ロールシャッハ歴 -2ページ目

ロールシャッハ歴

でかすぎる夢だ。

その時、後ろから店員が近づく気配を感じた。

食欲を誘う香りと、女性店員の愛想よい挨拶が切っ掛けになり

止まった時間が動き始める。

二人は現実へと急速に引き戻された。

店内を見渡せば、客の姿も増えている。

運ばれてきた料理は、馴染みの無い物ばかりだった。

しかし、皿の上に整然と、そして見事に調和のとれた有り様は

色鮮やかな美しさで、艶やかに二人の目を楽しませてくれる。

記憶を探すが、似た中華料理は見つからない。

料理の美しさ、手の込みように比例して、食事する行為そのものに緊張感が増す。

彼女よりも後から食べ始めよう。先手を控える事にした。

平静を装い、さらに緊張を悟られ無いよう水を少し口に含んだ。

含んだ水を飲み干そうとした時

私は、好きな物から先に食べるんだ、だから食事の仕方が変でも気にしないでね。

そう言って、君は大きな海老を頬張った。

その行動に少し驚いたが、明らかに無口になったオレへ、彼女なりの配慮だった。

多分それは、彼女の質問に答えが出るまで、余計な事は考えて欲しくなかったのだろう。

料理はとても美味しいのだが、当然頭の中は料理どころでは無い。

君も同じかな。スープを口にしながら彼女を見る。

視線を感じた君は思いだしたように話し始めた。

ゲームのキャラクターを作ってるの。

キャラクターの服とか、髪型とか、アイテムとか

デザインする仕事なの。

ゲームに疎いオレには、想像し難い内容だ。

結構大きな会社でね。

派遣なんだけどさ、やりがいあって充実してるんだ。

会社ってどこに有るの?

つい聞いてしまった。

家から30分くらいの所かな。電車でね。

頭が、また混乱しだす。彼女の家から30分だから

オレの家からだと、どう考えてもかなりの距離になる。

通勤できるとは考えれない。

落ち着きを取り戻そうとスープを飲みほした。

君は続けた。

仕事の内容は、やりがい有って凄く楽しいんだけど

人間関係が上手くいかない。

この前ね、会社のデスクに携帯置いたままトイレに行ったんだ。

そしたら、隣に座ってる同僚の男性が

勝手に携帯見てたの。

それから頻繁に電話が、かかってくるようになって気持ち悪い。

確かにそれは気持ち悪い行為だ。オレは若干の憤りを覚えた。

それとね、大きなプロジェクトが始まって

チームのリーダーに私が選ばれたの。

本来なら胸を張ってもよさそうな事だが、君は顔を曇らせた。

リーダーって名ばかりの事で、決められた期間までに

仕事が進まないと、怒られる役なのよ。

その時、君はまたメガネを掛け直した。

暗い話を続けていても、やはりその仕草はとても可愛く

オレの感覚を麻痺させる。彼女は気付いて無いのだろうが、とてもセクシーに映る。

そのプロジェクトね、今日で終わるの。

データを上司に渡せば、完了なんだ。

今日?

思わず口にした。

そう今日なの。

呆気にとられたオレを見て、可笑しそうに声を抑えて笑う。

データどうするの?

捨てちゃおうかな。

これは、本当の話なのだろうか。

疑問が頭をよぎる。けれど、彼女の声は

まるで魔法のように優しくオレを麻痺させる。

これだ。

初めて話した時から変わらないもの

オレは、これに引き込まれた。そうしてそれは、君に近づく事。

望むのは、目の前に居る彼女の存在だけだと気付いた。

データ、本当に捨てちゃうの?

どうすればいいと思う?

質問に質問で返すのは、この場じゃ反則だ。

答えれるはずも無いのだから。

オレは黙った。

君はまた可笑しそうに小さく笑うとこう言った

それと、私ね。借金が有るんだ。

どれくらい有るか知りたい?



To be continued
コンビニから戻った君は、笑顔でコーヒーを差し出す。

ブラックだよね。これしか飲まないって前に。

覚えていてくれた事が嬉しくて、照れながらうなずいた。

いや、正直に言えばコーヒーの種類なんかどうでもよかった。

買って来てくれただけでも嬉しかったのだから。

車を止めたままコーヒーを口にし、君をちらりと見た。

これからどこに行こう。

楽しそうに聞いてくる君を、素直にとても可愛いと思った。

いかんせん初めて訪れた場所である。下調べを怠った自分に後悔する。

だが、それより聞きたい事が山ほど有る。でも、その質問がこの雰囲気を壊すなら

やはり聞かない方がよいのだろうか。やっぱりそう判断した流れにのって

少しお腹が減ったな。君はどうと聞いた。

私もお腹が減ってるの、昨日の夜から何もたべてないんだよ。

久しぶりにあなたに会うから緊張して食べれなか.ったの。

そう言って好意の溢れる目で笑った。

この言葉にオレは動揺した。どう返していいのか分らない。

そして気づいた。彼女は話す時にまっすぐオレを見る。

初めて会った時とは別人の様な印象を与えていた。

何故か、自信に満ちている。以前とは立場が逆転したような錯覚に囚われた。

地元だから気分が落ち着いて

そうなのだろうと軽く考えたが

のちに大きな衝撃を残す言葉に繋がる。その時のオレには、まだオレは予想もつかなかった。

私の好きな食べ物を当てて

うまく話せないオレに、君はそう切り出した。

ここは外したくなかった。だが彼女に対する知識は0に近い。

連想出来る物は、何も無い。考え込んだオレが答えようとした時

考え過ぎだよ、だからアウト

やはり君は楽しそうに言う。

これは宿題にするから、ちゃんと考えておくように

メガネをわざと掛けなおす振りをして君は言った。

その姿にオレは思わず見とれていたが、そんな自分に気づいて慌てて切り返した

今食べたいものは有る?と聞いた。君は

内緒。と微笑んだ。

でも食べたい物が有るから、そこに連れてって欲しい

道案内は私に任せて。

わざと力強く言う君は、またメガネを掛けなおした。

君に会えて本当によかったと思いながら、コンビニの駐車場を出た。


彼女のナビで、一時間程車を進めると、どうやら目的地付近。

相変わらず、どこに行くのか教えてくれなかったが

次は右、そこは左

彼女のナビ通り車を走らせる共同作業に、幸せを感じていた。

街並みも風景を変えていた。雑居ビルや高層ビルに挟まれた道を抜ける内

大きな繁華街が見えてきた。

その少し外れ、小さな3階だてのビルの横に駐車場を見つけた。

君はそこを指差し。

到着だよ、おつかれさまです

と優しく言った。

車を駐車場に止め、二人は繁華街の中央へと歩きだした。

そこは、大小さまざまな中華料理屋が軒を連ねる中華街だった。

初めて見る光景と人の多さに一瞬クラクラした。

少し立ち止まったオレを不思議そうに見た君は

だいじょうぶ?

と聞いてきた。

心配されるのは気が引けたから

少し笑ってすぐに歩きだした。中央に進むほど人の量も増えてくる。

どうも人混みを歩くのは苦手だ。

彼女を見失わないように、彼女の後ろをついて行く。中華料理店のに挟まれた一軒の雑貨店を見つけた

店前に並べられている奇妙な形をした人形が目に止まった。

南米の印象を受けるその人形は、どこかの神様をモチーフにしているのだろうか。

ふと、彼女を見るとかなり先を歩いていた。焦りながら距離を縮める。

そんなオレをもどかしく感じたのか、急に立ち止まった君は振りかえって

はい。

と手を差し出す。

意味が分からずに、彼女の手を見つめた。

君は、もう一度

はい。と微笑む

と差し出した手を軽く動かしオレの手を握った。

そこから、10分程歩いただろう。人混みはまるで気にならなかった。

歩いた道も、ぼんやりとしか覚えていない。

次に鮮明に覚えているのは、周囲の店とは違う、ひときわ立派な門構えの店前。

しっかりと繋がれた君の手が離れていく瞬間だった。


店内は広々としていて、昼食には少し早い時間もあったせいか

整然と並べられたテーブルは空席が目立ち。

これから始まるであろう喧騒を静かに予感させていた。

洒落たチャイナドレスを着こなした店員が店の奥へと案内する。

オーダーは彼女に任せた。好き嫌いの無いオレは

彼女と同じ物を食べてみたかったのだ。

注文を終えて君は真面目な顔で目を見つめた。

さっきの手の感触が消えていないオレは、少し恥ずかしくなり目を逸らした。

私、ここから離れたい。だから一緒に暮らそう。

思わず彼女の目を見つめたオレは、衝撃を受ける。

そこから、ほんの少しの冗談も、ちょっとしたいたずら心も感じられない。

君の口から発せられた言葉は、頭の中で星のように輝く。

嘘でも、本当でもいい。そんな事は問題じゃない。

君が残る手のひらを、オレはそっと握りしめた。


To be continued
ベランダから、危ないくらいに身を乗り出し手をふる彼女は

久しぶりの思いと朝日の力を借りて少し眩しく見える。

彼女は、すぐに降りるからと明るく話すと電話を切った。

マンションの下へ焦り気味で車を移動しようとしたが

このような住宅地特有の、場所は見えているのに、そこまでたどり着く道が分からない。

出来れば彼女がマンションから出てくる前に、車を入口に待機させて置きたかったのだが、

オレは路地の行き止まりでため息をついていた。

バックするのか、それとも突き当りの正面に建つ、一軒家の駐車場で方向を変えるか。

かなり大きなその一軒家の駐車場は車4、5台のスペースが有り。Uターンするのは容易だが

見ず知らず他人様の住居なのだし。勝手に駐車場を利用させてもらうのは気が引ける。

躊躇したオレは結局車をバックさせる方法を選んだ。

狭い道を車でバックするのは一苦労だ。ギアをRに入れ内心びくびくしながら

そろそろとアクセルを踏んだ。

アクセルを踏む右足に集中しながら首を捻り、顔だけシートの隙間を覗き込む。

そうして後方を確認している時に彼女からの着信。

やはり時間が掛かり過ぎたのだろう。彼女はマンションを出ていた。

もうちょっとだけ待ってて。

とっさに答えたオレに

今どこに居るか当てましょう。君は悪戯っぽく言うと

少し間をおいて、路地の行き止まりでしょと告げた。

またどこかで見られているのかと、思わず緊張して周囲を見渡した。

そんな気持ちを見透かしたように、くすくす笑いながら

最初ね。皆そこで苦労するの。

携帯から、彼女の明るい笑い声はじけた。

そうか皆ここで迷うのか。ほっとしたような気もする。

それと同時に、自分が他の人と同じだと言われたようで複雑な感情にとらわれた。

彼女にとって、特別な存在とは何か。一瞬の疑問と、その答えを探した。

残念ながら、答えを見つける時間は、彼女が与えてくれなかった。

慣れているのだろう、携帯から涼しい声で細かく的確にナビしてくれる。

オレの知らない他の誰かにも、ここへの道案内をしたのだろうか。

そう思いながらマンションの玄関に無事たどり着いたオレは、

少しのジェラシーと、半年間君を思い続けた気持ちを隠すように

そっと彼女を見つめた。

ショートパンツにTシャツ、細身の彼女にはとても似合っている。

相変わらずメガネを掛けているのだが、以前の物とは違っていたが

控えめな茶色のフレームで彼女の顔を引き立てている。

オレがメガネを必死でみてるから彼女は恥ずかしそうにうつむいた。

肩から掛けている鞄はどこかのブランドだろうか。

ここからは確認できない。確認できた所でブランドに疎いオレが

鞄について話せる事は何も無いだろう。

ブランドの知識も少しは必要かな。知識が有って持たないのと

知識が無くて持たないのは何となく違う気がする。

そんな事を考える自分が、何故だか滑稽で苦笑いした。

彼女はオレが迷ったのを気にして、苦笑いしてると思ったのだろう。

この辺りの道は、ややこしくて最初は誰でも迷うから気にしないでね。

君は優しく言った。

優しい言葉だから、やっぱりちくりと胸が痛んだ。

その痛みは、オレが聞かなければならない事を全て飲み込ませた。

どうして突然居なくなったのか。そして、どうして電話に出なかった。

何より聞きたかったのは、この半年間、君はどこで何をしていたの。

どれ一つ言い出せないで、言葉を失ったままオレは彼女を見ていた。

来てくれてありがとう。君はそう言うと助手席に座った。

気にしないで。そう答えた後に続く言葉が見当たらない。

こんな時は教科書なんて何の役にも立たないと感じる。

話さないと駄目な時ほど、話す言葉が出て来ない。

過去の恋愛でもそうだった。オレにとっては延々と繰り返された事で

たまたま今日までは、それほど大した問題でもなかった。

頭の記憶データにアクセスしたら、

オレのちょっぴり悲しかった事ソフトに関連付けされてるような内容だし。

今となっては笑い話にできた。

しかし、君には違う。同じ事を繰り返すわけにはいかない。失敗は許されない。

自分に言い聞かせていた。

マンションを出てすぐの、急な下り坂をゆっくり車で進んだ。

そう言えば、公園を囲む道からマンションに向かう途中ちらりと目に入ったコンビニが有った。

それならこれだ。

コーヒーが飲みたいな。

オレは彼女に聞こえるように、だけど独り言でもあるかのように呟いた。

彼女を迎えに行く時には気づかなかったが、

公園のすぐ近くに大きなドームが見えた。スポーツが盛んな街なんだろう。

2分程車を走らせると、コンビニに到着した。

その間彼女もオレも会話は無かった。

駐車場に車を止めた瞬間

私が買いに行ってくる。

そう言うと君は車を降り、コンビニへと向かった。

なんとなく、そのまま戻って来ないかも知れないとオレは少し不安を覚えた。

待つ時間は長い。

コンビニの自動ドアが開き、両手に缶コーヒーを持った君の姿を確認してほっとする。

けれども、どこかに消せない。

言い知れない不安を君はオレに感じさせていた。

To be continued