手首の次に髪を切る | 僕はさじを投げた。代わりにカッターを握った

手首の次に髪を切る

僕は街を歩いていた。雑踏にまぎれて暗い歌の鼻歌を歌いながら。密着度の高いaudio-technica.製ATH-PRO5型は、周りの退屈な音も有効な音も耳に入るのを塞き止めてしまっている。おまけに志賀直哉の暗夜行路(新潮文庫)を「歩き読み」という、街に蔓延るマナー知らずの一員としてさすらっていたものだから、僕に話しかけるというアクションは不可能なはずだった。だのにあの娼婦・・・


汝は目前に立ちふさがった。

もちろん僕は気づかず、激突した。両手の第二間接と暗夜行路の背表紙がおっぱいに触れた。


「ご、ご、ごめんなさい」僕が言う。汝は言う


「いいえ、こちらこそ」


退かない汝


「7、ななんでしょう」


「カットとか興味ありますか」
(リストカットなら(済)ですけど)


「いいいえとくに」


「では、これに電話番号とメールアドレス書いて下さい」

(汝だれだ)


「あ、はい」


こうして肘まで伸びた髪はきられることになった。


全身ユニクロでもお声が掛かかるらしい。


ちなみに

僕が一番好きなサスペンス映画はセブンだ。