第1幕と同じ、その15分後。
安楽椅子は上手前方へ移り、肘掛け椅子もホールのドアの後方の壁際に移されている。
上手寄りの中央の小さなテーブルは上手の壁際へ移り、折りたたみ式のブリッジ・テーブルが上手寄り注意深くに置かれ、カードとブリッジ用の点数表が載っている。
テーブルの周囲には背のまっすぐな椅子が四脚あります。
幕が揚がると、室内は明かりがついています。
パネルは閉まっており、開いたままのフレンチ・ウィンドゥにはカーテンが掛かっています。
死体はまだソファの後ろにあります。
クラリサがブリッジ・テーブルの後ろに立ち、一枚の点数表にせわしげに数字を記入しています。
ローランド卿、ジェレミー、ヒューゴーがフレンチ・ウィンドゥからはいります。
ヒューゴーは一瞬立ち止まり、フレンチ・ウィンドゥの後方側だけ閉めます。
クラリサは点数表と鉛筆をブリッジ・テーブルに置き、ソファの上手側へ急いで行ってローランド卿を迎えます。
みんなに助けてもらいたいというクラリサ。
事情を説明するクラリサ。
それぞれ死体を確認します。
オリバー・カステローがどうしてここにいるのか説明するクラリサ。
何か重い、先のとがったもので殴られたらしいのです。
ローランド卿はそういうと、警察に電話をしないと、言います。
それを止めるクラリサ。
死体を片付けてもらいたいと言うのです。
そのアリバイ作りのために、ブリッジのテーブルを出したのです。
三回勝負のうち二回半まで進んでいたことにするためです。
一番いいのは、マーズデンの森だと言うクラリサ。
死体を森の中に棄てるのではなく、車の中に置いてくるだけです。
オリバーは、厩のそばに車を駐めたままだったので、楽なものなのです。
もちろん、みんな手袋をはめます、指紋をいっさいのこさないように。
どうしても納得しないローランド卿にクラリサはつい、ピパがやってしまった事を告白してしまいます。
クラリサが言うには、ピパは恐怖心で我を忘れて、あの棒をつかんで後先の見さかいもなくもなく殴りつけてしまったのです。
あの棒とは、玄関の飾りに掛けておいたあのアフリカ人の棒です。
今はパネルの後ろの隠し部屋に置いてあります。
ジェレミーがピパに教わった通りにして、パネルを開けます。
ローランド卿とウォリンダーで死体を車まで運ぼうとしたその時、突然、玄関のベルが鳴り響きます。
一同、驚いて棒立ちとなります。
ジェレミーとローランド卿は死体の両脇を支え、パネルの奥のスペースへ運び入れます。
ローランド卿はブリッジを始めようとします。
クラリサ、ロード警部、ジョーンズ巡査がホールから入ります。
警察の方よ、ローランド卿に説明するクラリサ。
警部が言うには、ここで殺人があったという通報を受けたと言うのです。
署に電話があったのです。
通報者は「“コップルストーン邸”で男がころされた。すぐ来てもらいたい」
、それだけ言って電話を切ってしまったのです。
現在邸にいるのは、ローランド・デラヘイ卿、ジェレミー・ウォリンダー、それに小さな義理の娘がいますが、いまは寝んでいますと答えるクラリサ。
使用人は、今夜は外出日なんですのと説明したところでエルジンがホールから入ってきます。
びっくりするクラリサ。
エルジン夫婦は行って間もなく戻ってきたのです。
家内が気分が悪いと申しまして、というエルジン。
エルジンは裏口から入ってきたのですが、厩の前に見慣れぬ車があったと言います。
ジェレミーは立ち上がってソファの方へ行き、その右端に坐ってサンドウィッチを食べます。
警部は帽子と手袋を肘掛け椅子に置き、ブリッジ・テーブルの上手側へ行きます。
ヘイシャム=ブラウンは、こちらにはまだそう長くはありませんね?と訊ねる警部。
まだ一カ月半くらいと答えるクラリサ。
警部が言うには、じつはちょっと妙な話があるのです。
ここはもとセロンさんといういう骨董商の家だったのですが、その人が半年前に亡くなったのです。
階段から落ちたのです、まっさかさまに。
一応、事故死ということになりましたが、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし、誰かに突き落とされたか、あるいは何者かが頭をガツンとやって、そうして、いかにも階段から落ちたように見せかけたのかもしれません。
セロンさんの机に書きかけの手紙があり、そのなかに最近何か非常に珍しいものが手に入ったと書いてあったのです。
絶対偽造品ではないという保証をするが、値段は一万四千ポンドだというのです。
ジェレミーはサンドウィッチを食べつづけます。
しかし店にそんな高価なものは何一つなかったのです。
それに該当するようなものは、保険のリストにもないのです。
セロンさんの共同経営者というのは女性で、ロンドンにも店を持っている人なのです。
彼女は警察に手紙を寄越して“せっかくですが、お役に立つようなことは何も存じません”と言ってきたのです。
その犯人と目される者は、まだ“その品物”を発見できずにいるかもしれないのです。
セロンさんが亡くなったあとで、二度も店が荒らされているのです。
窓ガラスを割って押し入って、徹底的に家捜ししているのです。
セロンさんが隠したその“品物”とやらは、メイドストーンの店ではなく、ここに、この家に隠してあるのではないかと、警部はそんな気がしたのです。
そんな気がしたので、何かとくにお気づきになったことはないか、尋ねたのもそのことなのです。
クラリサは、このあいだ来た人も変だったと言います。
その人は、あの机を買いたいと言ったのです。
警部は机の方へ行き、その上手側後方に立ちます。
その机の隠し引き出しにあったものを説明するクラリサ。
巡査がホールから入ります。
免許証と手袋を持っています。
警部は免許証をしらべながら、オリバー・カステロー、二十七歳、サウス・ウエスト三番街モーガン・マンションか…、と読みます。
そしてカステローという男が今日ここへ来たんですね?と鋭い口調で訊ねます。
クラリサはカステローが10分ほどしかいなかったと、言います。
宅の庭師のピークさんがここにいて、庭から抜ける道を案内しようと言ってくれまして、とクラリサは言います。
インターフォンで、ピークを呼ぶクラリサ。
問題は、カステローさんの車がなぜまだここにあるのか、カステローさんが今どこにいるかですね、という警部。
クラリサはしばらく立ち止まって、パネルの方をちらりと見て、それからフレンチ・ウィンドゥの方へ行きます。
クラリサがそこで立ち止まると同時に、ジェレミーは無邪気な顔で椅子に深々と坐り直し、脚を組みます。
クラリサが家の中を警部たちに紹介している時、ローランド卿やヒューゴー、ジェレミーたちはやれるところまでやろうと決意します。
玄関のベルが鳴ります。
ジェレミーはホールへ出ていきます。
ヒューゴーはローランド卿を手招きします。
ヒューゴーがローランド卿に質問した時、ミス・ピークの声を聞き、“今はだめだ”と身振りで示します。
ジェレミーとミス・ピークがホールから入ります。
ミス・ピークはあわてて身仕度した様子で、頭にはタオルを巻いています。
ヒューゴーはミス・ピークに椅子を引き出してやり、自分は上手前の安楽椅子に坐ります。
ローランド卿が状況をミス・ピークに話しかけた時、クラリサ、警部、巡査がホールから入ります。
ローランド卿はソファの後ろへ退ります。
ジェレミーがソファへ行き坐ります。
庫からミス・ピークを紹介される警部。
ローランド卿はソファの背に坐ります。
そこでミス・ピークは秘密の部屋の事を警部に話します。
ミス・ピークがレバーを動かし、取っ手をひっぱると、パネルが開きます。
死体がバタンと前に倒れます。
ミス・ピークは悲鳴をあげます。
ここまでが、第2幕第1場です。
実はここまでで、犯人のヒントが全て出ています。
ハッキリ書きますが、ピパは犯人では有りません。