。韓国人3人が「K文学」の人気を語り、現代文学のピョン・ヘヨンが『モンスーン』の訳書刊行を機にインタビューされた。チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』の好評を機に、韓国の文学への関心が高まり、純文学誌の「文藝」秋季号は特集「韓国・フェミニズム・日本」で3刷増刷した。ここで語られる韓国文学は趙廷来『太白山脈』のような男子中心の文学でなく、より女性的な日常感覚に根差した問題意識付きの現代小説だ。

 

 日中関係を念頭に流布した「政冷経熱」に対して、中央公論編集部にとってこの状態は「政冷文熱」だという。だが、経熱の担い手が政冷と共通なのに対して、「文熱」とは下手したら韓国はともかく台湾が日本の植民地だったことも知らない程度の層が担い手で、両者の接点は極めて薄い。歴史ドラマが高年男子層にある程度受け入れられても、韓流の本体は現代ドラマやゲームや音楽、演劇で、韓国叩きに余念のない政論雑誌の関心とはかけ離れた場所にあり、そこで文熱となった。

 特集の中で、政治にも文化にも触れる李論文は明らかに浮き放題だ。日本式の民法が導入されて両班とは別の個人意識が芽生えたと論じているが、いうまでもなく戦前の民法は家中心主義だった。しかし、このような論理は中公編集部にとって中道を行くにたる言説となるらしい。