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あぼんヌ


夜空への手紙
〜Hit the floor外伝〜
特別編
①3年後、結婚披露パーティーにて

都心のターミナル駅からすぐのビルにあるレストランが、相葉と広瀬花音の結婚披露パーティーの会場であった。

親族のみが参列した挙式は、隣接したチャペルで行われた。

レストランにある大きな窓からは、東京タワーをのぞむ景色が、澄んだ秋の青空と共に広がっていた。

レストラン室内の壁はレンガのタイルであしらわれており、都会のビルの中に居ることを忘れさせるようにカジュアルダウンした空間を作り出している。

オフホワイトの革張りのソファーや椅子はシンプルではあるが、
そのどれもが、インテリアデザインを手掛けた大野と相葉のこだわりの一品である。

窓からはテラスへ出ることができ、そこでは相葉や花音の親族の子供たち数人に混ざって、二宮と美麗の子供が遊んでいた。

その様子を、窓際に立って眺めているのは大野である。

大野は近くのソファーに座っていた二宮へ話しかけた。

「大きくなったよね。
子供、もう3歳だっけ?
男の子って、大変だよね。」

大野の視線の先では、テラスに出て子供たちと一緒に遊ぶ、娘のマリの姿もあった。

「マリちゃんは…来年二十歳だろ?ますますかおちゃんに似てきたな。
彼氏は? 家に連れてきたりすんの?
…同じ美大の男なら、やめといた方がいい。
大抵が変態だ。
な、大野、おまえと同じ、エロいやつば〜っか。」

二宮の言葉に大野が不機嫌な表情を見せた。

二宮は傍の杖を手にとり、やっとの思いでち上がり、自らも大野の隣へ並ぼうと、数歩、ゆっくりと歩みを進めた。

それに気づいた美麗が、会食の手を止め、テーブルから離れて、急いで二宮の元へと駆け寄った。

「和兄、無理しないで。
ね、つかまって、、、」

二宮は自分の腕に添えられた美麗の手をそっと振りほどいた。

「…いつまで自分の夫のこと、和兄なんて呼ぶんだよ。」

そんな二人を見て、大野が美麗へ言った。

「大丈夫だよ、藤谷さん。
俺がついてるから、料理、食べておいで。
二宮、だいぶ足、動くようになったよなぁ。」

それを受けて二宮が言った。片足は引きずり気味だ。

「美麗は藤谷じゃねぇよ。
二宮だよ、、、」

ほんの数メートルを、ゆっくりゆっくりと進み、ようやく大野と並んだ。

大野が二宮の腕をぐっと持ち上げ、その体を支えて、にっこりと笑った。

レストランには、相葉に招かれた櫻井、光浦、風間、小瀧、岡本の姿があった。

他にも、花音の勤務先である設計事務所の同僚などの顔が見られた。

もちろん、今日の主役である相葉と花音が、タキシードとウエディングドレス姿で新郎新婦の席に座っていた。

「やっぱりここでよかったね、まぁくん。バリアフリーだし、要所要所に手すりも付けたのに、まぁくんと大野さんの素敵なデザインで、レストランにとてもおしゃれにマッチしてて、違和感がないもの。母も車椅子で不安がってたけど、見て…すっごく楽しそうに笑ってる。」

「花音のアドバイスと設計のおかげだよ、このレストランがウエディング会場として選ばれるようになったのは。
俺も、福祉住環境コーディネーターの知識、もっと仕事に活かせるように頑張んなきゃだなぁ。
まずは、二宮さんが南房総に建てる別荘のコーディネート! 頼まれたからには最高のものにする!」

「そうね。二宮さんもまだしばらくは、車椅子が欠かせないみたいだもんね…」

「うん、、、、」

テラスから、爽やかな秋の風が、レストラン全体へと流れていく。

招待客は80名程度の、こじんまりとしたアットホームな結婚披露パーティーである。

しかし、その場所に、本来なら居るはずの、大野の妻である香織の姿はなかった。

(つづく)