彼女はいつでも突然(3)


「「「「「「「「な、なんだってぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーー!?」」」」」」」」
 食堂で理樹達は、シルエットだけは沙耶に似た美少女。通称「理華」の正体について語っていた。いつの間にか来ていた真人と謙吾も一緒だ。
 恭介が話し終えると、
「ほぅ……、これが理樹、か。……何と言うか、すごいとしか言いようが無い」
「俺のルームメイトはこんなに可愛かったのかぁーーーーーーー!?」
「あたし達より可愛いんじゃないか?」
「理樹くんかわい~~!」
「リキがとってもきゅーとなのですー!」
「(ぱしゃり)……記念撮影です(ぱしゃり)」
「美魚君。後でその写真私にもくれ」
「へぇ。これがあの理樹ねぇ。見違えるわね」
「おねえちゃんよりも可愛いかもねー」
「なんだか女として悔しいですわーーーー!」
 などと、みんな好き勝手言っていた。
「大好評じゃない、理樹君の女装。もとい女性化」
「う、うああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
「理樹の苦悩が見て取れるな……」
 理樹が頭を抱える中、話はとりあえず理樹をこれからどうするかだ。理樹としては科学部で元に戻る薬を作ってもらいたいところなのだが、そっちの方には話は向かないらしい。ますます頭を抱える理樹だった。
 恭介が話を進める。
「俺としても残念な事ではあるが、とりあえず理樹は女子寮に三日間泊まってもらう」
「えぇ!?」
「当然でしょ理樹君。理樹君は今超絶美少女なのよ? そんなのが男子寮にいたら理樹君が危険でしょ?」
「で、でも……」
「理樹。これはお前のためだ。自分で言ってて悲しいが……多分、俺も危険だと思う」
 がーん、と効果音が聞こえた気がした。
「と、言う訳で理樹君は女子寮に住むとして──」
「ちょっと待ちな!」
 口を挟んだのは真人だった。肩を振るわせて拳を思いきり握りしめている。
「ルームメイトの俺を差し置いて話を進めてもらっちゃ困るぜ! 理樹が女子寮に行っちまったら、一緒に寝れねぇじゃねぇか!!」
 非常に気持ち悪い怒り方だった!
「……分かったよ。でも三日間だけだよ?」
「ってええええええええええええ!? な、何でだよ理樹ぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
「いや……その、ちょっと今ので危機感のメーター振り切ったっていうか……」
 目をそらしながら気まずそうに言う理樹に、真人は膝をついた。
「うむ、良い判断だ少年」
「そうね、男子寮になんかいたら危ないわ。野蛮な奴ばかりだもの。あ、理樹は違うけどね」
「わふー……井ノ原さん、元気だしてください」
「わりぃクー公……ちょっと一人にしてくれ」
 燃え尽きている真人は謙吾と恭介に任せて、話は進む。
「じゃぁ、部屋はどうすれば良いのかな。佳奈多さん」
「え? あー、じゃあ私の部屋に──」
「「「「「「「私(あたし)の部屋に来れば良いよ(ぞ)!!」」」」」」」
「いやいやいや! 余ってる部屋で良いから!」
「何言ってるんデスカ理樹君! 女子寮と男子寮じゃ勝手が違うのですヨ!」
「そんな中、直枝さん一人でやって行けるでしょうか……?」
「うっ」
 確かにそれは一理あるかもしれない。
「「「「「「「「と、いうわけで──」」」」」」」」

「いや、理樹君はあたしの部屋に泊まるわよ」

「「「「「「「「はぁ!!?」」」」」」」」
 何を言ってるんだ、という感じで沙耶は繰り返す。
「だから、理樹君は『あたしの』部屋に泊まるわ」
「朱鷺戸女史、それは君が決める事ではないぞ」
「確かにそれはそうだわ。でもね来ヶ谷さん。理樹君はあたしの部屋に泊まった方が一番安全だと理解しているはずよ、ねぇ理樹君?」
「…………」
 理樹は何も言えなかった。
「な、なぜ否定しない理樹君!?」
「何言ってんのよ。当然でしょ? 貴女達よりもあたしの方がいじられる可能性が低いからよ」
「「「「「「「「ううっ! 確かに!」」」」」」」」
 どちらかと言うと沙耶の方がいじられる可能性が高い。つまり安全度で言えば確実に沙耶が一番高いはずだ。
 佳奈多や佐々美でも良いのでは? いや。リトルバスターズに入ってからかなり染められている彼女たちも危ない。
「良いじゃない別に。どうせ三日もあるんだから、寝るまでに理樹君をいじっとけば」
「ちょっと沙耶!?」
 ちらり、と女性陣の方に目をやると、
「……まぁ、理樹がさやの部屋に泊まりたいなら仕様がない。あたしは昼間に遊べるからな」
「んー、それなら良いかな~」
「わふー、残念です~」
「全く、仕様がないなぁ理樹君は。まぁ昼間にさんざんいじらせてもらうって事で良しとしますヨ」
「ふむ、まぁ毎回強要して来てもらってもつまらんしな。今回は朱鷺戸女史に譲るとしよう」
「……写真、期待してます」
「仕方ないわね。理樹、昼間はちゃんと相手してもらうわよ?」
「もう、わがままなんですから直枝さんは」
 沙耶はにっこり笑って、うんうん、と頷く。
 理樹は再び頭を抱えていた。

「じゃ、今日は解散!」

 沙耶の号令とと共にみんな戻ろうとするが、
「……ちょっと待ちなさい、朱鷺戸さん」
「何? 二木さん」
「さも夜中のように話が進んでいたけど、まだ昼間よ。独り占めしたいなら夜にしなさい」
「ちっ、バレたか」

 理樹の受難は続く。











 かなり久しぶりの更新でごめんなさい。


 とうとう夏休みがやってきましたよ!(二日前から

 でも今のところ、ほぼなんの予定も無いのが残念。せいぜい家族旅行くらいですね。
 一応四十二だか一の長い休みだから、もう少し予定を埋めたかったんだけど、まあその内埋まると良いなーって感じで待つ事にします。
 理樹は今、沙耶の部屋にいる。もちろん女装関係のことだ。
 沙耶は現在、世界が終わってもなおスパイをやっている。正確にはスパイごっこだが、それでもたまにこういう変な発明をしては理樹で試していた。前にあったのは、「性転換の薬」や「喋り方を女っぽくする薬」とかだったか。よく考えてみれば、女装させようとしている可能性がバリバリ出ていた。それにも気付かず、あげくの果てに無実な来ヶ谷を疑ってしまったのを後悔する理樹だった。
「で……これ本当に三日も取れないの?」
「だからさっきからそう言ってるじゃない。もう三回目よ?」
「いやだって……」
 女装しているのを知られるのは非情にマズい。かといってそれでことが済むかと言えば全くだ。何故なら現在リトルバスターズ女性メンバーは理樹を探している(女装しているとも気付かず)。見つかれば何されるか分かったものではない。
「一応、この前作った身体能力及び感覚強化の薬を使ったから、屋上から飛び降りても余裕で着地出来るはずよ。そうね──試してみないと分からないけど、やりようにとっては棗恭介にも勝てるんじゃないかしら?」
「恭介……?」
 そういえばそんな頼れる人がいた。もしかすると、こんなにも彼を頼もしく感じたことは無いかもしれない。女装がバレるのはアレだが、今の状況を脱するには仕方が無い。女性陣に殺されるよりは遥かにマシだ。
 理樹は携帯を取り出し、食堂に来てくれるようメールで恭介に頼んだ。
「沙耶も来て」
「私も? 何で」
「沙耶が原因なんだし、沙耶がいた方が色々と助かるから。もしもの時に頼りになるし」
「……まぁ、良いけど。私も理樹君の可愛い姿が間近で見られるのは嬉しいしね」
 理樹は一瞬ツッコみたい衝動に駆られたが、抑えておくことにした。今はそんなことをしている場合ではない。
 二人は、沙耶の部屋を出て食堂へ向かった。

    *  *  *

 恭介は早くも食堂にいた。
 周りに恭介以外の生徒は誰もいない。どうやらリトルバスターズ女性メンバーもいないようだ。とりあえず安堵する。
「ん? 朱鷺戸か。それと──あれ? どこかで見たことがあるような……」
「そりゃあるでしょ。あの世界でアンタが仮面付けて見てたじゃない」
「…………! ま、まさか……理樹なのか?」
「う、うん……」
 そういえばここに来るまで忘れていたが、恭介はあの世界で時風瞬(ときかぜ しゅん)を名乗り、仮面をつけて闇の執行部として理樹達と敵対していたのだ。その時の最後に、沙耶にシルエットを似せた理樹を見ていたと言う訳だ。
「理樹……まさかお前、目覚めたのか? 男の娘に」
「そんな訳ないでしょ!? 沙耶に無理矢理やらされたっていか、女装させられてたんだよ!!」
「ちょっと久しぶりに見てみたくってね」
「なるほど……だが、嫌ならさっさと着替えれば良いじゃないか」
「それが出来たら苦労しないよ……」
 理樹は今までの経緯を恭介に話した。ウィッグが外れないことや、女性メンバー達に追われていることなど。
「そうか……全く、お前はどこまで行っても不幸背負いだな」
「余計なお世話だよっ」
「まぁとにかくだ。家族同然の理樹が助けを求めてるんだ。助けない理由は無いな」
「恭介……!」
 思わず目から涙がこぼれそうになるが、何とか抑えておく。
「それにしても……随分と気合いを入れたもんだな」
「そりゃ当然でしょ。今までの失敗を全て反省して作り上げた、三日間だけ容姿も性別も身体も何もかも完全美少女な理樹君なんだから!」
「…………ちょっと待って。今、『性別も』って言った?」
「言ったわよ? あれ、知らなかった? 前に理樹君で試した「性転換の薬」の改良版を使ってみたの。そしたら見事成功、ってわけ」
「ええええええええええええええええええ!?」
「それは……またいらんとこを頑張ったもんだな……」
「いらんとことは何よいらんとことは。あなただって、今の理樹君に『恭介お兄ちゃん!』なんて呼ばれるのを想像してみなさいよ」
「何ぃ……?」
 しばらく恭介は遠い目をした。どうやら言われた通り今の理樹に『恭介お兄ちゃん!』と呼ばれたときのことを想像しているようだ。
 
 と、恭介の口からなにやら透明な雫が──。

「きょ……恭介……?」
「ハッ!? お、俺としたことが迂闊……ッ! 今の可憐な理樹が妹だと言うことを考えただけで、こんなにも……!」
 危ねぇ、危ねぇ、とよだれを拭う恭介。理樹は軽く引いていた。
「と、とにかく。ウィッグにしても性転換にしても、科学部に訊くのが一番だろう。危ない可能性もあるが……今すぐ解決するならマッド鈴木を頼ってみるしか無い」
 科学部も顕在していたとは知らなかった。
 だが、それはそれで頼もしい話だ。虚構世界では美魚のNYP(なんだかよくわからないパワー)兵器を開発した科学部だ。もしかしたら元に戻り、このウィッグも外せるかもしれない。
 そう期待を胸に抱いた瞬間だった。
「わふ~! いましたっ、あそこです!!」
 と、どう考えてもクドリャフカとしか考えられない声が聞こえた。恐る恐る食堂の入り口を見てみると、案の定リトルバスターズ女性メンバーがこちらに向かって走ってきていた。よく見たら、メンバーじゃない杉並睦美も何故か加わっていた。
「ヤバっ、見つかった!」
 逃げようとした時にはもう遅い。完全に囲まれていた。
「理樹の次は棗恭介、と言う訳ね」
「ふむ、まさしく悪女と言った所か」
「あくじょ、ってなんだ?」
「悪女って言うのはね~、悪い女の人なんだよ~」
「何! じゃあアイツは悪い奴なのか!?」
「少なくとも良い人じゃありませんわね。理樹さんを盗っている訳ですから」
 いや、盗るも何もその本人がここにいる訳だが。自分で自分は盗めない。
「どうする、理華」
「いつのまにそんな名前付けてんのよ。別に良いけど」
「そんなことどうでも良いってばっ。ど、どうしよう……。こんなの三人で突破出来るの?」
「出来るわよ、理華ちゃんなら」
「ほぅ、朱鷺戸女史。そこの美少女一人で、我らを突破出来ると?」
「甘く見ないでほしいわね、来ヶ谷さん。この理華ちゃんは──この棗恭介すら歯が立たない強者なのよ!」
「え、ちょ! 何勝手なこと言ってるんだよ沙耶!!」
「そうだ、この理華はなぁ。残念ながら俺には倒せないんだよ」
「恭介まで!?」
 女性メンバー達に動揺が走る。信じているのかいないのか、どちらにしても恭介に嘘をついているような雰囲気は無い。もしかしたら……という考えがあるのだろう。
「なら──」
 最初に動いたのは、女性メンバーで一番戦闘力が高いであろう来ヶ谷だった。
「私が試してやる」
 来ヶ谷は、持っていた模造刀レプリカノリムネを抜刀した。
「断罪してやろう」
 瞬間、来ヶ谷の姿が消えた。
 全員が気がついた時には既に理樹の懐だ。来ヶ谷はニヤリと笑いながら、レプリカノリムネを横一線に振るった。ゴッと言う音がする。当たった。確実に手応えがある。
 が、
「何……ッ!?」
 理樹には当たっていなかった。来ヶ谷が捕らえていたのは、食堂の椅子だった。レプリカノリムネの直撃を受けた椅子は、まるで真剣で斬ったかのように真っ二つに割れた。
 周りを見回すと、理樹の姿はいなかった。
「姉御! 上!」
 ハッと来ヶ谷が気付いた頃にはもう遅かった。理樹は既に右足を大きく振りかぶっていた。フッと、風斬り音がする。と同時に、理樹の足は来ヶ谷の横腹を思いきり蹴り跳ばしていた。少しばかり宙に浮いたが、なんとかバランスを保って倒れるのは阻止する。だが、ダメージは小さくないようだった。
「くっ……ガードがギリギリ間に合わなかったよ……」
 蹴られた横腹を押さえながら言う。正直、理樹には何が起こったのかさっぱり分からなかった。勝手に身体が反射的に動いたのだ。これが沙耶の身体能力と感覚を強化する薬の効果か。
「だが……まだまだだっ!!」
 今度は思いきり真正面から突っ込んできた。その模造刀、レプリカノリムネを大きく振るう。それを理樹は軽く状態を後ろに反らしただけで避けた。
 それくらい予想していたらしい来ヶ谷は、まるで謙吾のごとく、いやそれ以上の速度で連打した。常人の目には捕らえきれない速度だ。が、理樹はそれを全て避ける。より正確に言うと、全て素手で受け流していた。振り下ろされ振り上げられ振るわれた全ての太刀筋を、刀身の横に軽く手を当て、片足を軸にして身体を回し、少し押すだけでだ。
「ほぅ、やるじゃないか。理華の奴」
「当然でしょ。あたしが育てたんだから」
 カツン、と音がした。どうやら左足が壁に当たった音らしい。
「ふっ、その状態でこれが避けきれるかな!?」
 来ヶ谷は、一秒に何回振っているのかすら分からないほど残像を残しながら理樹に斬激を放った。横を見ればクドリャフかと小毬の姿がある。逃げ場は無かった。
 だからだ。

 理樹はあえて真正面に突撃した。

 そして来ヶ谷の放つ斬激のすれすれの高さでスライディングし、股を通り抜けた(当然理樹は反射的にやっているので、意図してのものではない)。
「なっ……!」
 振り返る間もなく理樹は来ヶ谷の後ろをとる。だが、彼がやったのは殴るでも蹴るでも無い。ただ耳元で、
「(ゆーいちゃん)」
「~~~~~~~~ッッッッ!!?」
 そう呟いただけだった。しかもかなりのデレデレボイスで。可愛い物好きの彼女にしてみれば、これで何かクルものを感じない訳が無い。それを言っているのが美少女なら尚更だ。
 そんなこととは関係なく、理樹は思わず赤面していた。身体が勝手に動いたとは言え、まさか股の下をくぐり抜け、ちゃんづけで、しかも耳元でささやくなんて経験したことが無い。してる方が危ない可能性もあるが、とにもかくにも理樹的には恥ずかしくて仕様がない。
 来ヶ谷は、ずるずると崩れ落ちた。頬を緩ませながら。
「勝者! 理華!!」
 と、いつの間にかいた恭介が理樹の腕を持ってそう言った。
 後ろの方では、リトルバスターズ女性メンバーが、
「ま、まさか……姉御がぁっ……」
「本当にあの、棗先輩を倒せると言うの……?」
「そ、ソフトボール部に欲しい……っ!」
「く、くるがやを倒したぞアイツ!」
「ほわぁっ! ゆいちゃん大丈夫~!?」
「……意外な展開です」
「わふ~……しーいずべりーぱわふるです~」
 などと言っていた。
「ふ、ふふふふ……乾杯だよ理華くん」
「え、いや、あの、その……うひゃぁ!?」
 言いながら来ヶ谷は理樹に抱きついた。
「ふふふふふ……君はどうやら私の萌魂に火をつけてしまったようだ……さぁ、これからおねーさんと良いことをしよう……ふふふふふふふふ」
「ちょ! 待って! なんか言ってることが相変わらず危険なんだけど!!」
「ちょっと来ヶ谷さん! 理華ちゃんは私のよ!?」
「何を言っているんだ朱鷺戸女史。彼女は君のものではない、私のものだ」
「オイオイ、ちょっと待ってくれよ。理華は俺に助けを求めてきたんだ。俺を頼りにしてくれている……ということは俺のものだろ?」
「いや、みんな意味分かんないから!!」

 理樹の不安は広がる一方だった。