9月某日、装いの力―異性装の日本史@松濤美術館に行きました。

 

 

神話や歴史上の人物、伝統芸能、漫画、パフォーマンスに現代アートまで、日本の異性装をたどる展覧会。

 

古い絵画などを見ていると、たとえばピンク色とかレースの刺繍とかスカートとか、今では女性的ファッションとされるものが、昔はそうじゃなかったんだと知ることなどがよくあります。

 

服装の男女区別って時代や地域など社会によって変化するもので、絶対的なものではないんだなあと、じゃあいつどのように線引きがされ、既成概念にとらわれていくのかなあ、というのは常々興味があったので、本展はよい機会と思い、さっそく訪れてきました。

 

 

デニムTシャツスカート

 

 

今回は展示前半をメモ。

前半では、『古事記』に書かれたヤマトタケルのエピソードを最古の例に、神功天皇などの女武者、江戸の若衆歌舞伎など、過去の日本に見られる異性装が紹介されています。

 

 

 

  役割としての異性装

 

藤原房武著『寛政遷幸之巻図 巻下』部分 1792 京都大学附属図書館所蔵 (出典:京都大学貴重資料デジタルアーカイブ

 

画像中央、赤い装束で馬に乗る人物に「東豎子 あずまわらわ」と書いてある。

天皇の行幸の際に、騎馬で天皇の履物を持って付き従う男装女官。

 

平安〜鎌倉に存在したとされるが、なぜ男装なのか等、いまだ実態は不明という。

 

『桜町殿行幸図』部分(出典:国立公文書館デジタルアーカイブ※展示外

他の絵巻では扇子で顔を隠していたりもする東豎子。裾がおしゃれ。

 

 

 

重文《石山寺縁起 巻三》鎌倉時代末期 石山寺蔵 (出典:国立国会デジタルコレクション) ※展示外

 

女人禁制の寺院で召し使われ、しばしば僧の性対象とされた女装の少年「稚児」の姿が石山寺縁起絵巻に描かれている。

本展ではサントリー美術館所蔵の谷文晁による模写本巻三を展示。

 

 

 

西川祐信・画『百人女郎品定』1723 東京国立博物館 (出典:東京国立博物館デジタルライブラリー

見本とすべき女性の多様な姿絵を集めた女性風俗本。女帝と示された人物は、男性用である冕冠と装束を身につけている。女性が皇位を継ぐには男装を経る必要があったか、と解説。

 

 

 

 

  芸能と異性装

 

芸能の世界では異性装がよく見られる。

遊女が男装して舞う白拍子、男性が女形を演じる歌舞伎、女芸者が男装をする手古舞など。

 

長谷川雪旦筆《白拍子図》江戸時代 東京国立博物館

 

平安末期〜鎌倉に流行した歌舞、白拍子。

もともと男巫の芸能だったのが、次第に遊女が舞うように。

遊女が演じるようになった詳細はわからなかったが、歩き巫女など、巫女と遊女の関わりは浅くないようで、もう少し調べてみたい。

 

 

白拍子とは逆に、もとは女性が演じていたのが男性の芸能に変わったのが歌舞伎。

歌川国綱(二代国輝)《青砥稿花紅彩画》1862 国立劇場

「青砥稿花紅彩画」では、女装を見破られて男の姿に戻る白浪(盗賊)が登場する。舞台上で女形から男役に変わるユニークな演目。

 

 

女芸能者の出雲阿国が創始したとされる歌舞伎は、遊女や女芸人が演じる「女歌舞伎」として広まるも、風俗を乱すとして1629年に禁止。

これに代わり、娘風の服装をした成人前の少年らによる「若衆歌舞伎」が盛んに。

しかしそれもまた売買春と結びついていたため1652年に禁止、成人男子のみによる「野郎歌舞伎」が登場し、現代の歌舞伎の基礎となった。

 


葛飾北斎《若衆文案図》1840 氏家浮世絵コレクション
北斎の若衆。小首をかしげ、中性的なしなやかさ。

陰間とも呼ばれ、男女問わず春を売った(本人の性自認とは関係ない異性装)。

 

 

 

豊原国周《新吉原俄獅子之図》1872 国立劇場

男結いで男装をした芸者たちが賑やかな様子。俄とは江戸時代、宴や路上にて行われた即興の寸劇。

 

 

 

……等々、古くから様々な書物や舞台などに見られる日本の異性装。

同じく古代から例があるものの、異性装は宗教的タブーでもあったキリスト教文化圏と比べると、日本の感覚はおおらかであったとされています。

が、中には非対等な欲求を満たすためであったり*、性別や身分で許容度が違ったりとひずみを感じるものもあり、必ずしも寛容であったとも言えず、だからこそエンタメの世界で豊かになったという側面もあるようです。


後半へ、続きますセーターもいもい

 

 


 

 

江戸の女装と男装 [ 渡邉晃 ]

 

 

装いの力―異性装の日本史@松濤美術館

会期:2022.9.3.土~10.30.日

会場:渋谷区立松濤美術館

料金:一般1000円

※土・日曜日、祝日・最終週は日時指定予約制


男性か女性か—人間を2つの性別によって区分する考え方は、私たちの中に深く根付いています。しかしながら、人々はこの性の境界を、身にまとう衣服によって越える試みをしばしば行ってきました。社会的・文化的な性別を区分するための記号である衣服をもって、生物学的に与えられた性とは異なる性となるのです。もちろん、異性装を実践した人物の性自認や性的指向は非常に多様なものであり、それらが異性装とともに必ずしも変化するということはありません。

日本には、ヤマトタケルをはじめとした異性装をしたエピソードの伝わる神話・歴史上の人物たちが存在するほか、異性装の人物が登場する物語や、能・歌舞伎といった異性装の風俗・ 嗜好を反映した芸能も古くから数多くあります。古代から近世を経て、西洋文化・思想の大きな影響下にあった近代日本社会では、一時期、異性装者を罰則の対象とする条例ができるなど変化がおとずれますが、それでも現代まで異性装が消えることはありませんでした。

本展では、絵画、衣裳、写真、映像、漫画など様々な作品を通して各時代の異性装の様相を通覧し、性の越境を可能とする「装いの力」について考察します。特に現代では森村泰昌の作品やダムタイプのパフォーマンス記録映像の展示のほか、1989年2月に始まったドラァグ・クイーンによるエンターテインメントダンスパーティー“DIAMONDS ARE FOREVER”メンバーによる、本展のためのスペシャルなインスタレーションが展開されます。 

近年では、人間に固定の性別はなく、従って「男性/女性」という二者択一の規定を取り払い、多様な性のあり方について理解し、認め合うという動きがでてきたものの、実際には性別における二項対立の構図は いまだに様々な場面で目にするものでしょう。男らしさ、女らしさとは何なのか。日本における異性装の系譜の一端を辿ることで、それらがどのように表現されてきたのかということを探り、「異性装」という営みの「これまで」と「これから」について考えます。(本展チラシより)

*仏教ではむしろ女色が宗教的タブーのため男児に女装させ性対象にしていたりしたのは、現代目線ではおおらかというより胸糞虐待(さらに虐待でいえば現在形で発覚しているカトリック然り、権力と容易に結びつきやすい問題)