第八話「感動です、今回だけかもだけど」(1)
海に行こうとか言い出した恭介は言う事を聞かず、強制的に真田達は海に連れて行かれた。
ちなみに、今は四月である。海に行くのは自殺行為だと分かっているのだろうか。
恭介は一面に広がる水の世界を見渡すと、
「いぃぃぃぃぃぃヤッッホオオオオゥゥゥゥゥぅぅ!! 海最高ッ!」
「オイ、そろそろ話せよバカ」
「え? 何を」
「ここに来た理由だ! 四月だってのになんでこんなとこ来たんだよ!?」
「ふっふっふ……それはだなぁ」
恭介は持っていたバッグを地面に置き、その中から新聞の切れ端を取り出した。貼ってある写真には人影のような物が写っている。見出しには『謎の巨人現わる! その謎に急接近!!』とかなんとか。
なんだこれ、と訪ねると、
「この海の付近に謎の巨人が出現したらしいんだよ。って訳で──」
「もう分かったわよ。その謎を明かそうとか言うんでしょ?」
「え、何で分かった?」
「恭介の行動パターンは大体同じですから」
「いい加減読めてくるよねぇ」
「うーむ、なるほどな。俺はそんな事まで知られてしまっているのか……」
「嫌でも知らされるだろ」
「……照れるぜ♡」
皆引いていた。
「で、それの信憑性と、実際にいたとして襲って来たりしたらどうするんだ?」
「お、巨人の存在は否定せんのだねえ」
「タイトルだしな、非日常は」
「まぁ、そこはとりあえずそん時はそん時って事で」
「適当だなぁ……」
「いつもの事ですよ」
恭介以外の四人は大きくため息をつき、どうせ言っても聞かないだろうと考えて諦める事にした。
どうやら部活もしていないのに合宿という事になっているらしく、随分とお高そうなホテルに泊まる事になった。
外観からして高そうなのだが、中に入ってみればもっと高そうだ。
やけに広いロビーにくわえ、高級レストランみたいな食堂。部屋に入ればどこの貴族の家だとでも言いたくなるほどの場所だ。ベッドはふかふか、何故かシャンデリアとかある。
恭介の事だからどうせ教師でも脅してやったんだろう。この男はそう言う事の出来る奴だ。
「この一部屋だけなんですか?」
「仕切りとかあるしいいだろ?」
「安心しろ、覗こうとしたら俺が殴り飛ばしてやる」
「それなら安心だね!」
「俺への信頼は……?」
「そんな物があるとでも思ってたなら小学生、いや幼稚園からやり直した方が良いぞ?」
「そこまでいかなきゃならないほどなのか!?」
地味にへこんでいるらしかった。
とりあえず荷物を置いて、今回の目的の謎の巨人とやらの話を進める事にした。
「で、情報的には一体どんな感じなんだよ恭介」
「ん? あー、そうだな」
まず、と言って。
「謎の巨人、長いから巨人な。その巨人は昨日このホテルの裏にある山に現れたらしい。それを部屋から見たカメラマンが撮ったんだと。あとで調査に行った連中の話じゃ、でかい三、四メートルくらいの足跡みたいなのがあったとか」
「人為的とかって事は無いの?」
「そりゃなさそうだな。俺も実は行ってみたんだけど、あれは掘ったりしたって言うより何か重いもんで押しつぶした感じだった。人間がそんな事すれば嫌でも目立つだろ?」
恭介はこう言うときだけ真面目で、まともなことを言う奴である。日常的な話ではないが。
「たぶん、巨大ロボットの一種だと思ってる」
「だとしたら、またうちの『支配せし者(バンガード)』の連中か? だとしたら最終手段とかも考えた方が良いんじゃ?」
「えー、『イーグレス』使うのー? まぁた俺が頑張んなきゃ行けないって訳かぁ?」
「言い出したのアンタじゃない。責任は取りなさいよ」
「良いじゃん、『イーグレス』に乗ってる恭介君カッコいいよ?」
「むぐぐ……仕様がねえなぁ……」
「ちなみに。俺は使わんからな。調整中だし」
「えぇ!? じゃあ俺だけが戦うのか!!?」
「まぁまぁ。もしものときは私達も加勢するし」
納得のいかなそうに顔をしかめる恭介。しかし何か諦めたように息を吐く。
「期待してるぜ、きょーすけさんよ」
* * *
夜。恭介達はホテル裏の山に登っていた。
目撃情報は夜だとか言って、十二時だというのに山登りさせられている。
「くそぅ……何が悲しくてこんな時間に山登りなんぞせにゃならんのだ……」
「楽しいから良いだろ?」
「楽しい訳あるかっ」
それだけ叫べりゃ良いじゃん、と余裕の笑みをしている恭介だが、微妙に口が引きつっている。
沙耶達女性陣は、『寝不足はお肌の大敵ぃッ!!』とか言って来なかった。
……ちょっと羨ましかった。
「お、ここだここだ」
ようやくたどり着いたその場所は、山頂のちょっと下辺りにあった。
そこには、まるで映画の中にでも出てきそうな足跡だった。
形的には四角いようだが、長方形と言うより台形に近い。恭介の言った通り、掘ったと言うよりは潰された感じの方が強い。そもそも掘るだけなら岩が砕けているのがおかしい。
「おーおー、随分とやってくれてるねぇ」
「こりゃ、確定なんじゃないか? 『支配せし者』の仕業って事で」
「そのとおおおおぉぉりぃッ!!」
裏山に響く女物の甲高い声。
その声の主は、恭介達のちょっとだけ上の方にいた。っていうか山頂である。
茶色い髪をツインテールにした、いかにも気が強そうな娘だ。が、
「なんだよ、また女装の『男の娘』かぁ。なーんだ、来て損したぜ」
「恭介、さっさと帰って寝よう。俺はメチャクチャ疲れた」
「その前に風呂だろ風呂。温泉は入れないけど部屋のなら……」
「んー、まあ仕方ねェかもな。入らないよりは全然マシ」
「じゃあ早く部屋に戻った方が先に入るって事で」
「同着の場合は?」
「ジャンケン」
「適当だな……。お前はそう言うときだけ適当なんだか──」
「コラぁっあたしをはぶって話をするなぁ!!」
身体は帰り道に向け、視線だけをそちらに向け、
「なんだよ女装の男の娘まだいたの?」
「ってかいい加減女装するの止めたらどうだ?」
「うっさい! お前に言われたくないんだよっ」
「それは一理あるー。お前女装するもんな」
「あれは罰ゲームでさせられただけだッ」
「そーゆー名目だろ?」
「違うっ!!」
「えー、うっそだー」
「嘘じゃな一つーの!!」
「だから! あ・た・し・を・はぶいて話すんなーーーーーーーー!!」
うるせぇなぁ、とその女装っ娘を睨む。
ぶっちゃけ、ここまで上ってくるのに疲れてる状態でこんな変態と関わっている暇はない。さっさと終わらせたい恭介達としては、この変態は邪魔な訳だ。
「いっつもあたしをバカにしやがってこのバカっ!」
「そうは言ってもお前が勝手に現れて勝手に被害妄想抱いて勝手に怒ってるだけだと思うんだが? そこの所どうなんだ、秦然路(しんぜんじ)?」
「うっさいうっさいうっさい! アンタらなんか潰されちゃえば良いんだっ! 出て来なさいよ『サンゼラフィス』!!」
そう言った瞬間、秦然路の背後に巨大な魔法陣のような物が現れた。
そこから人の手のような者が現れ、次に足。次に頭。そして最後に胴体。
そこに巨人が現れた。