「逆野球拳をやろう」
と、恭介が唐突に言い出した。
日曜日で学校も休みな事だし、全員で何かして遊ぼうということになった。さて何して遊ぼうか、と考え始めて最初に言われたのがこれだ。
「や、野球拳?」
「ふむ、それはかなり燃えてくるが、女性陣がどう思うか……」
「来ヶ谷さん。よだれ」
ちっちっち、とかなり引いている女性陣に対して不敵な笑みを浮かべ、
「野球拳じゃない。『逆』野球拳だ」
「同じじゃないんですか? 先輩」
「全く違う。野球拳はじゃんけんで負ければ一枚ずつ脱いで行くが、逆野球拳は勝った方が負けた方に好きな格好をさせる事が出来る。ついでに好きな台詞も言わせよう」
ギラリ、と一斉に理樹を見るメンバー達。
「よく考えるものだ」
「この前漫画で読んでやりたくなった」
「やっぱりマンガかよ……」
まぁ、いつも通りの事なのであまりツッコミはしない。
恭介がやりたい人挙手ー、と言うと案の定、理樹以外の全員が手を挙げた。
「はぁ……やっぱり」
「で、対戦相手はどうするのだ? 恭介氏」
「ん、そうだなぁ。じゃあこいつはどうだ?」
と、どこから出したのか、某友達公園のくるくる回るダーツを取り出した。板にはメンバー全員の名前が書いてある。
「ちょっと、どうして僕だけ二つもあってこんなに範囲が大きいのさ!?」
「いや、数合わせだけど」
「だったらもっと他の方法があるでしょ!?」
「すまんな、他に思いつかなかったんだ。許してくれ」
「きょ、恭介が思いつかない訳──」
「俺だっていつも完璧な訳じゃないんだぞ? 理樹」
「うっ」
それを言われたら何も言えない。
「じゃぁ、みんな一本ずつ取ってくれ」
「きょーすけ」
「どうした鈴」
「自分のところに当たったらどーするんだ?」
「そこは抜かりない」
と、一枚の薄っぺらいマグネットを取り出した。表に文字やら絵を描ける奴らしい。そこには「誰か一人選ぶ」と書いてある。
「自分のところにはこの誰でも好きな奴を選べるってのをはらせてもらう」
「あの番組で言えばパジェロ、もしくはお茶の間用に全部ってわけですわね」
「そういうことだ」
再びメンバー全員が理樹の方を向いた。ニヤリ、と欲望に満ちた笑みを見せる。理樹は汗がとまらなかった。
(いや、僕になったとしてもじゃんけんで負けなければ良いんだ。そうすれば大丈夫……)
そうして、逆野球拳は始まった。
* * *
くじで決められた、ダーツを投げる順番は佳奈多、クドリャフカ、真人、小毬、佐々美、美魚、唯湖、鈴、恭介、葉留佳、謙吾、沙耶、そして理樹。
「はぁ……最後の方だし。運悪いわねー」
「私は一番最初だわ。じゃあ投げさせてもらうわね」
「あぁ、言い忘れてたけど。的に当たらずにどっか飛んでったり、真ん中のはずれの場合は、何も無し、っつー事で」
「ッ!? そ、そういう事は早くいってください先輩!」
言いながら、投げる位置まで行く。距離は大体四、五メートルくらい。意外と外れる事も多いかもしれない。それに的はクルクル回っているから、角度によっては弾かれる可能性もある。
佳奈多はかなり真剣な表情で的を見る。息をのむ音が響くほどの静寂が流れた。
カッ! と目を見開くと、一気に的に向けて投げつける。
ダーツは吸い込まれるように的に当たった。
「やった!」
恭介が回っていた的を止める。ダーツが刺さっていたのは──。
「えーっと、二木は──西園、だな」
「私……ですか」
「……まぁ、西園さんでも良いかもしれないわね」
入れ替わるようにクドリャフカ位置に着く。
「狙うわリキなのです!」
てぃやぁー! というかけ声と共にダーツが投げられる。以外とまっすぐに飛んだそれは、グサッと的に命中する。
「さて、能美は……おぉ! お望みの理樹だ!」
「わふ~~~!」
飛び跳ねてクドリャフカが喜ぶ中、理樹は一つため息をついた。
続いて真人。
「やってやるぜぇー! うぉりゃあああああああああああああ!!」
「投げるときは手加減しろよ。お前が本気で投げたら壊れっから」
「んだよ……しゃあねぇな。おらっ!」
ひゅっと飛んで行ったダーツは普通に的に当たった。
「えーっと、はい、真人ははずれ」
「はぁ!? なんでだよ!?」
「言っただろ、真ん中ははずれだって」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉ! 忘れてたぁぁぁぁぁぁ!!」
膝をついて落ち込む真人をどけて、小毬。
「いっくよぉ~、どおぅりゃぁ~~!」
クドリャフカと同じく意外と真っすぐなダーツは、的に当たる。
「はい、小毬は来ヶ谷な」
「わーい、ゆいちゃんだー!」
「だからゆいちゃんはやめてくれ……」
続いて佐々美。
「笹瀬川は……真人だな」
「な、なんですってぇーーーーーーーー!? わ、わたくしの相手がこ、こ、この筋肉だるまーーーーー!?」
「あぁ? 何だよ不満かよ。この筋肉はケン○ロウのごとく服を弾け飛ばすくらいしか出来ませんそれは資源の無駄なので素っ裸でいてくださいってかぁッ!?」
相変わらず凄い言いがかりだが、それはただの犯罪者だ。
真人は放っておかれ、続いて美魚。
「西園は……理樹だな」
「えぇっ!?」
「直枝さん。覚悟、してくださいね……」
理樹は汗が止まらない。
「ふむ。次は私だな」
ひゅっ、かし。
「おぉ、大当たり! 誰か好きな奴を選ぶ権利ー!」
おー、と拍手が上がる。
「来ヶ谷、誰が良い?」
「無論、理樹君だ」
これで理樹と戦うのは三人になった。
「次はあたしだな」
鈴が位置に着く。グルグルと回る的は完全に理樹のところだけを見つめている。
「死ねっ」
「理樹狙って投げる台詞じゃねぇな」
恭介のつぶやきをよそにひゅっ、と飛んで行くダーツは、当然のごとく的に当たる。
「はい、はずれ」
「何ぃ?」
「だから、はずれ」
「投げなおさせろ」
「ダメ」
「お兄ちゃんって呼んでやるから投げなおさせろ」
「…………………………。………………。…………。うぐぐぐぐぐぐぐぐぐああああああああダメ!!」
どうやら苦渋の選択だったらしい。
「さて、次は俺だな」
恭介は位置につき、しばらく回る的を見つめた後思いきりダーツを投げた。
恭介の代わりに理樹が見る。
「恭介は……クド、だね」
「能美か……って、オイ。何だその目はお前ら」
「いや……恭介にクー公って、どうよ」
「危ないんじゃないですかネ」
「ふむ、恭介氏は(21)だからな」
「俺は(21)じゃねぇッ!!」
ぶつぶつ言いながらもとの役割に戻って行く恭介に続き、葉留佳が位置に着く。葉留佳は、ふっふっふ、と笑いながら、
「はるちんの華麗なるダーツテクを見よ! せいやっ!」
ひゅっ、とん。
「よっしゃあど真ん中!」
「はい、三枝ははずれな」
「はっ、しまったああああああああああああ!!」
「はるかはバカだ」
「バカね」
「バカって言うなああああああああ!」
とぼとぼと葉留佳どき、入れ替わりに謙吾が入る。
「………………。……………。…………。……見えた!」
ひゅっ、と飛んで行くダーツは的に当たる。
「さすがだな謙吾。謙吾は……理樹」
「よぉっし!」
「ではなく真人」
「何ぃっ!?」
「だから、真人」
「ば、バカな……。ちゃ、茶番だああああああああ! 恭介えええええええええええ!!」
「ちょっと、早くどきなさいよ。次あたしなんだから」
「くっ……」
渋々さがる謙吾に続いて、沙耶が位置に着く。フッと、笑うと、
「理樹君、ちゃんと当てるからね」
「いや、別に当てなくても良いけど」
「……ゲーム・スタート!」
ひゅっと投げられたダーツは普通に的に当たった。恭介によって止められた的には、理樹の範囲にきっちりと入っていた。
「いよっしゃ当たったぁーーーーーーーー!!」
「じゃ、最後に理樹な」
「別にやらなくても良いんだけどな……」
「せっかくだからやっとけよ」
言われて、とりあえずと言う事で位置に着く。別に誰でも良いし当たらなくても良いや、と適当に投げると、とん、と的に当たった。
「理樹は──朱鷺戸だな」
「沙耶?」
「ふっふっふ……」
何故か沙耶は笑っていた。
「理樹君覚悟しなさい、二回とも私が勝ってあげるんだから」
逆野球拳、つづく。