12月某日、みちのく いとしい仏たち@東京ステーションギャラリーに行きました。
端正でも煌びやかでもないけど、素朴で心和む、みちのくの仏さまたち。
青森・岩手・秋田といった北東北の村々で、仏師ではなく地元の大工や木地師によって作られ、人々に寄り添ってきた個性豊かな「民間仏」約130点を紹介する展覧会です。
巡回を楽しみに待っていた展覧会。とってもよかったです。
今に始まったことではないけれど、近頃は特に辛いニュースが多すぎる世の中だから、ほのぼの仏さまたちに癒されました。
画像は本展チラシより
キャプションの解説も熱くて楽しかった!が伝わってきました。
あと、どちらかというとご年配の観客が多かったのですが、小柄なおばあちゃま二人組が「可愛いねえ」って言いながら見ているそのお声も可愛いらしくて、幸せ空間でした。混雑もまだしていなかったです。
本当にひとつひとつ素敵で細かく記録したいのだけど、掲載できる画像がほぼないので、ざっくりメモです。
みちのくの景色と仏さまと撮れるフォトスポットもありました
まずは、本展のメインビジュアルにもなっている仏さま。
《山神像》江戸時代 兄川山神社 Image: 文化遺産オンライン
男神像でありながら、如来ヘアで眉間には白毫付き。
長〜い顔、平たい体、小さな足。耳の大きさや位置もズレている。
へんてこプロポーションだけど、見ていてなんとも穏やかな心地になる。
林業に携わる人々に信仰されている山神様。
地域それぞれの宗教環境を母体とし、東北各地に様々な形・大きさの像がある。
みちのくの仏さまには、ほんのり微笑んでいるものが多い。
一体一体眺めていて何かに似ているなあと思ったけど、おじいさんおばあさんの顔に似ているのかも。目尻の下がった小さな目、うっすら小ぶりでゆるりとした口元。
荘厳な仏像も素晴らしいけど、素朴なものが好きな自分は、こういう仏さまの方がより手を合わせたくなるかもしれない。
話しかけてみたくなるような親しみがあって、落ち着く
中央仏師のつくりに寄せられがちなコワモテ不動明王にも、可愛いのがいる。
《不動明王二童子立像》江戸時代 洞圓寺(青森県田子町)
なんだか子連れのお父さんみたい。
両脇の童子も、やや不機嫌顔でサムズアップしてるみたいな手が可愛い
真っ黒なのは護摩の煙によるもの。お不動さんは、修験の祈祷に用いられた。
怒っててもムムッて感じだったり、ぽってりした体で迫力には欠けたり。
あと、他の民間仏にもよく見られたけど、姿勢が傾いてたり、首の位置がズレていたり、きっちり対称的じゃないのも独特の動きとおおらさがあって面白い。
《達磨像》江戸時代 個人蔵(青森県南部町)
斗賀霊現堂の神仏像群の足元に、こっそり隠れていたというダルマさん
木像のダルマは意外と珍しいそうだ。ハチマキしてる
右衛門四良作《童子跪坐像》 江戸時代 法蓮寺(青森県十和田市)
手を合わせ、ごめんなさいしている童子。
ごめんなさいと頭を下げるように、丸みのある底部が揺れるつくりになっている。
なんて愛らしくも切ない像なんだ…😢
地獄で鬼や十王*1にごめんなさいを繰り返す、あるいは賽の河原でさいなまれる童子のイメージだという。
大工であった右衛門四良の作、ほかにも無骨さと優しさのある仏像が数々見られた。作者がわかる民間仏はとてもレア。
最後、こちらもユニークな多聞天立像(本覚寺、青森県今別町)。
\みちのく いとしすぎる💕仏たち③/#多聞天立像 #本覚寺/#青森県 #今別町#津軽海峡🌊からお越しの多聞天さま。
— 龍谷大学 龍谷ミュージアム (@ryukokumuse) October 7, 2023
頭上の #ドラゴン🐉も気になるところですが、お召し物の飾り彫刻にもご注目👀‼️ まさかの和テイスト‼️
作者の抑えきれない #クリエーター魂🔥を感じます✨#大黒天 #閻魔 pic.twitter.com/4lYGRunOjM
多聞天*2に、龍神(頭上)、閻魔(帽子)、大黒天(お腹)の4役が合体!
なんとも風変わりな姿は「海の安全」「殺生へのゆるし」「五穀豊穣」という、漁師たちの祈りの形。
映像で現地の人々のお話も見られて、仏像と人々の繋がりをより具体的に感じられてよかった。
…などなど。
人々が必死に生きる中、わずかな時間の合間を縫って祈った仏さま。
みちのくの仏さまが素朴で単純な形をしているのは「飾らない率直な信仰の反映」である、と解説文。
微笑んでいるのは「祈りの根底にある生きる辛さ、切なさ、悔しさを笑ってくれる」から。
可愛らしいのは「命の儚さ、自然の厳しさを知る人々の悲しさを秘めているから」とありました。
どれもこれも個性的でゆる可愛い姿に、ほっこりしたり、おかしくなったり。
そうしているうちに、それだけじゃなくて、いろんな人々の祈る気持ちが寄せられてきたんだなあと、込み上げてくるものがありましたもいもい
ところで本展の紙チケット、もしかしていろんなバージョンがある??
心やすらぐ仏像なぞり描き ペン一本でいやされてリラックスできる [ 田中ひろみ ]
みちのく いとしい仏たち
会期:2023年12月2日(土) - 2024年2月12日(月)
会場:東京ステーションギャラリー
料金:一般1400円
江戸時代、寺院の本堂の形状や荘厳(しょうごん)が均一化され、上方や江戸で造られた立派な仏像が日本各地の寺院でご本尊として祀られるようになったいっぽうで、地方の村々では小さなお堂や祠などを拠り所として、素朴でユニークな仏像・神像が祀られました。仏師でも造仏僧でもない、大工や木地師(きじし)の手によるこれら民間仏は、端正な顔立ちや姿のご本尊と違って、煌びやかな装飾はありません。その彫りの拙さやプロポーションのぎこちなさは、単にユニークなだけではなく、厳しい風土を生きるみちのくの人々の心情を映した祈りのかたちそのものといえます。青森・岩手・秋田の北東北のくらしのなかで、人々の悩みや祈りに耳をかたむけてきた個性派ぞろいの木像約130点を紹介し、日本の信仰のかたちについて考えます。
*1:みちのく民間仏の主役である十王像も色々来ていた。江戸時代の人は自分が地獄に落ちると思っていて、死者の罪を裁く十王にも関心を寄せ、造形仏も流行した(加えて、怖いもの見たさやグロテスクなものへの関心もあった)。十王像をまつる十王堂は、供養、品評、笑い、ありがたみを感じるささやかな娯楽の場でもあった。
*2:北方鎮護、境の神とされ藩境や河岸に立った。明治新政府が修験系宗教を排除する前はもっとあったはず。人形道祖神(巨大藁人形)の原型も毘沙門天か。
【もいメモ】
5-6:《尼藍婆像と毘藍婆像(複製)》 岩手県立博物館
11:《山神像》江戸時代 某社蔵(岩手県八幡平市)
逆立つ髪がスーパーサイヤ人。まさかり+怒髪のつもり+剣=山神定番3点セット。
12:《山神像 石像》 江戸時代 某社蔵(岩手県八幡平)
ちょっと異国の古代ものっぽい。大きな鼻、小さいヒヅメのような足、両手に剣とまさかり。
13:《山犬像》明治時代 某社蔵(岩手県八幡平市)
山犬の木像は珍しい。当初は彩色あり。明治頃に制作、昭和初期まで子供が乗って遊んでいたようだ。
15 《蒼前神騎馬像》 江戸時代 某社蔵(岩手県八幡平市)
数千残るソウゼンサマ、馬頭観音のひとつ。坊ちゃんヘアの馬、左目がニコッと笑ってるみたいでかわいい。蒼前神は東北で多く信仰される、馬を保護する神。頭頂部平たい。動物像、共に生きてきた土地ならでは。
16-17:《厩猿像》江戸時代 二戸歴史民俗資料館(岩手県二戸市)
馬を守る猿の神、厩猿のペア。のっぺらぼうで、烏帽子をつけて御幣を捧げる雄と、布に乗せた桃を持ち妙に足長の雌。岩手県二戸市上斗米の曲屋にあたもの。近世、馬屋に猿の頭骨を祀ることはよくあるが、木像で雄雌セットは珍しいそうだ。
18:《観音菩薩立像》江戸時代 松川二十五菩薩像保存会(岩手県一関市)胸がある。子宝への願いか。
29〜34:《六観音》江戸時代 宝積寺(岩手県葛巻町)
中央の専門仏師には良くも悪くも作れない観音像、東北の誇り。祈りの緊張と装飾の喜び。6体全て(足以外)一本から掘り出しており、造像の目的と用材に特別な意味があることを示す。巻町平船あたり、急流の山間に祀られていた。
38:《不動明王立像》江戸時代 個人蔵(青森県五戸市)すごく可愛い。あと足の向き!!
82、84-85:《鬼形像ほか》江戸時代正福寺(岩手県葛巻町)炎の中の人。死者の善行と悪行を閻魔に報告する生首「檀荼幢」!
103-114 《三十三観音坐像立像》右衛門四良作 江戸時代 法蓮寺(青森県十和田市)
全揃いだけど、頭上面が複数いたり他にいないものがあったりと、独自の解釈。ムンクみたいな顔おもしろい。