少し考えてみるが、解決策は浮かんで来ない。
苦虫を噛みつぶした表情で、メモリーを見つめた。
すると、上司は
仕方無いな。今日は受け取ってあげる。
でもね。薫に一度顔を出すように伝えて
会社に来るのが嫌なら、直接私に連絡するように。
わかりました。伝えます。
データありがとうね。そう言って秋名はフロアの奥へと消えた。
取り合えず目的は果たした。ほっとした瞬間、緊張の糸が途切れた。
再びエレベーターに乗り、会社を後にするまで周りを気にする余裕も無く
ビルから出た後、大きく深呼吸をして彼女が待つ車へ向かう。
彼女は車から降り、近くに有った自動販売機で身を隠すようにしながら、こちらを見た。
心配そうな表情で小さく手を振る。
笑顔で手を振り返し、両手で大きく丸を作った。
車に乗り込むと
秋名さんに会えた?
会えたよ。最初かなりきつく、詰め寄られたけどね。
何を言われたの?
見ず知らずの男が来て、君の代理だって言いながらメモリー渡したから
不審者と思われたみたい。
そうでしょうね。
だけど、君がオレの事、秋名さんに話してたんだよね。
君は、はっとした表情でうつむいた。
何か、言ってた?
うん。
そう答えた後、秋名さんとの会話を全て話すかどうか迷った。
恥ずかしそうにうつむく君を見て
薫から仲のいい友達が出来たって聞いてる。
それがあなたねって言われた。
ちらりとこちらを見た君は、少し安心したようだった。
それでね、最後は渋々データを受け取ってくれた感じかな。
そして、秋名さんから託された伝言を伝えた。
君はあっさり
わかった。ちゃんと秋名さんに連絡します。
今日は、本当にお手数掛けました。
遼、ありがとうね。
いや、美味しい昼食のお礼ですよ。お嬢様。
それを聞いて
君はしばらくぶりに笑顔を見せた。
ねえ、中華料理屋さんで、私が聞いた事まだ覚えてる?
君は唐突に切り出した。
もちろん覚えていたが、どう答えていいか分らない。
えっと、なんだったかな?
わざと、とぼけて見せた。
時間稼ぎのつもりだったが君はすかさず
一緒に住もうって話だよ。
うん。
思わず言ってしまった。
うんって事はYESだよね。じゃぁ、決まりね。
思考の早さは、彼女の方が上を行く。
言葉を選んでいる内に話がどんどん先へ進む。
一瞬取り戻したかに感じたイニシアチブも、すぐに彼女に奪われていた。
けれどもそこに嫌味は無く、一種の明朗さと心地良さを与えてくれる。
偽りの無いその言葉に、オレは惹きつけられた。
メガネを掛け直した君は
次の目的地、私の家。
で、その次は遼の家ね。
何も考えず、彼女に委ねるのも悪く無い。体を包むそんな思いがシャボンのように膨らんでいた。
To be continued
