11月某日、渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)私はフリーハグが嫌い@国立新美術館に行きました。
新美のパブリックスペースを使った小企画「NACT View」の第3回。
ひきこもり経験を持ち、 ひきこもりの当事者や孤立を感じている人と協働して作品を制作する渡辺篤さん(アイムヒアプロジェクト)の展示が行われています。
行き交う人々で賑やかな通路スペースに、重厚な扉が佇む。
その裏側には、「フリーハグが嫌い」というタイトルとは裏腹にハグをしている姿の写真が並んでいて、それにふと足を止める人、通り過ぎる人。
作家が抱擁しているのは、引きこもり生活を送る人々。
そこには、こんな思いがあった:
一昔前に流行した、道端で見知らぬ人同士がハグをし合う活動「フリーハグ」。
しかしそれが本当に必要な人には届いていないように思えたという渡辺さんは、自身が苦手に思っているからこそ既存のそれを更新し、求めている人と共に行いたいと考えたのだそうだ。
写真にはひとつひとつ、ハグをする人々が引きこもりになった経緯や、ハグをしに出向いた場所が書かれている。
確かに、当たり前に外に出て行けて、人とコミュニケーションをとれるという、フリーハグができる前提も叶わない人がいる。
外に出ることも誰かと接することも、簡単じゃない。
だけど、自分にも両手を広げる人がいるなら、やってみたい。
そういう人々がこれだけいる。
アイムヒア プロジェクトはそれを可視化する。
見えないからって存在しないわけじゃない。
見えない私はここにいると声をあげる。
どれだけ勇気の要ることだろう。
(ふと、ムーミンに出てくるニンニも思い出した)
見上げると、孤立した人たちが遠隔操作する明かりも灯っている。そこに誰かがいる。
地下にも展示。
作品制作についてや、作品に参加した人々のことなどが紹介されている。
細心の配慮と真っ直ぐな体当たりで行われているプロジェクトなのだろうと感じました。
それを、あえてアートで行うこと。入口はきっと色々あった方がいい。
それから、真剣だからこそ湧き上がる憤りを、よりよい世界のためにどう原動力にできるかということも考えさせられました。
(そういえば、ニンニが姿を取り戻したきっかけも怒りだったな。自分や大切な人のために怒ることで、自分を取り戻した。*1)
後日見た新美のウェブサイトによると、同館と乃木坂駅を繋ぐ階段エリアにも展示があったよう。知らなくて見れなかった残念。
でもそうやって知らずに行き去ってしまうこともきっと、作家の意図するところではと思うので、それも含めてそこにいる存在を思うことにする。*2
けど今度また見られるといいなもいもい
*1:さらにそういえば思い出した自分語りだけど、むかし療養中に自分の感情がもう麻痺してた時に、主治医が自分のために怒って悲しんでくれたことがあった。たぶんドクターとしては感情的過ぎたかもしれないけど、自分にとってはずっと忘れない。驚いたし嬉しかった。怒りは嫌なものだけど、自分を取り戻すプロセスで必要な感情でもあるのだろう。
*2:無関心は自分に見えていないからこそ起こるし、偏見は自分は持っていないと思っているところにこそ起こるのだろう。全てを見通せる人間などいないので、自分の経験や想像外のことに目を向けられなかったり誤解をするのはある意味当然で、誰もがしてしまっている。あるいは、世界の何もかもを自分ごととして捉えるのはとても抱えきれない。
だからせめて、自分にも誰にもあるそのことを時々は振り返る。そうしたら少しでも変わることはできるのではと、希望のような自戒のような気持ちになった。
光の方へ向かって吸い込まれていく人たち。ちょっとあの世の入り口みたい。
どこからか水が流れる音がしていて、光源は上昇するのに影は下降してくるから、空間の把握がちょっとおかしくなって浮遊しているような感覚になった。
両展とも12月25日まで。
NACT View 03 渡辺 篤(アイムヒア プロジェクト)
「私はフリーハグが嫌い」
会期:2023/9/13/水 ~ 12/25/月
会場:国立新美術館 1Fロビーほか
料金:無料
WEB
国立新美術館では2022年より新規事業として美術館のパブリックスペースを使った小企画シリーズ「NACT View」を開始しました。黒川紀章氏が設計した建築は、スペクタクルでありつつ、細部にまで意匠が凝らされています。多くの人が憩い、通り抜ける広場のようなパブリックスペースで、多くの皆さまに楽しんでいただけるよう、若手から中堅の美術家、デザイナー、建築家、映像作家を招聘し、現代の多様な表現をご紹介します。
第3回は、自身も元当事者であるひきこもりにまつわる課題に向き合い、当事者との協働プロセスに重点を置き、社会に直接的な働きかけを行う活動家でもある渡辺篤(わたなべ・あつし、1978生まれ)が2021年から継続的に行っているプロジェクト「私はフリーハグが嫌い」に関連するインスタレーションと映像作品を展示します。
孤立を感じる人の声に耳を傾け、自身の経験を背景に当事者とともに作り上げる渡辺(アイムヒア プロジェクト)の作品は、ここにいない誰かの存在に気づきを与え、遠くにいる誰かに対してどのような想像を働かせるかという問いへとつながります。同時に、それは、美術館を訪れることができる鑑賞者が、その場に来ることが困難な他者と向き合う一つの機会となるでしょう。
※2018年より渡辺はひきこもりの当事者や孤立感を感じている人と協働して作品を制作する「アイムヒア プロジェクト」を展開。渡辺の呼びかけによって集まる人々と共に作り上げる作品に関しては、作家名は「渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)」となります。
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