第八話「感動です、今回だけかもだけど」

『うああああああぁぁぁぁぁぁ!?』
 砕け散ったシードラッセの爆風のような反動に突き飛ばされるサンゼラフィス。おそらくコクピットではかなりの振動を秦然路が受けていることだろう。サンゼラフィスの機体にシードラッセの破片が何個も突き刺さる。おそらくもう動けないはずだ。
 もちろん、イーグレスのバジリスクは無傷だ。銃の形態になっているバジリスクの銃口には相変わらず魔法陣が並んでいる。その隙間から煙が立ちこめていた。
『ば、バカな……。シードラッセの最大出力を押し返すなんて!』
『はっ! イーグレスは出来が違うんだよ、出来が!』
「正確には容量が、だけどな」
 真田が水を差す。恭介はコクピット内でぶつくさ言っているが、思いきり放っておく。
「そもそも俺達の『機械化戦具(ジャベリン)』はお前達のとは格が違うんだ。言っておくがこれは慢心ではない。圧倒的に性能が違う」
『でも戦闘は性能で決まる物じゃありません!』
「確かに。だが、性能差が圧倒的に違えばそうはいかない」
 真田は続けて、
「お前らの『機械化戦具』と俺達の『機械化戦具』は、似ているだけで全くの別物。というのはさっき言ったな? 俺達のは、恭介が偶然ハックしたお前ら『支配せし者』のデータを元に作った物だが……それらは骨組みにしかなってない。お前らの技術は俺達の『機械化戦具』にはたったの二割しか使われてないんだよ」
『な、何ですって……?」
「そう。つまり、あとの八割は恭介が自分で作り上げた物だ」
「そのおかげで、無駄に強くなっちゃったのよねぇ」
「やっぱり恭介君は侮れませんね」
 恭介は、もとからそういう機械作りが好きだったらしい。真田達と一緒にいないときはゲームをしているか何かしら作るかの二つ。あのリアル人生ゲームが良い例だ。彼の一番優れた創造力は、並外れた物だと言えるだろう。
「イーグレスを含める俺達の『機械化戦具』は、オリジナルのエネルギーユニットを積み込んでいてな。俺はどうやって作ったのかさっぱり分からないんだが、まあ凄いエンジンだって事は分かった。とにかくそのおかげで容量が増え、出力が段違いの物となったって訳だ」
『ちなみに、「コード・エナジー」って名付けてある。まぁ、それはどうでも良いんだ。こいつはなぁ、凄いんだぜ? 何が凄いって、半永久的にエネルギーを作り続けるからほぼ制限なしに動けるって所が凄い』
『バカな! そんなものが作れる訳──』
『作れたからここにあるんだろうが!』
 秦然路の言葉を遮るように言って、サンゼラフィスにトドメをさすべくバーニアで一気に距離を縮める。フィイーーーーーーン! と回転音がするのはおそらく『コード・エナジー』の音だろう。
 バジリスクを剣の形態に戻し、『機械化戦具』のコアを潰しにかかる。大きく振りかぶり、それをまっすぐ振り下ろす。剣身はサンゼラフィスのコアを真っ二つに

 しなかった。

『悪いが、まだ彼……もとい、彼女を失うわけにはいかないのでな』
 バジリスクの剣身は一体の『機械化戦具』の腕に受け止められていた。
 それはサンゼラフィスではない。
 黒く光るその装甲は厚く、腕はかなりでかい。バーニアはイーグレスと同じくらい。そこにおさめられている二刀の刀は、なんでも斬り裂きそうな印象を持たせる。
『……ブラギリアス』
 瞬間、ブラギリアスと呼ばれた『機械化戦具』が動いた。キュイーーーン! と機械音を響かせながら腕を動かし、バジリスクを押し返す。あまりにも強く返され、バランスを崩し倒れてしまう。当然、それをブラギリアスはそのの隙を逃さない。高く跳躍したかと思うと、一気に降下してきた。どうやらバーニアを上方に向けて噴射しているらしく、かなりのスピードだ。
 これをくらえばいくらイーグレスでも耐えられないだろう。
 恭介はバーニアの出力を最大にして機体を引きずりながらその場から離脱する。それから一秒も経たずに、そこがまるでクレーターのようになるまで吹き飛んだ。その中心にブラギリアスはいる。
「な、なんて破壊力……あれだけの威力に耐えられる機体も凄い。何者だ、アイツ……」
 ブラギリアスはゆっくりとクレーターから抜け出すと、壊れて動けないサンゼラフィスを抱えた。
『すまない、遅れた』
『いえ……来ていただけただけで十分です……「柊裂(しゅうれつ)」様』
 その言葉に恭介は驚愕した。
『柊裂だと!? まさかお前……「支配せし者」のリーダーか!?』
『そんなたいしたものではないと思っているが、まあそんな所だ』
 恭介は『支配せし者』のデータにハックした際、たまたま見つけた名前が柊裂だった。リーダーかどうかは載っていなかったが、それくらいの立ち位置にいるのだと言う事は分かっていた。
『……その「機械化戦具」……。「喰輪式・障壁陣(くうりんしき・しょうへきじん)」に「イグニション・フィールド発生装置」……なるほど。他にも色々と乗せていそうだ』
『なっ!? 何でイーグレスの武装を……!』
『見れば分かる。俺も似たような物を使っているのでな』
 言って、柊裂はバーニアを噴射させた。ゆっくり上昇するどころか、Gに耐えられるのかと言うくらいのスピードで去って行った。

 後に残ったのは、くだらない敗北感だけだった。










 八話「感動です、今回だけかもだけど」

 結界が展開された。『機械化戦具(ジャベリン)』が、ロボットの状態で展開された場合オートで半径十キロが周りの空間と遮断され、時間の流れが少し遅くなる。『機械化戦具』を持っている者は例外だが。
 朝の早い裏山で、二つの巨人がぶつかりあう。
 普通は出ないような機械音を響かせながら動き回るその光景は、現実味の全くないものだった。一般人的思考で考えてみれば、『普通』じゃない。でも、その世界の住人の彼らにはそんな考えすら今更出てくる訳は無い訳で。
『うぉおおらあああぁぁぁぁッ!』
 恭介のイーグレスが両腕に付けた剣『バジリスク』を展開する。それに対抗するように、サンゼラフィスはハンドガンをしまって肩から小剣を取り出す。
 動いたのは一斉だった。
 イーグレスとサンゼラフィスは人間では考えられない歩幅で一気に敵に接近する。イーグレスの巨大な剣バジリスクが大きく振るわれ、それをサンゼラフィスが受け流す要領で小剣を使い避ける。振り切った隙をついて仕掛けてみるも、もう片方のバジリスクで弾かれる。
『いちいちしぶといんですよぉ! さっさと死んじゃってくださいッ!!』
『死ねって言われて死ぬバカがどこにいんだよバーカ。だいたい俺がしぶといんじゃねぇ、お前が弱いんだっつーの!』
『何ですってー!? それは聞き捨てなりません!』
 小剣をクナイみたいに投げつける。イーグレスは避けようともせずただ弾き返し、さらに接近して行く。サンゼラフィスは、ハンドガンを取り出し、連射する。
 ナメたようにイーグレスはそれに突っ込んで行き、飛んでくる弾丸は全てバジリスクで弾き返す。
『チッ!』
 ハンドガンを捨て、腰の後ろに付いていた爆弾を投げつける。
 ドガン! と爆発音がした。
 土煙が辺りを覆い、視界を奪う。
『そんなんで隙をつくつもりかよこの野郎!!』
『私は野郎じゃありません! ……野郎ですけど』
 イーグレスはバジリスクを振り回して土煙を晴らそうとしてみるも、ただ逆に立ちこめさせただけだった。
(晴れるまで待つしかないか……)
 そう適当に考えながら、消えて行くのを待つ。
 ……五、六分ほど経っただろうか。何事も無く経った時間で土煙はとりあえず落ち着いた。が、

『シードラッセ、エネルギー臨界ですっ!』

 サンゼラフィスの手には、いくつもの輪で出来た巨大な銃があった。シードラッセ、サンゼラフィスの武器で唯一巨大なものだ。いや、武器と言うのは微妙な所なのだが、それは別の話。その銃口にはなにか光の粒の様な物が集まっている。それは巨大だ。一撃で辺りを吹き飛ばせそうなほど。
「恭介!」
『分かってるよ!』
 イーグレスは二つのバジリスクを変形させる。すると、剣から銃へと変わった。それをサンゼラフィスに向ける。
 銃口の前に魔法陣のような物が並んだ。
『発射──ッ!』
 サンゼラフィスが放つと同時、イーグレスもバジリスクを撃った。
 バジリスクの撃ったエネルギー、とでも言うのだろうか。魔法陣を突き抜けると、三倍ほどの大きさになった。おそらく威力もそれくらいはふくれあがっているだろう。
 シードラッセとバジリスクの放ったエネルギーがぶつかりあう。
 瞬間、辺りを突風のような物が走った。
『私のシードラッセに勝てる訳ありません!』
『そういう訳でもないのが俺のイーグレスなんだよ!』
 言って、恭介はソケットに差し込んだ銃のトリガーを引いた。さっきから押していたグリップのマガジン部分ではなく、普通のトリガーを。
 バジリスクのエネルギーがさらに増大した。
 魔法陣の数が一気に増え、増加するエネルギー量が増えたのだ。
 あっさりと押し返されたシードラッセは砕けちった。











「ヤベェな……感動をお届け出来そうにないぞ真田……」
「お前が言うな。大半の原因はお前だろうが。お前の存在こそが感動への道のキーパーとして無意味に完璧にブロックしてるんだろうが」
「さすがだな……俺」
「さすがじゃねぇよっ! 全然駄目だろうが! サブタイトル的に感動に持ってかなきゃ、せめて良い話くらいにはしなきゃならないってのに全然ギャグから抜けられねぇよッ!!」
「良いだろ別に。俺達じゃ感動物を作るのはかなりむずかしい、それを承知で作者だってこのサブタイトルにしたんだろうに。第一、別にサブタイトルが感動がどうとか言ってっからって感動じゃなきゃいかんってわけじゃないだろ?」
「……まぁ、そうなんだけど。一応こういうギャグの長編ってのは感動させる話にならなきゃ生きてけない感じがあるし……」
「いいじゃねぇか。別に。ここに誰かが読みに来てくれる、それだけで良いじゃねぇか。人気じゃなきゃいけないなんて決まりも何も無いだろ?」
「恭介……」
「さぁ、本編にいこうぜ。恭介」
「あぁ。だが……その前に一つ行っても良いか?」
「なんだ?」

「最初と言ってる事が百八十度ほど違うぞ」

 第八話「感動です、今回だけかもですが」(3)

 翌日、まだまだ外は薄暗い午前五時。恭介達は再びホテルの裏山に登った。今回は沙耶達も一緒だ。
 朝の山は鳥のさえずりが耳に響き、風に揺れる緑がなんとなく頭の覚醒を早めてくれる。ついでに運動してるのだから尚更だ。
 今回は彼らも一応『機械化戦具(ジャベリン)』を装備して来ている。また秦然路とサンゼラフィスに襲われた時に逃げていたのでは、体力が保たないし、時間のむだだし、何より合宿に(という名目で)来ている訳でだから、教師を脅しているとしてもそう長くここにいるわけにはいかない。
 出来る事なら今回で終わらせたい所だ。
「恭介、『イーグレス』の調子は良いんだろうな?」
「ん? ふぁぁ……まぁ上々って所かな……。戦闘に差し支えるような事は無いはずだから安心しろよ……」
「随分と眠そうだが、大丈夫か?」
「ひゃいりょうふ、ひゃいりょうふ……」
「本当かよ……?」
 駄目だったらサンゼラフィスに捧げれば良いか、とちょっと恐ろしい事を考えながら上っていると、

「あーっはっはっはっは!! 秦然路香織(かおり)ちゃんさんじょーっ!! とおっ!」 
 
 何故かまたもや恭介達より上の方で、何故か飛び上がり、何故か着地に失敗して転んでいる秦然路がいた。
 ……正直哀れだった。
「おーい、大丈夫か女装っ娘」
「だ、だぁーれが女装っ娘じゃーーー!! 僕。もとい、あたしは正真正銘の女だっつーの! 胸だってほら、あるでしょうが!」
 と、胸を張った瞬間。パッドらしきものが落ちて行った。
 ……………………………………………………………………………。
 しばらく長い、それはもう長い沈黙が続いた。
 それを破ったのは、やはり秦然路だった。
「う……ひぃっく……ふぇぇ……泣いてなんか……ないもん……」
「う……、なんか……こっちが悪者みたいな感じになってるんだが、俺達のせいじゃ……ない、よな?」
「……多分、ね」
「ですが秦然路さんにはあまり関係ないみたいですね」
「で、でてきなひゃい……ひぃっく……サンゼラフィス……!」
 と、思いきり泣きながら言った彼女の後ろに、大きな魔法陣のような物が現れ、昨日と同じように巨人、『サンゼラフィス』が姿を現した。
 秦然路は泣きながらサンゼラフィスのコックピットに乗り込む。
『お前らなんか……お前らなんか……死んじゃええええええぇぇぇぇぇっ!!』
 マイクを通した声で言った後、『サンゼラフィス』の全身からキュイーン! と機会音が響かせながら、その身体を動かす。
「お、おい! 恭介!!」
「分かってるって。よっと」
 恭介はポケットからハンドガンを二丁取り出す。その銃口を今まさに踏み潰そうとしてるサンゼラフィスに向け、撃った。
 瞬間、その足が押し返された。
 バランスを失ったサンゼラフィスは、抵抗する間もなく倒れて行った。
「じゃっじゃーん、この銃が『イーグレス』様だぜいっ!!」
 そして、と続けて。
「これをこうして、バーン!!」
 自分の真上に一発撃つと、花火のように爆発する。その爆発は、消えずに形を成して行き、『サンゼラフィス』が現れるときのような魔法陣が出現しだした。
 当然のように腕が、足が、頭が、そして胴体がその中から姿を現す。
 赤のカラーを基調とするその巨人は、両腕に小さな盾のような物に、剣の付けられたものを装着し、腰にはレールガンを装備。バーニアに実弾とビームの切り替えが出来るマシンガンを二丁入れてある。
 恭介はそのコックピットに乗り込み、『イーグレス』をシートの左右にあるソケットに押し込む。
 それが機動の合図だった。
『そしてぇ、この巨人も「イーグレス」様だぜぇっ!!』
 『イーグレス』で無駄にポーズをとりながら言った。
『行くぜぇっ!! 女装っ娘ぉ、覚悟しろよ!!』

 『イーグレス』に乗ると、意外とハイテンションになる恭介だった。