やっと髪を切りに行けて、さっぱりハッピーな今日この頃の私ですこんにちは。
久しぶりに100万発殴られたレオンのマチルダになりました。
動物の絵@府中市美術館の覚書のつづきです。
今日は、「涅槃図」と「ノアの箱舟」についてメモ。
たくさん動物が出てくる宗教画として、会場のキャプションで仏教の「涅槃図」とキリスト教の「ノアの方舟」を並べて挙げていたのですが、このふたつを見比べるというのは思いつかなかった視点で、興味深かったです。
涅槃図は、お釈迦さまが入滅する場面に、動物たちが集まってくる。
ノアの方舟は、堕落した地上が滅ぼされる場面に、動物たちが集まってくる。
状況は異なるけど、大きな大きなものが失われる時に、たくさんの動物がそばにいますね。
▶︎涅槃図とノアの方舟
涅槃図では、特に西来寺の「八相涅槃図」が面白かったです。
金子学芸員は本日は、作品の借用のため、名古屋市の西来寺へ来ています。御住職にお立ち会いいただく中、入念に点検しているのは、動物展の目玉のひとつ、大きな大きな涅槃図です。よくみると、ここにも象と鯨がいますね! pic.twitter.com/y8RZzv9oSG
— 動物展・ふつうの系譜展@府中市美術館【図録制作チーム公式】 (@edo_fam) September 10, 2021
西来寺のウェブサイトに、作品の大きな画像があります!
入滅されたお釈迦さまの周りに、実在or空想上を問わず沢山の動物たちが集まる涅槃図ですが、こちらは海の生き物まで集合!
こまごま面白くて、ずっと見てしまいます。
「八相涅槃図」部分 西来寺 享保12年(1727)
周囲比でやたら大きなムカデとか、ミニサイズの龍とか、実際のサイズと関係なく、大小さまざまな大きさで描かれているのも面白いです。
ルーラント・サーフェリー《神の救済に感謝するノア》1625年 ランス美術館
オランダ出身の宮廷画家サーフェリーは、鳥獣画や風景画に優れ、ドードーを描いたことでも知られる画家。
ということは、ドードーがいる!右下!!
ドードーいるのに!ドードー…
今では失われたドードー鳥が、大洪水を生き延びた動物たちの絵の中にいるのが、なんだか余計に悲しい。
ドードーが人類に滅ぼされたのは、この絵が描かれて60年も経たずしてのことでした。
▶︎動物が多い日本の涅槃図
多くの動物が描かれていることが特徴的な日本の涅槃図。
もともと、インドや中国の涅槃図には動物が描かれていないものも多いそうで、日本でも古くは同様だったのが、鎌倉後期以降、会衆や動物の数が増えていったそうです。*1
現存する日本最古の涅槃図。※展示外
国宝 仏涅槃図 金剛峯寺 応徳3年 平安時代(1086年)
右下に獅子が1匹だけ横たわっています。最古から変わらぬ悲しみぶり!
三重県立美術館*2によると「涅槃図に描かれた動物は、藤原時代の金剛峯寺本の獅子1頭からはじまって、鎌倉時代末期には80をこす動物が描かれるようになったという」とあります。
動物たちが鎌倉時代に増えていった理由はなんだろう?
貴族から武士の社会に変わり、新しい宗派が生まれ、新旧派とも布教が盛んに行われた鎌倉時代。
それにともない仏教美術の制作も活発になり、有力な布教手段としての平明な表現、儀軌にとらわれない自由な発想、現実への関心を反映した新しい写実など、多様化した時代であったといわれます。また、神仏習合がすすめられたのもこの頃。
涅槃図の動物増し増しも、そうした時代背景による変化のひとつだったのかな。もう少し色々お勉強してみたいと思います。
▶︎釈迦とイエスの死と生誕
※以下は展示外です。
お釈迦さまが亡くなられた場面を描いた涅槃図ですが、西洋のキリスト教絵画にも、人々がイエスさまの死を悲しむ「キリストの哀悼」というテーマがある*3ので、改めて見てみました。
ジョット・ディ・ボンドーネ《死せるキリストへの哀悼》c.1305 スクロヴェニー家礼拝堂
時代が下るにつれ動物が増えていった涅槃図ですが、キリスト哀悼図はというと、動物はどの時代にも見られません。(もしあったら教えてください!
キリストの死には、聖母マリアや弟子たち、そして天使が集まっています。
なかでもジョットの天使は、涅槃図さながらに悲しみを大きく表していて、ほかの絵ではあまり表情がない天使ばかりなので印象的です。
一方、キリスト降誕の場面には動物が寄り添っています。
ベルナルディーノ・ルイーニ《キリストの降誕》1525 ベルリン絵画館
家畜小屋で生まれたから、馬や牛が描かれています。
中には羊や鳥、犬などが集まっているものも。
どの絵でも牛ちゃんたちが優しい目、あるいはガン見で赤ちゃんイエスを見つめているのが好きです。
バルトロ・ディ・フレディ《羊飼いの礼拝》1374 The Met
翻って釈迦の生誕では、2匹の龍が描かれた誕生画が見られます。
Life of the Buddha: The Birth of the Buddha 室町時代 15世紀初頭 The Met
釈迦が生まれた時、龍が天から清浄水をそそいだというお話から。*4
水がピーンと釈迦一直線なのが面白い😄
北斎の釈迦誕生図もある!お水ザーザー!!
作:山田意斉, 挿絵:葛飾北斎「釈迦御一代記図会 二 悉達太子御誕生の図」江戸時代・弘化2年 (1845年)
…などなど。
仏教美術とキリスト教美術、それぞれで見ることはあっても、そういえばあまり対比して見たことがなかったので、今回よい機会でした。
様々な共通点と相違点。色々な視点のひとつとして、知っていけるといいなと思います。もいもい
*2 三重県立美術館
*3 テーマは類似するも、前者は儀礼の本尊としての用途、後者は物語の一場面として伝達するそれの違いはあり。
*4 Wikipedia
*参考文献:守屋正彦著「すぐわかる日本の仏教美術」/辻惟雄著「日本美術の歴史」/文化遺産データベース/浜松市文化遺産デジタルアーカイブ/コトバンク>鎌倉時代の美術/Wikipedia>仏教絵画/Wikipedia>鎌倉文化
▶︎府中市美術館 開館20周年記念 動物の絵:日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり
- 会期:2021年9月18日(土)〜11月28日(日)
- 会場:府中市美術館
古くから、人々は動物の絵を描いてきました。美しい造形、ふしぎな生態、かわいらしさ……人とはちがう命のあり方に心ひかれ、それを形にしようしてきたのです。中でも、日本は動物の絵の宝庫。かわいい、面白い、美しい……理屈抜きに楽しめる作品が山ほどあります。本展では、西洋の絵とも比べることで、この土壌を育んだ背景や歴史を探ります。