日本史の謎の空白を解明する、
第5編 長髄彦と葛城氏・シキ氏 ― 大和政権の在地豪族とのせめぎ合い ―
第一章 長髄彦の実像
『日本書紀』や『古事記』に登場する**長髄彦(ながすねひこ)**は、神武天皇の「東征神話」において大きな役割を果たす。記紀では、神武が九州から東征して大和入りを目指した際、大和に割拠する豪族・長髄彦が強力に抵抗し、神武軍を一度は敗退させたと記される。その後、神武が天照大神の加護を受けて再起し、長髄彦を討ったことで「大和政権の成立」が象徴される。
この物語は単なる伝説ではなく、大和盆地に先住していた在地勢力と外来勢力との抗争の記憶を反映していると考えられる。長髄彦の「長髄(ながすね)」という名は「長脛(ながすね)」=長い脚を持つ者、つまり屈強な戦士階層を象徴するとも解される。
また、彼が「饒速日命(にぎはやひのみこと)」という神を奉じていたとされる点も注目すべきだ。饒速日は天孫降臨神話における別系統の天神族であり、大和の地に「神武以前の天孫族」がいたことを暗示する。つまり、長髄彦は単なる土着首長ではなく、強力な宗教的権威を持つ一族の代表であった可能性が高い。