あぼんヌのブログ★嵐と大野智…ときどき妄想小説★
小説は全てフィクションです。
実在の人物・団体等とは、一切関係ございません。
  • 16Oct
  • 15Oct
  • 12Oct
    • 【終】#26 10年目の夏・かたちあるもの

      もうひとつの魔王〜魔王Another Story〜" 10年目の夏・かたちあるもの "【終】#26〈智サイド〉「…めっちゃ怒られた。浮気隠されるより嫌だっつって。じゃあ浮気しても怒らねぇの?って聞いたら、怒るに決まってるでしょっ!だってさ〜〜」「で? 結果はどうだったんですか。事務所にもちゃんと検査結果報告しなきゃなんですけど。」「うん、、、、、」しばらくまた、東京だけの生活になる。狭狭したこの半径何キロって世界を、現場とマンション、車で行ったり来たり。でもそれは、どこの誰だって同じだよね。オレも、そこの君もさ、大人も、子供も。でも、子供にはもっともっと、色んな世界があるんだってこと、見せてってやんなきゃならない。「…鈴木くん、病院またついてきてくんない?」運転席の鈴木くんへそう話したら、その体が一瞬固まった。「え、、、、大野さん、まさか何か、ヤバイやつだったんですか、、、」「うん、、、食事の後ね、すぐ横になっちゃダメだって書いてあった。自覚症状ちょっと出てんじゃん、オレ。なんかこう、食後さ、歯磨く時におえってなんの。そういう場合は薬飲めってだから。」車は放送局のスタジオへ。楽屋にはメンバーが揃っている。二宮 「…ねぇ、大野さん、友也からまたメッセージ来たんだけど。」「え、、、? なんて?」携帯型のゲーム端末を手に、ニノがオレに話しかけてきた。二宮 「お父さんにインタビューしてもよくわかんないから、ニノくんにも聞きたいって。」「ふっふっふっ…マジかい。」二宮 「夏休み始まる頃、職業がどうのって質問してきたの、アイツ宿題だったんだね。」「…難しいんだよね、、、子供には嘘つけないし、中途半端なこと答えらんないし。」オレとニノで珍しくああだこうだ話してたら、いつのまにかそこに、、、相葉 「ああ〜そういう宿題あったね…俺も親父に聞いたもん、中華の真髄。」櫻井 「…宿題だったかは覚えてないけど、俺はじいさんに新聞記者の仕事のこと聞いたことある。」松本 「その友也の宿題、俺ら5人でちゃんと答えてやろうよ。だって、俺らはグループで活動してるんだから。」友也、おまえにはさ、周りに素敵な大人たちがたくさんいるよ。この人たちみたいな。翔子、オレたちはさ、親だけで子供育ててくんじゃないんだね。誰にも邪魔されたくないって思ってた。翔子と二人きりならそれでいい。ゴールドクレストで壁作って、一生だって。でも、子供はそれじゃダメなんだ。怖がんないでさ、不安がってばっかないで、これからは、自分たちから外の世界にどんどん出ていこう。相葉 「逆流性食道炎かぁ〜。リーダー食べてすぐ寝ちゃうからダメなんだよ。」「ふふ、うん。気をつけるね。相葉ちゃん、ありがと。」この夏は暑かったな。色々あった、地味にね。「え! マジか!?」スマホでネットニュースを読んでいたら、友也の友達のユウって子の両親の離婚が報じられていた。「慰謝料、、、ごっ、5億、、、ふっ、ふふふっ、なぁんだこれ…」馬鹿だな、コイツら。オレは5億貰っても払っても、友也と結愛を手放したりしない。翔子だって。この夏、成瀬さんが死んでから10年目とかいう夏は、、、なんかね、オレも少しは大人として、親として、男として、成長できたような気がする。・・・・〈翔子サイド〉領が届けてくれた歌を、あらためて聴いていた。でもこの今(とき)を生きるあなたをずっとずっと見守るmy loveその心に…寄り添える場所 遠い夏の日温もり生きる喜び全ての心に…この歌の歌詞の中に、タイトルの言葉は一度も出てこない。領がそれをどう解釈したか私にはわからないし、そこまで考えて聴いていたのかもわからない。だけど私はね、領、今この時を大切に、人を愛して生きていきなさいって、目に見えるものも見えないものも、あなたにはしっかりと、かたちあるものとして今は存在し、愛しいものになっているはずだよって、そんなメッセージに聴こえるの。10年目の夏、大切なことにたくさん気づくことができた。領、ありがとう。本当にありがとう。〈智サイド〉仕事から帰る時だった。この夏、大きな決断をしたとある男と、オレは偶然顔を合わせた。「おお、大ちゃん!」「……あ、タッキー。」それは駐車場で、1〜2分の立ち話だった。「ね、ねねねね、大ちゃんちの長男くんって何歳なの?」「……は? なんで?」「どこからか回ってきたんだよ、大ちゃんちの長男くんが『君だけに』歌ってる音源がさ!」「え、、、、」「ね、どうかな、未来のジャニーズ、背負って立ってくれないかな?知ってるでしょ、スクール立ち上げる話。あの子の歌唱力なら、特待生だよ!今度動画見せてよ、ねっ!親子共演、最高っ!」「はぁ!?」「時間ないや、悪い、また!大ちゃんツアーでしょ?体に気をつけてね!じゃ!」「………………………。」、、、なんだ、それ。ふふ、この夏の最後は、これかい。友也は友也の人生を、友也が決めればそれでいい。まだまだオレら家族のドタバタは終わんないみたいだね。あ、、、今、秋の匂いがした。澄んだ空気の中に感じるんだ。あ〜鍋食いたいな。翔子にLINEしよ。また何かあった時は顔出すね。まずは20周年イヤー、頑張ります!その後のことは、、、そん時考える!もうひとつの魔王〜魔王Another Story〜" 10年目の夏・かたちあるもの "全26話 (おわり)ーーーー駆け足で最終回となりました。ぼわんとしたストーリーだったと思いますが、私なりに一生懸命書きました。軽くご感想など、お聞かせいただければ幸いにございます読んでいただいた全ての皆さま、いつも「いいね」を下さる皆さま、長い間ありがとうございました。m(_ _)mあぼんヌ

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  • 11Oct
  • 10Oct
    • #25 10年目の夏・かたちあるもの

      もうひとつの魔王〜魔王Another Story〜" 10年目の夏・かたちあるもの "#25〈翔子サイド〉大人になると、自分に心地の良い物や場所に囲まれて過ごしたいと思うし、気の合う人と過ごしたいと思う。都合の悪いことからは壁を立て、身を守ろうとして。でもそれは子供にとって必ずしも良いことではなくて。「この…ゴールドクレストさぁ、今度ちょっと高さ、短くしてもらおっか。なんか、、、要塞みたいだよね、ウチ。」逗子の家を出る時、車に乗り込む前に、智くんが家の周りをぐるっと囲む針葉樹の壁を眺めて言った。「…それにしても、すっげなんかたくさん貰っちゃったね。」午前中、家族四人で商店街を歩いた。昨夜、夏祭りの後片付けや打ち上げに顔が出せなかったことが智くんは気になっていた様子で、顔見知りになった人たちへ挨拶をしに回ったのだ。「お肉、智くんでも食べられるようにって、グラスフェッドビーフだって。ほら、脂の少ない赤身の。それと、お野菜、結愛が好きなフルーツトマトがこんなにたくさん。あと…じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、、、」「ほら見て!僕が作ったマグカップ!!貴一おじちゃん、焼いてくれてた!」最後に寄った貴一さんの陶芸店では、緩衝材で丁寧に梱包された小さな箱を貰った。「おお! この前友也が作ったやつじゃん! すっかり忘れてた。」「お母さん、、、、」友也が作ったというマグカップは、粘土でも軽く、表面は手作りらしく少し凹凸があって、色は濃紺から水色への、ブルーのグラデーションがとても綺麗な物だった。「これ、あげる!お母さんにプレゼント。」「え、、、私に、、、?」「うん! 昨日、『君だけに』って、お母さんのために歌いますって…僕言ったけど、あれたぶん緊張してたんだ、僕。頭の中全然違うこと考えてて…お母さんのために歌ってなかった。だから、、、これはお母さんだけにあげる!」車に乗り込み、運転席に座った私に、後部座席から身を乗り出して、友也が私へマグカップを手渡してくれた。チャイルドシートに結愛を乗せる作業をしていた智くんと、私は自然に目が合い、、、そして、微笑み合った。「…ありがとう、友也。上手に作れたね〜すっごい素敵!」友也が抱えていた色んな思いを、涙へと変えてくれた智くん。ううん、きっとそれは智くんだけじゃなく、この街の大人たちも。そんな場所へ導いてくれた、、、父も、そして、全てのきっかけになった、中西さんも、そして、『かたちあるもの』という歌と共に、気持ちを届けてくれた領も。私がもし一人でずっと子育てをしていたら、友也の思いを素直に涙へ変えてあげることが出来ただろうか。、、、不安。いつかまた友也が、領のことを知りたがるその日が、不安。でも、、、、「…マグカップほら、また箱ん中にちゃんと入れとけよ。」「パぁパぁーーー!おうたうたって! かれーらいしゅの!」智くんが結愛をチャイルドシートに乗せ終え、助手席へどかっと座りドアを閉めた。「ああ? カレー?そんな歌あったっけ?」私はゆっくりと、家の前から車を出した。名残惜しそうに、助手席の窓から智くんは建物を眺めていた。「あれだよ、かぁ、かーっかかっかかかかカレぇぇ〜れぇ、らーっららっらららライスぅ〜♪」結愛の隣に座る友也がそう歌ってみせた。「あ〜あ、あれかぁ。カーステに入ってる!よし、歌うよ、、、いや、一人じゃ恥ずかしいな、皆んなで歌おう!」流れてきた子供番組の歌。「…これ、すんごい昔からある歌よね。」「そうなんだ?オレ結愛のおかげでたくさん歌覚えたなぁ〜。やべぇな、ライブのは…まだ覚えてないのいっぱいあんだけどさ…ふふっ」そうやって、結愛のリクエスト曲を家族皆んなで歌いながら、、、車は一路、東京へ、、、「おくちがろろろ やーっけるよハァーカレーライスはかっらっいーとーってーも からいよ〜かぁかーかかっかかかかカレぇ〜レぇ〜らっらららららライスぅ〜♪」不安だけど、きっと私たち家族の絆は、一秒一秒、強くなってる、強くなっていくから、きっと、大丈夫よね、、、〈智サイド〉夕方の渋滞に巻き込まれる前に、オレたちは東京の自宅マンションに到着。郵便受けの中身を翔子がチェックしていた。ダイニングのテーブルの上に数枚のダイレクトメールとあと一つ、定形外の白い封筒が乗っている。「…なんだろうこれ。ファイブスタークリニック、大野智様。」その封筒を手に、聞き覚えのある病院名を口に出した翔子に、オレは慌てふためいた。「あ〜〜何でもない!事務所の住所書いたつもりだったのに…ウチの書いちゃってたか、、、」とかなんとか言っても、もう遅かった。翔子がオレを怪しいものを見る目でジッと睨み、ひとこと、オレの名前を呼んだ。「……………智くん、、、?」「はい、、、、」そして詰め寄られた。「病院って何? どういうこと?………見せて。」翔子には黙って受けた、胃の内視鏡検査の結果が送られてきた。検査を受けたあと、麻酔から覚めるまで回復室で爆睡して、時間がなくて、その場では医者の話を聞かずに仕事へ行った。なんだよ、ど、どうもない。どうもないはず。なのに今オレ、胃が痛いや。(つづく)

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  • 05Oct
  • 03Oct
  • 02Oct
    • #24 10年目の夏・かたちあるもの

      もうひとつの魔王〜魔王Another Story〜" 10年目の夏・かたちあるもの "#24〈智サイド〉カラオケ大会は出場者の中に未成年が含まれるという理由で、動画撮影、SNSへの投稿は禁止されていたけど、遠くから撮った動画が知らない間に拡散されていた。それはどれも友也の姿は判らなかったし、音声もあやふやなものばかりだった。貴一さんの工房で家族四人で焼きそばを食べて家へ帰った。、、、友也が泣いた。まるで何年もの思いを張り裂けさせるようにして泣いてた。血の繋がらないことにとらわれないと、強く思ってた、ずっと。でも逆に、そう思っていたことが、友也との間に見えない壁のようなものを作っていたのかもしれないと思った。自然でいいんだ。考えすぎるのはもうやめよう。友也に言われた。「職業調べの宿題が残ってるんだ。僕、お父さんの仕事について調べることに決めたから、あとでインタビューに答えてね。」って。カラオケ大会で歌ったこと、翔子になんて言われるか…戦々恐々って感じだったけど、翔子は家に帰って二人になっても何も言わなかった。「…普段さ、歌いたいって思うこと、ないんだよね、オレ。」この夏にちょっと悩んだことを、風呂から上がってビールを飲む翔子に話してみた。「歌いたくなる時って、、、楽しいからとかいう理由だけじゃないと思うけど、、、」「え………?」「ストレス発散…とかね。だから、、、」「だから……?」「智くんが歌うことを仕事…って考えてるのは、何もおかしくないよ。それだけ歌に対して真剣ってことでしょ?何よりも大切にしてるから、ストレス発散の手段なんかに使いたくないし、本当に自分の歌を必要としている人の前で、場所で……歌いたい、、、違う、、、?」洗い髪をタオルでくるっと巻いて、サイズの大きなメンズシャツのようなパジャマを着た翔子は、美味そうににビールを飲みながら、そんなことをサラッと言ってのけた。オレの中で解決してたと思ってた悩みは、今、完全に過去のものになった。「………ふふふっ、それか、、、智くんにはストレスがないだけかも。あははははは、、、、」「はぁっ? なんだとぉ!」逃げる翔子を追いかけて、二人ではしゃいで、抱きしめ合って、、、やっぱ嫁さんだなって、オレの嫁さんだなって、泣きそうなくらい、そう思った。今日歌ったことが、オレの中では大切なことだったってことも、翔子はちゃんとわかってくれてる。そんな翔子にもう一つ、伝えたいことがあった。「…オレさ、翔子のお父さんの話、祭りの実行委員の人たちに色々聞いてね、、、思ったの。」和室に敷き詰めた布団の上でスヤスヤ眠る友也と結愛を見ながら、翔子に言った。「…あの、はっ恥ずかしいこと言うから、後ろ向いててくんない?」「うん、、、ふふ、何だろ。」翔子と背中合わせに立った。「オレのライバルはさ、一生…成瀬さんだと思ってたけどね、、、違うなって。」背中越しに感じる翔子の柔らかい体と体温が伝わって、あったかい。「オレ、お義父さんにもし会えてたら、こうやってちゃんと言えたかな、、、翔子のこと、友也のこと、お義父さんより愛しますって。大切にしますって、守りますって。」翔子はしばらく黙ってた。そして、背中合わせだったのを向きを変えて、オレの背中にそっと体を寄せて、「……ありがと、智くん、、、」ってつぶやいた。和室の床の間の掛け軸にふと、目がいった。「…ふふっ、この四字熟語も変えなきゃ。そだなぁ、、、なんかこう、もっと家族!とかぁ…オレ父親なんだぜ的なの。なんかない? 翔子。」そう言ったら、今度はオレの左腕に体を寄せてきた翔子が言った。「…いい。落花流水がいい。そのままがいい。嬉しいけど、嬉しいけどね、智くんが私のことを、父のように…なんて、思ってくれなくていいの。」「え、、、ダメ?重いか?、、、オレ気持ち悪い?」「ふふふふ、ううん、重いのも気持ち悪いのも慣れた。、、、そうじゃない。」「…なんだよ、結構いいこと伝えたつも、、、、」最後までオレが言う前に、翔子が唇にチュッて、チュッてしてきた。珍しすぎて、固まってしまった。「男と女が惹かれ合うことを例えてあるんでしょ? この四字熟語。…忘れたくない。そうやって私たち、今一緒にいるんだってこと。」「………………………。」オレの前に立って、すっぴんでも大きなその目で、翔子がじっとオレを見つめている。いや、半分、睨まれている。「…知ってたの、あれ、掛け軸の意味。」翔子がふっと表情を緩めて笑った。「うん、、、まぁね。さってと、髪乾かしてくるね。二階の寝室、エアコン入れてるよ。、、、先行って待ってて。」「えっ、、、、? 」翔子から誘われるなんて、今日はやっぱりお祭りだわ。貴一さんの工房から帰るとき、飲み物を差し入れに持ってきてくれた貴一さんから聞いた。「…昔さ、大ちゃんの嫁さんに告白してフラれた男がいたって、話に出たろ?あれね、、、俺。」驚いて声も出なかった俺に、貴一さんが耳打ちするように言った。「…釣った魚は大きかったろ?油断するなよ、大ちゃん。放せばすぐ、横から持ってかれるぞ?」って。持ってかれるかよ。いや、持ってかせねぇし、放したりしないし。「…大物、、、でもマグロじゃねぇよなぁ。」「……何の話?」オレの上で飛び跳ねる翔子は、綺麗な、、、「……トビウオか。美味いんだよねぇ、、、」「もう! さっきから魚のことしか考えてないよね!?」「あっ、違う違う……あははははっ!」夏祭りの夜が更けていった。オレたちは明日、東京へ帰ることを決めた。夏が終わる。本当に、夏が終わるんだな。(つづく)

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  • 29Sep
    • #23 10年目の夏・かたちあるもの

      もうひとつの魔王〜魔王Another Story〜" 10年目の夏・かたちあるもの "#23〈友也サイド〉緊張するってどんな感じのことを言うのか僕はわからなかったけど、一人でステージに立った時、暗くなってたけどお客さんがいるのがわかって、心臓がいつもよりどくどくしてきて、曲の紹介は何とか言えたけど、覚えてた歌詞が頭から飛んでいくような感じがした。歌い出しは何だっけ、パート分けを間違えたらどうしよう。急に怖くなって、お父さんが立ってる方を見たら、その顔はこれまで見たことない、カッコいい顔をしたお父さんだった。まるで、ゲームに出てくる無敵のラスボスみたいだった。「本気でやるんだよ。人の前に出るんなら、中途半端は絶対ダメなの。わかっちゃうからね、聴いてる人には。練習したこと思い出して、自信持って。大丈夫、お父さんも本気でやるから。よし、行くぞ友也、楽しもう! お祭りお祭り!」僕をステージへ送り出す時にお父さんが言った言葉を心の中で繰り返したら、歌詞が空から戻ってきた。お父さんも本気。わかった、だったら僕も本気でやる。楽しむ、お祭り。このどくどくもきっと、楽しみだから鳴る音なんだ。その後はとにかく一生懸命歌った。「君だけに」って、昔の歌、たくさん聴いた、たくさん歌って練習した。カラオケでお父さんが歌ってくれた時、「…愛しているんだ」って聴いたときはね、本当は顔が真っ赤になりそうなくらい恥ずかしかった。お父さんが真面目に歌ってるのを聴いて、恥ずかしいって思った。嵐の歌にもたくさん出てくる、そんなの。でも今、あの時真面目に歌ってたお父さんのこと、恥ずかしいって思った自分が恥ずかしいって思ってる。" 思いを音に乗せんだよ "お父さんはいつも本気で、聴いてくれる誰かのために、思いを込めて歌ってるんだ。アイドルって職業なのかな、どんな仕事なのかなって、夏休みの宿題、どうしようって思った。お父さんは毎日何をやってるんだろう、歌って踊って、時々テレビじゃ芸人さんと同じみたいなことして笑われて。本当のお父さんの弁護士とか、桝くんみたいな銀行員とか、スーツ着て、机に向かったりパソコン触ったり、人を助けたり、そんな職業じゃない。でも、たくさんの人を笑顔にできる。まるで魔法みたいに。今、自分がステージって場所に初めて一人で立ってみて、わかったことがあるんだ。キラキラしたこの場所に立つには、誰もいないところでたくさん練習したり、努力が必要だってこと。たった4分間の一曲に、何日も何日も、ううん、たぶん、お父さんは何年もかけてきたんだってこと。たくさんの人を笑顔にするには、魔法を使えるようになるには、修行がいるんだ。アイドルって、凄いんだきっと。それに、これがユウのお父さんならどうしたんだろうなってことも考えた。叩いたりすることで、ユウに何を教えたいのかなって。きっとユウのお父さんは本気じゃないんだ。" お父さん " を、本気でやってないんだ…って。今ね、本気で僕と一緒に歌ってくれてるお父さんの声を聴いて思った。僕のお父さんは僕のお父さんを、どんな時も本気でやってるんだってこと。「…愛しているんだ」ってたぶん、女の人に伝えるだけの言葉じゃないんだなってことも、自分が歌ってみてわかったよ。僕はお父さんを愛しているんだ。お父さんも僕を、愛しているんだ。お母さんのために歌いますって言ったくせに、僕の心の中はお父さんでいっぱいになってた。歌い終わってステージの横の方を見たら、お父さんと、そしてお母さんも結愛もいた。みんなの顔を見たら、色んなことがぐちゃぐちゃになって涙が止まらなくなった。全部をちゃんと、言葉で伝えたかったけど、何て言えばいいのかもわからなかった。「…ライオンじゃなかった、、、」ってしか、言葉が出てこなかった。そしたらお父さんは、さっきまでのラスボスの気配も消して、自分はサルだって笑って言ってた。僕はライオンよりサルの方が頭もいいことくらい知ってる。「なんかいい匂いするね。」お父さんがお母さんに言った。「焼きそばだよ、貴一さんから。工房で食べて下さいって。」その匂いにつられて、僕の涙も止まった。「友也、、、頑張ったね、、、お腹空いたでしょ?」お母さんは僕にそう言いながら、ハンカチで涙を拭いてくれた。「パパ、パパ、ゆあも、だっこ!」「ふふふ、ゆあ〜〜、、、なんか、すっげカラフル、、、」ステージの横の暗い場所で、結愛の頭のドラえもんの青と、腕の綿菓子のリラックマの黄色と、手に持った水風船のピンク色が、ちょろちょろちょろちょろしてるのが、可愛くて、でもすごく面白くてね、僕も、お父さんもお母さんも、みんなで笑い出した。「ゆ〜あぁ、おまえめっちゃお祭り楽しんでんじゃん、よいしょっと!」お父さんはちゃんと、僕の次に結愛を抱っこした。そして、今度は僕とお母さんが、自然に手を繋いだ。「君だけに」の歌の意味は、僕にはよくわからないけど、僕はこの家族みんなに出会うために、抱きしめるために、生まれてきたんだね。生まれてきてよかった。僕、この家族でよかった。そう、思った。(つづく)

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  • 28Sep
    • #22 10年目の夏・かたちあるもの

      もうひとつの魔王〜魔王Another Story 〜" 10年目の夏・かたちあるもの "#22〈翔子サイド〉曲が流れ始めた。智くんにこんな場所で歌わせるわけにはいかないと、すぐに聴こえてきた友也の歌声に耳を傾けようともせず、私はステージの裏の方へ、結愛を抱えたまま走り出した。「…聴いてあげて、、、!」出場者の控えのテントの前で、そう言って私の体を制止したのは貴一さんだった。私はつい、その顔をきつく睨んでしまった。「…わかるよ、わかる。色々と思うところもあるだろうけど、でも今は…友也くんも大ちゃんも、翔子さん、貴女のために歌ってる……」聴こえてくる友也の歌声と、ステージの上のその姿に気づいた結愛が興奮し、私の腕から降りよう降りようとするのを、貴一さんがふっと抱き上げて自分の肩に乗せ、肩車をしてくれた。その瞬間、まだ小さかった友也の体を同じようにしてくれていた父の姿を、、、思い出した。「ほぉら、お兄ちゃん頑張って歌ってる、よく見えるだろ〜?」「にぃに〜〜にぃに〜〜!」、、、違う、興奮していたのは私だ。あまりに突然のことで、頭が真っ白になってしまっていた。結愛の重さを体に感じなくなった途端、我に返ったように、、、友也と、そして智くんの歌声が、私の耳にすっと入ってきた。…そうよね、聴こう。今は友也と智くんの歌を聴こう。友也パート智パート二人一緒に『君だけに』君だけに ただ 君だけにah めぐり逢うために僕はさびしさと ともに生まれたよ夜が 星空を ah 海が風ah 抱きしめるように僕は 君だけを抱きしめるために生まれてきたよ・・・あ、、、友也の声と智くんの声が、重なった、、、・・・君を見つめると 僕の胸の中は星が渦を巻く 銀河に変わるよ…愛しているんだ・・・友也がこんな風に歌ってるのなんて、お母さん初めて観たよ、、、友也がこんなに上手に歌えるなんて知らなかった。綺麗、、、本当に綺麗な声、、、高く澄んだ声が、天へ届くみたい。天へ、、、、君だけに ただ 君だけにah 届く悲しみを 連れて 僕は今星屑のように君に降りてくI Need You It"s So Simple Wordもしもさよならの 妖精たちが来て僕にキスしても消せない せつなさ…・・・・…智くん、珍しいな、下のパートでハモってる。本気で…歌ってる。今、周りが少しざわついた。きっとこの声に気づいた人は…いる。あなたが何を考えてここで歌うと決めたかは分からないけど、きっと自分の中に何かあって、それを越えようって葛藤した末のことなんでしょ…?だって、いつもそうだもんね、、、自分の中の理想形に近づくために頑張って、、、でもその結果に外の評価なんて必要なくて、全てが自分の内の中で始まって、納得すれば完結していく。そのハードルは高くても、必ず超えてる。この夏にあなたも、色んなことを考えてたんだろうね、、、・・・My Sweet Heart君だけに (君だけに)ただ 君だけに (君だけに)ah めぐり逢うために僕は さびしさと ともに生まれたよOnly You…・・・曲が間奏に入った時、貴一さんに案内されて、私は結愛と一緒にテントへ入った。「すみません。私が友也くんに、出場者が足りなくて困ってるって、出てみないかって、誘っちゃったもんだから。」テントの中には他の実行委員の人たちが数人居るだけだった。皆んな、昔顔を合わせたことのある街の人たちだ。「いえ、、、引き受けたからには、息子も主人も、きちんとやり遂げたかったんだと思います。私も、失礼な態度を取ってしまって…申し訳ありませんでした。」貴一さんは、用意していた露店の焼きそば4人分を入れた袋と、鍵を一緒に私に手渡した。「ここ、裏手がすぐ、私の店の工房だからさ、よかったらご家族皆さんでゆっくりして。歌声聴いて、人がまたこっちへ戻ってきてるって、連絡が入って。今出て行くとマズイかもしれないから。…しかし、さすがにやっぱ…凄い、大ちゃんは。こんなプロの歌手を審査して、賞をあげるなんて失礼なことは出来ないから…後で友也くんには参加賞をお渡ししに伺いますね。」「いや、そんな、、、、」貴一さんと、その場にいた実行委員の人たちに深々と頭を下げられた。曲は終盤へさしかかり、私はステージ袖へ向かった。・・・星の神話たち 愛を導いてゆくuh いつも 君だけにただ 君だけに ah めぐり逢うために僕はこの惑星(ほし)にさびしさを抱いて 生まれてきたよ・・・曲が、、、終わった。立って、まだマイクを持ったままの智くんへ近づいた。私と結愛の姿に気づいた智くんが、少しバツの悪そうな顔をして笑った。まばらだったはずの観客がそういえば、曲が終わる頃には何倍もに増していて、拍手が鳴りやまない。ステージ上の友也を司会者の女性がねぎらう言葉が聞こえた。友也はマイクを通してハッキリとした声で「ありがとうございました。」と言って、観客へぴょこんと頭を下げ、急いでその場から私たちが待つ袖の方へと走ってきた。そして智くんの体へ勢いよく飛び込んだ。緊張がとけたのか、達成感からなのか、友也がわんわん泣き出した。「…ライオンじゃなかった、、、」友也が智くんへそう言った意味はわからなかったけど、きっと友也は智くんからの確かな愛情を感じ取れたんじゃないか、そう思った。智くんの本気は、私にだって伝わってきたもの。「オレは干支も動物占いもサルなんだよね。ライオンじゃないよ、ふふふっ…」友也への智くんの答えにはつい笑ってしまったけど、その腕はしっかりと友也を抱きしめていて、、、私でさえ、二人の間には入っていけないような、深い深い絆と信頼関係のようなものが、確かにそこには、、、あった。(つづく)

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  • 25Sep
    • #21 10年目の夏・かたちあるもの

      もうひとつの魔王〜魔王Another Story〜" 10年目の夏・かたちあるもの "#21〈翔子サイド〉智くんと友也が二人で何かコソコソしていたことには当たり前のように気がついていた。友也との会話から何となく、それが夏祭りに関係しているんだろうということも予想がついた。この街の商店街の夏祭りは昔から8月の終わりに行われていて、生前父が実行委員の中心にいたことは知っていた。別に商店街で店を持っていたわけでもないのに、なぜ父がここまで街の人たちと深く関わろうとするのか、当時の私には理解し難かった。「お久しぶりですね、、、」夏祭り当日、友也を迎えに来てくれたのは、商店街で陶芸作品の店を持つ貴一さんだった。「いつも主人と息子がお邪魔してしまって…私もご挨拶が遅れて失礼しました。」久しぶりに顔を合わせ、お互いにどこか気恥ずかしさを感じる瞬間だった。「じゃあ、お母さんは結愛がお昼寝から起きたら会場の方まで行ってみるね。」「うん!絶対だよ?絶対来てよ!」そうやって、貴一さんへ友也を預け、ほどなくして智くんからメッセージが届いた。松濤出た直接夏祭り行ってみるわ友也は?そこまで読んだところで、お昼寝から結愛が起きてきた。夢見が悪かったのか、珍しく泣いて私を探している。智くんからのメッセージの画面もそのままに、スマートフォンをテーブルに放り出して結愛を抱き上げた。「ほら、ゆ〜あ、お茶飲もっか。お祭りに行ってみようね〜。にぃにとぉ、パパ、どこにいるかな?」本当は、夏祭りなんてあまり行きたくなかった。あの頃だってそうで、、、領のことがあった後、妊娠した体で、まだお腹も目立たないうちから逃げるようにしてこの街へ来て、、、どこへも行きたくなかった、誰とも会いたくなかった、それなのに、父は私を買い物へ引っ張り出したりして、一体どういうつもりなのかわからなかった。今も、、、あんなに人の多い場所に智くんを行かせることや、この街の人たちに私たち家族のことが知れ渡ったら、、、写真を撮られたら、、、そんな不安が大きかったし。「.…何考えてるんだろう、あの二人、、、」お茶を飲み干し泣き止んだ結愛を椅子に座らせ、私は智くんへ返信した。貴一さんが迎えにいらした私も夕方には顔出してみる「…よし、結愛、お着替えしよう。」誰にも邪魔されたくない。家族四人だけでいたい。そう思ってこの夏はここへ来た。それなのに、いつのまにか私たちは自分自身から、色んな場所や人と、関わりを持とうとしている。それは誰のために?何のために、、、?家を出る支度をしていると、また智くんからメッセージが届いた。中西さんのfacebook今見て…更新されてた今朝亡くなられたって更新は奥さんかな「……………………。」既読を付けてしばらく、返信ができなかった。" 成瀬には誰にもいなかった。あいつの悲しみを、涙に変えてやれる大人が、周りに誰も… "あの頃の領と接し、彼のことを理解してくれていた人が、、、いなくなってしまった。そして…子供にとって、周りにいる大人の存在がどれだけ大きいものかということを、私たちに教えてくれた、中西さん。今、こっちへ向かう車の中で、智くんは何を考えているだろう。私は静かに目を閉じて黙祷した。わかったありがとう" かたちあるもの " という歌が、あの頃の領の思いが、ポストへ届いていたことからこの夏の全てが始まった。10年目の夏。、、、10年という節目なんて、遺された人間が勝手に感じるもの。それでもやっぱり、私たちを何かへ、何処かへ、導いてくれているような気がしてならなかった。「…きんぎょさぁぁ〜〜ん!あか、あかぁ〜! あかいのーー!」「ごめん結愛、金魚さん持って帰っても飼ってあげられないよ、、、」暑さもおさまって陽の暮れた頃、結愛を連れて夏祭りへ、、、商店街には右にも左にも様々な露店が並んでいた。目に写るもの全てに興味津々の結愛の手を引っ張ったり、抱き上げたまま歩いたり。「あ! ボール!ボール!ママ!」「…え? ボール?ああ、水風船か、、、すみません、手が離せなくて…そのまま一つ頂けますか?」「ぴんく〜! ゆあび〜んく!」風船釣りはせずに、露店主に小銭を渡してピンク色の水風船を貰い、結愛の手に持たせた。遠くからは音楽と、誰かの歌声が聞こえてくる。「とりあえずお歌の方に行ってみようね。にぃにはどこかな、、、」イベントの行われているステージのある会場までたどり着くのに、かなりの時間を要してしまった。結愛の頭には青いドラえもんのお面、腕には黄色い、リラックマの大きなビニール袋に入った綿菓子に…手にはピング色の水風船。" 次が最後の出場者になります "司会者なのか、女性の高い声が聞こえてきた。ステージからかなり離れたところに立ち、ようやくこの場所でカラオケ大会が開催されていることを知った。街はすっかり濃紺の空に染まり、ステージの照明が明々と輝いて見える。夏祭りも終わりに近づき、片づけを始める露店も出てきて、カラオケ大会を観ている観客もまばらだった。ステージ横のプログラムは目に入らなかった。" さて、20番目、最後の出場者に出てきてもらいましょう!大野友也くんです、どうぞ〜! "「……え!?」結愛をずっと抱えたままで腕も腰も痛くて、その小さな体を下へ降ろそうとした時だった。司会者の女性の声と同時に、ステージ上に友也が現れた。私は驚きながらもまた結愛を抱え直して、ステージへ近い場所へ急いで進んだ。" さあ、最後だね。友也くん、自分で曲紹介できるかな? "マイクを持った友也がそれに応えた。「はい。曲は、『君だけに』です。お父さんと一緒に、お母さんのために歌います。」その友也の言葉に耳を疑った。" お父さんは恥ずかしいから後ろで歌うんだよね? "「…はい、すみません。」そのやり取りに、まばらにいる観客から笑いが起こった。友也が言ったお母さんのために、という言葉は頭からすっかり離れてしまっていた。二人でコソコソしていたのは、これ。後ろでお父さんが歌う、、、?嘘でしょ、ちょっと待って、智くん、待って、、、あなたの声は、誰にだって、すぐにわかってしまう。待って、ここではダメ、歌っちゃダメ、、、!出場者の控えのテントを見つけ、走り出してももう遅かった。会場に、商店街に、指をはじくイントロの音が、、、響き渡った、、、(つづく)

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  • 24Sep
  • 21Sep
  • 19Sep
    • #20 10年目の夏・かたちあるもの

      もうひとつの魔王〜魔王Another Story〜" 10年目の夏・かたちあるもの "#20〈智サイド〉翔子の両親は、雅也くんのことがあった後に東京を離れてこの街で暮らすようになった。お母さんの心の病気を治すため、自然の豊かなこの街へ引っ越したのだという。東京に一人残った翔子はこの街に当時住んだことはなく、家族が揃って暮らしたのは、友也を妊娠したことがきっかけだった。「娘が妊(はら)んだのに出戻ってきて…って、桜井さん明るく話してたなぁ。え? もしかして、あの坊ちゃんのお父さん、大野くんだったのかい!?」「…あ、いや、それは違くて、、、」小さなステージだけど、夏祭りの出し物を披露する場所は、照明も音響も本格的なものだった。大まかなことは業者に設営をやってもらうのだそうだけど、その他の細かなことは実行委員の面々で毎年やっているらしい。「坊ちゃん名前なんていったっけね?」「友、、、友也です。」「あ〜そうそう!あの頃はさ、桜井さんがホント、お父さん代わりにしてらしたもんね。父親がいないことを友也くんに感じさせたくないんだって、海にも山にも街にも…とにかく連れて回ってたなぁ。」「そうだったんですか、、、」皆んなが準備の手は止めることなく、口々に翔子のお父さんの話をしていた。「あの娘さん、ここに来た初めの頃は…坊ちゃん抱いててもあんまり元気なかったけどさ、、、」「…ああ、、、、」翔子の話だ。「でも、どんな境遇だろうとさ、この街に居づらさなんて感じなくていいように、桜井さんが一生懸命、娘さんと坊ちゃんを表へ出してたような気がするよ。」「…あの奥さんもね、時間はかかったけど、少しずつ家から出られるようになったしね。…でも、桜井さんが亡くなられた後は、娘さんが一人でめちゃめちゃ大変そうにしてたよなぁ。」「ああ、奥さん認知症とかで…外をね、徘徊することがあって、俺たちも交番のおまわりさんと一緒に探したことあったよなぁ…」翔子のお母さんの話。その頃のことは知ってる。だってちょうどその頃だった、オレが翔子と友也に出会ったのは。「俺たちも、桜井さんには本当にお世話になったし、楽しい時間をたくさん過ごさせてもらったから、亡くなられた後、奥さんと娘さん親子の何か…助けになれないかって…思ってたらもう、すぐだったもんな。」「え、何が、、、、?」「東京に出てったでしょ、娘さん。桜井さんが亡くなられて、初盆終えたすぐだったよ。そうかぁ、、、あれは、、、大野くんがきっかけだったんだな?」「え、、、、」翔子の実家の話から、今度はオレの話になった。いい歳をしたおじさんたちが、わざと表情をにやけさせ、オレをからかい始めた。「べっぴんさんだもんな〜?桜井さんところの娘さん!どこで知り合った!」「えっ、、、、」「いつだ〜?どこで手ぇ付けた!」「いやぁ…え、あの、、、」「男は放っておけないもんなぁ〜ああいう女をさぁ。この街にもいたんだぞ?あの娘さん狙ってた男らは。いつだったか、お見合いの話も出たって聞いたし、誰だか、告白してフラれたとかいう噂もあったよ?」「えっ! マジで!?」オレが驚いて声を上げると、たちまちその場が笑いに包まれた。、、、不思議だった。とても不思議な時間だった。この場所で、こんな色んな話が聞けるなんて。翔子が成瀬さんと恋に落ち、友也を授かって、、、オレと出会うまでの数年間のことはそういえば、オレの中では空白で。その時間が翔子や友也にとってどんな時間だったんだろうって、オレにはそこに、居るはずのない成瀬さんのことしか頭になかったけど、、、そこには、成瀬さんが居たんじゃないんだ。そこには、" お義父さん " がいたんだ。翔子と友也のそばには、お義父さんが。そしてこの街の人たちも。「大ちゃんはこんなの見てもおもちゃみたいだろ?」「そんなことはないけど…」組まれた小さなステージをじっと見ていると、貴一さんがそう声をかけてきた。そういえば、こういうステージ作ったりっていう裏方の仕事も、規模の大きなものを見続けてはきたけど、自分たちの手で作業するなんてこともなくなってしまってて、何だろう、とにかく今、自分の中でたくさんのことが巡ってる。そして、楽しかった。その日に予定された作業を終えて、当たり前のように皆んなに飲みに連れて行かれた。そこでは昔の話はあまり出なかったけど、釣りの話に高校野球の話、皆んなの嫁さんへの愛ともいえる愚痴、、、そんな話題で大盛り上がりだった。「たぁっだぁいま〜〜!」かなり酔っ払って家へ帰った。手には一応、すみませんのお土産アイス。玄関に出てきた翔子を見て、お義父さんの話を思い出した。酔った勢いで、その場で翔子をぎゅっと抱きしめた。「…もうなに、、、こんな酔って、明日仕事大丈夫?」翔子の肩に顎を乗っけて返事をする。「うん、ふふっ、だぁいじょぶだぁ!」お見合いだの、誰かに告られたのって話もついでに思い出した。「…待っててくれてさ、、、オレのこと、待っててくれて、ありがとね、、、」って、成瀬さんいなくなった後、オレと出会うまでの何年間かのことを言ったつもりだったけど、「待ってるよ、智くん鍵忘れてたもん。」って、翔子がする返事に、、、待っててくれてありがとうの意味は伝わってないけど、でも、今この瞬間がムズムズするくらい愛おしいって思って、また翔子の体をぎゅぎゅっと抱きしめた。友也とはカラオケ大会の曲を決めた後、あんまり練習には付き合ってやれなかったけど、ちゃんと歌割りを決めた。夏祭り本番当日、どうにか夕方のカラオケ大会の時間には、設営を手伝ったあの会場へ、オレも駆けつけることができた。そういえばもう、蝉の鳴き声がしなくなった。夕方には吹く風が、少し涼しくて、、、.・・・「友也っ! これ、歌詞、いい? 赤いところは友也、青いところはオレ。一応もう一回合わせよう。小っちゃい声でね。」夏祭りは商店街が歩行者専用のように封鎖された中に、たくさんの出店(でみせ)が軒を連ねていて、ステージのある場所にも、焼きそばのソースの匂いや甘い綿菓子の匂いが漂ってきていた。東京での仕事を終えて、友也が待つステージ裏の出場者の控えのテントへ直行してきて、翔子と結愛の姿をまだオレは見ていない。会場のステージではもう、カラオケ大会が始まっていた。耳に入ってくる出場者の歌声がめちゃくちゃ上手くて、内心ドキドキしていた。「オレはステージには出らんないけど、袖んところで歌うから。」「うん、わかってる。実行委員のおじちゃんたちに説明聞いたよ。」友也が本番前でもいつもと変わらない様子でいる。「友也、緊張しねぇの?」って聞いてみたら、「……緊張って、どんなの?」って返ってきた。こういう時に緊張するのは親の方なんだなとか、初めて味わう気持ちにまたオレは楽しくなっていた。オレの声はきっと誰かに気づかれてしまうだろうけど、、、プログラムにはこう書いてもらったから。20. 「君だけに」大野友也くんとお父さん「20番目ってトリじゃん…」「トリって何? 何の鳥?」「ぷっ、ふふふふふっ、何の鳥なんだろなぁ〜」ステージを仕切るMCの女の人の声が、19番目の出場者の名前を呼んだ。会場は観客で満杯ってことはなく、夏祭りに来てる人たちの意識はどちらかといえば、出店の方向に向いていた。「…友也、袖に待機だって。行くぞ。」「………うん。」おととい顔を合わせた実行委員の一人に案内されて、友也と手を繋いでステージ袖へゆっくり歩いた。「…お母さんのために、頑張って歌う。」友也がオレの手をぐっと握ってそうつぶやいた。「……うん。思いをね、友也の思いを、音に乗せんだよ。」「………お父さんもね!」「ふふふっ、任せとけ!」夏が終わる、もうすぐ、夏が終わるな、、、聴いててね、翔子、結愛。(つづく)ーーーー長くなってしまったかな、秋めいてきたので焦りつつ書きましたが、更新は間が空いてる。。。申し訳ありませんいつも、読んでくださってありがとうございます。いいね、も、励みになります。本当にありがとうあぼんヌ

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  • 17Sep
  • 16Sep
  • 12Sep
    • #19 10年目の夏・かたちあるもの

      もうひとつの魔王〜魔王Another Story〜" 10年目の夏・かたちあるもの "#19〈智サイド〉スムーズにいかなかった曲のレコーディングに、OKが出た。「…ごめんね、大野くん、何度も。」あの先生が、レコーディングの後に話してくれた。「プロの大野くんに、こんな注文するヤツ、これまでいなかったろ?」「いえ、そんなことは、、、」「何かが変わったかなって、私の感覚だけだけどね、今日は思った。悩ませちゃったんじゃないかな、、、ごめんね、ありがとう。」「…いや、全然、、、、」自分でも、いつもとの違いなんてわからなかったけど、夏が始まってからの我が家の出来事…大好きな逗子の家、家族で行ったホームセンター、庭の水遊び、バーベキュー、、、友也と結愛のこと、翔子のこと、成瀬さんが届けたかった気持ち、翔子のお父さんの気持ち、中西さんの気持ち、きっと少し先、この曲を聴いてくれるだろう中西さんの奥さんへ…届きますようにとか、聴いてくれる誰かそこの、一人の…君へ、届きますようにって、泣きたい今日とか、明日頑張んなきゃとか、そんな時、誰かの隣にいつでも居て、寄り添えるってことなんだ、歌って。そんなことを思いながら、ああ…なんかこれって、凄いじゃん、オレの仕事、オレらがやってる仕事って、なんかすげぇことだなぁって、今さら感ハンパないことかもしれないけど、、、" 思いを音に乗せて "精一杯そうしたし、この日はすげぇ楽しんで歌えた実感がしてた。時間ができて、貴一さんのところへ寄ろうかなと、帽子を目深にかぶり、体を小さくし、顎を突き出して商店街を歩いていたら、どうやらここが夏祭りの会場かなっていう、広めの駐車場を通りかかった。本番二日前、既に会場設営が始まっている。夏祭りの実行委員の人たちか、有志の集まりか、いい年のおじさんたちばかりが楽しそうな笑い声を上げて作業をしていた。その中に貴一さんを見つけた。中へ入ろうか、いややめようかと不審な動きをしていたオレに、貴一さんの方が気づいてくれた。手招きをされた。オレはちょっとドキドキしながら、その場所へ走っていった。「俺の友達、大ちゃん、もうすぐ四十。」その場所以外には聞こえないように、貴一さんは小声で皆んなにオレをそう紹介してくれた。「え、まだ37、、、あ、大野…です。よろしくお願いします…」その場に居合わせたおじさんたちはオレを見て多少驚いた感じだったけど、貴一さんのある一言で、その場の雰囲気は一変した。貴一さんがオレに、「大ちゃんの嫁さんちの話、ちょっと出しても大丈夫か」と、確認してきたから、警戒もしつつ貴一さんを信じて、首を縦に振ってからの、、、「…ほら、桜井さんちのムコ殿だよ。」そう貴一さんが話した途端、皆んなの表情がパッと明るくなった。「え、桜井さんの!」「あらぁ、桜井さんのぉ!?」「桜井さんか〜いやいや本当かい!」って、皆んなが口々にそう言い始めて、オレはビックリした。皆んなが笑顔で、それぞれに懐かしい人を思い出すように話し始めた。それは、翔子の亡くなったお父さんの話だった。「亡くなられたのは何年前だったかな?会ったことあるの?」一人のおじさんからそう聞かれた。「いや、亡くなられたのはたぶん…5年前くらいじゃないですかね…ぼくは、、、お会いしたことなくて。お母さんには、一度…」そうするとまた別のおじさんが言う。「そうかぁ、残念だったな〜それは。桜井さんね、色々と街の役を買って出て下さってたんだよ〜。この夏祭りも毎年実行委員のメンバーでさ。」また別のおじさんが加わる。「桜井さんって確か、大きな会社の役員だったろ? それなのにさ、まぁ〜偉ぶった感じもなくて、気さくでねぇ〜」そうやってオレはこの場所で、翔子のお父さんを知る人たちと日が暮れるまで 話しながら、夏祭りの準備を手伝うことになった。(つづく)

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  • 10Sep
    • #18 10年目の夏・かたちあるもの

      もうひとつの魔王〜魔王Another Story〜" 10年目の夏・かたちあるもの "#18〈智サイド〉「…お母さんに贈る歌がいいな。驚かせるんなら。」「え、、、何それ、卒業式みたいじゃん。夏のカラオケ大会だよ?」「うーん、、、お母さんに会うために生まれてきたんだよって、そんな歌ないかなぁ、、、」「………友也、、、、おまえ、、、」「なに?」「…泣け、、、泣けるやつだそれ…オレたぶんダメだわ、それ聞いただけで泣けるしっ、、、」カラオケで曲を選んだ時、友也が翔子のために歌いたいと言った。「………………あ!!ある!」「えっ、ある?そんな歌?童謡とか合唱コンクールみたいな学校で歌うやつは嫌だからね。」「ふふふっ、違う違う。ちょっと入れてみるよ?オレ歌うから聴いてて友也。」「うんっ! 嵐の曲?もし嵐だったら僕一人じゃ無理だよ…」「うん、そうだよなぁ、、、これも一人じゃ厳しいかも。」そう言いながら、オレは思いついたその曲を友也の前で歌ってみせた。昔から何度かステージでも歌ったことがあって、歌詞もだいたいは頭に入っていた。カラオケだと大きく歌詞が出て、それを追いかけて文字の色が変わっていく。なんだか、新鮮だった。そういえば、酒も飲まずにカラオケを真剣に歌うなんて、何年ぶりのことだっただろう。いつだったか、松潤に聞かれた。「普段、歌いたいって思うことないの?」って。オレ、はっきり答えた。「ないねぇ。」って。それは、何ていうかな、歌はやっぱりどこかもう、オレの中で仕事になっていて、、、この世界での歌のスタートも、誰かの手伝いのために歌うことだったし、今だってソロじゃなければ、メンバーが5人もいるグループの中で、自分だけ目立って歌ってやろうなんて思ったこともなく、できればみんなで仕上げていきたいって、それがグループの魅力で、グループにしか出来ないことだしって、そのスタンスで歌っていることには変わりない。メインボーカルといわれるけど、メインって、一人で目立つことじゃなくて、単に本管、芯の役割だと思ってて、だから真ん中でしっかり歌おう、綺麗に歌おうって、いつしかそんな風に考えて歌うようになってた。それは無意識で、何年もやってれば自然なことだった。普段歌いたいって思うこと?だって仕事以外でも歌いたくなるって、それが楽しいからでしょ?面白いからでしょ?歌に対してそんな感情、持ったことあったっけ、、、コンサート会場で味わうくらい、たぶん。でも今、、、オレめっちゃ歌ってるやん。5万人の前じゃなくても、歌番組じゃなくても、小学生の友也にもちゃんと伝わるようにって、歌詞だって一字一句確かめながら…ちょっと楽しいかも、今。友也が目をキッラキラさせて、オレとカラオケのテレビ画面を交互に見て、注文したりんごジュースに口をつけることもせずに、聴いてる、、、聴いてくれてる。あ〜〜この曲の歌詞、こんなんだっけ?お母さんに贈るんじゃないやんやっぱ、ダメかな、、、、なんて、色んなことを巡らせながら、一曲フルコーラスを歌い終えた。まだオレよりだいぶ小さなその手のひらで、パチパチパチパチって、友也が拍手してくれた。「…お父さんみたいな歌だった!」友也がテーブルの上のもう一つのマイクを手に取り、それに向かって言った。キーンと、ハウリングの音が耳を突き抜ける。「へ? お父さんって? オレ?」マイクを通したまま、キンキン鳴るのもおかまいなしに友也と話した。「うん! お父さんがお母さんに贈る歌!僕これにする!カラオケ大会!」「…え、ちょっと待って、ほら、なんだっけぇ、、、嵐の曲にもあんだよ、アルバムだけど…お母さんに贈る歌、そんな歌詞のやつも、、、」友也がマイクに向かって大きく声をあげた。「いい、これがいい!!!」「…………うん、まぁ、友也がこれでいいなら、、、」そうやって、一発目に歌ったその曲に、カラオケ大会で友也が歌う曲は決まった。「ねぇねぇ、僕あれ歌う!夏疾風〜〜夏疾風〜〜♪」「え、、、、オレはいいわ〜…」「えー! 一緒に歌ってよ!あ、あとはねぇ、僕が好きなのはBUMP OF CHICKEN !!」「はぁ? なん、、、どれ?だれ?」選曲のタブレットを二人で見ながら、、、「次はね、髭ダンディズム!髭ダン、髭ダン!official髭男dismっいうの!」「…なんだそれ、え、誰?ふふっ、わかんねぇ、、、」それから2時間、友也とオレとで歌い倒した。驚いたのは、友也が歌が上手かったこと。音程がすぐしっかり取れるし、声変わりはもちろんまだで、高い声が澄んでいて、低い音も外すことがない。「…いけるんじゃねぇかな、優勝。」なんて思うこれは、たぶん親バカってやつかな。「…楽しいね!歌うの!」友也がそう言って、無邪気に笑っていた。「うん、、、こんな歌うの久しぶりだわ。」そうオレが言うと、友也にこう返された。「えー? お父さん毎朝歌ってるじゃん、結愛の前で楽しそうにさ?いないいないばあとか、おかあさんといっしょのやつ。」「…あぁ〜〜ふふっ!あれはなぁ、結愛が笑ってくれるからね。オレも…うん、楽しいなぁ〜あれは。」「そういうことなんだね、さっき貴一おじちゃんが話してた芸術の話みたいなことって。」「え、、、、、?」「まずは自分が楽しむこと、誰かに楽しんでもらうこと。……わかんない、違うかなぁ。」友也に答えを出してもらった気がした。" 思いを音に乗せて "その、答えを。わかってるつもりだったのに、、、自ら楽しめなんて、そんな当たり前のことなんて。あの先生はきっと、オレの何かそんな部分を感じ取ったんだ。それに、、、5万人とか、CD買ってくれる何十万人とか、そうじゃない。聴いてるのは、たった一人。どこかで一人で聴いてくれてるんだよね。中西さんの奥さんみたく、車の中で一人で、とか。部屋で、一人で静かに、とか。そんな、それぞれの誰か、" 一人 " のために、、、オレの思いを音に乗せて届ける。そんなカラオケの後の、夜の翔子の色んな昔の話。東京へ帰りたいなんて、あんな風に甘えた声で言われると、「今すぐ帰ろう!」って答えちゃいそうになったけど、、、オレも友也と歌おうかな、なんてことを企み始めたんだ。それはでもまだ、当日にならないとわからないこと。(つづく)ーーーーお久しぶりですm(__)mお話、恐る恐るアップしています完全に作者による妄想です。大野智さんに直接インタビューしているわけではございません。ご了承くださいっ!!(いくつかインタビュー記事は読みましたが)ですが、嵐の嵐会で彼が、普段歌いたいと思うことはないと言い切ったのは、ファンとしてかなりショックでした。積極的になってと、何かそれを形にして世へ出して欲しいとまでは、私は思っていません。それこそ、彼の思うところにあるものでしょうから。大野智の歌声が大好きなんです、とにかく。なので、、、歌っていいなぁって、歌いたいなぁって、思って欲しい願望より生まれたお話です。夏が本当に終わりましたね。。。大野智による秋宣言もあり、このお話を早く終わらせねばと思いつつ、なかなかテンポよく更新できず、ごめんなさい。急に気温が下がるようなので、皆さま体調にお気をつけくださいね!いつも読みに来てくださって、ありがとうございます。いいね、も、本当にありがとう!では、また。。。あぼんヌ(画像も荒いごめんなさい!)

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プロフィール

あぼんヌ

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成瀬領と大野智を愛してやまないブログ主

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