1985~6年、中国に通信機の現地生産の工場建設の計画が持ち上がり、何度か出張しネゴに参加した。
社会インフラの公衆通信網の整備は、経済発展のイロハで、政治的な色合いも濃いプロジェクトになる。
既に、欧米列強は合弁で現地生産の契約を済ませていた。
巨大な市場の中国。
アジアの盟主である日本の通信メーカーが、中国市場からはじき出されるのは国家的な問題だ言うことかどうかは知らない。
しかし、社内では、VIP(Very Important Project)の冠がつくことになったらしい。
つまり、会長、社長直下のプロジェクトということ。
合弁会社でやるとなると中国側のパートナーが必要になる。
中国は社会主義経済の国。
当然ながら、国家プロジェクトのパートナーとなる企業は国営企業しかない。
欧米の競合の合弁相手は、通信事業者(日本で言えば、旧電電公社相当の国営企業)。
残念ながら、我々と合弁を組めるだけの通信事業者は残っていなかった。
そこで中国側が選定してきたパートナー候補が、通信とは直関係ない国営企業。
日本で言えば、経産省系の国営企業で、既にIBMと合弁をやっていた。
当然ながら、公衆通信網の通信システムについては、ずぶの素人。
早速、技術の勉強会が始まった。
100人以上の出席者で埋め尽くされた会議室で、技術説明会を開催。
最前席には、中国側の幹部が座る。
かれらには、講義に使う資料が配布済み。
講師がOHP(PCによるプレゼンのない時代だから)を使って講義を始めた。
日本語での講義だから、当然、通訳が重要な役割を果たす。
残念なが、この通訳は通信技術の専門用語は知らない様だ。
講師は、通訳が理解できるように丁寧に話をせざるを得ない。
とんでもない時間が経過する。
そんななか、100名の参加者は必死にOHPを書き写している。
新しいOHPに変わると、会場は紙に書き写す100本の鉛筆の音が響く。
一緒にいた部長さんが曰く。
「自転車も凄いが、人間コピー機はもっと凄い」
配布された資料をただ捲る幹部に比べ、必死に書き写す技術者の姿をそこに見た。