何杯か重ねるうちに、俺は少々酩酊してきた。
「もう引き上げるわ。今日はこれで幕引き」
俺は少しふらつく足で立ち上がった。
「マスター。お勘定」
「いいってことよ。つけとくよ」
二つの眼窩がまた笑った。
「そうかい。ご馳走さま」
ドアを押して、通路に出た。
エレベーターに乗った時、俺は妙なことに気付いた。
地下3階のボタンが見つからないのだ。
「まあ、いいや。次に来るときは階段にしょう」
ビルを出てから、俺は独り言を呟いた。
「世間の人たちはなぜ気づかないんだろう。目玉なんか無くても物は見えるんだ。目玉なんて所詮飾り物だ」
俺は眼鏡越しに、右目をぽんぽんとたたいた。
それから、身震いを一つして歩き始めた。