日本の核武装、ウクライナ侵攻が後押しとなるのか | 親父と息子の口喧嘩

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日本の核武装、ウクライナ侵攻が後押しとなるのか

ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBCニュース(東京)

Japan's outgoing Prime Minister Shinzo Abe speaks to the media upon his arrival at his office in Tokyo on September 16, 2020.

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安倍晋三元首相は日本の核兵器配備を議論すべきだと発言し、国民に衝撃を与えた(写真は2020年9月)

どうすれば日本は核兵器の保有を真剣に検討するのか――。ばかげた着想ではある。日本は世界で唯一、核攻撃を受けた国だ。しかも2回も。日本の核武装など想像できない。国民が認めるはずがない。そうではないか?

そのとおりだ。

と言うか、過去77年間はそうだった。

しかしここ数週間、日本の1人の政治家が、違ったことを言い出している。首相在任期間の最長記録をつくった安倍晋三氏だ。日本は現実に核兵器について、真剣かつ緊急に考えるべきだと、声高に公言し始めたのだ。

これは、日本の戦後の憲法に刻み込まれている平和主義の誓いからの、根本的な決別といえる。

核軍備を求めるこうした声が、ロシアによるウクライナ侵攻と時を同じくして出たのは、決して偶然ではない。

日本が再び完全武装することを切望してきた安倍氏のような人たちにとって、ウクライナ侵攻は、軍事力に勝る攻撃的な大国への防衛を適切に行わない国にどんなことが起こり得るかを示す、有益な例となっている。

著書「Asia's Reckoning」がある豪ロウイー研究所(シドニー)のリチャード・マグレガー氏は、日本で真剣な議論を推し進め、国民を本当に説得するという重大な仕事に取りかかるのに格好の時だと、安倍氏は考えているとみている。

「それが究極の目標だろう。率直に言ってかなり頑固な世論を、彼は何とかして動かしたいのだと思う」とマグレガー氏はBBCに話した。

「かなり頑固」というのは控え目な言い方だ。昨年の調査では日本人の75%が、日本の核兵器禁止条約への調印を望んでいる。

核軍備の安倍氏の呼びかけは、広島と長崎の被爆者団体の激しい怒りを買った。現首相の岸田文雄氏(選挙区は広島1区)もすぐに前首相の安倍氏を批判。同氏の提案を「認められない」とした。

しかし、安倍氏は抜け目ない政治家である。ウクライナ侵攻が日本でとてつもない衝撃として受け止められたことを分かっている。予測不能で核武装した北朝鮮と、攻撃性を増している中国について、日本国民が不安を覚えていることも分かっている。

Japan's Prime Minister Fumio Kishida speaks at a news conference in Tokyo on March 3, 2022.

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岸田文雄首相は安倍氏の提案を「政府として認めることは難しい」とした

福井県立大学の島田洋一教授は、安倍氏の長年の友人であり相談相手でもある保守派の学者だ。

安倍氏については、「日本が中国や北朝鮮に対する何らかの独立した攻撃力をもつことが不可欠だと考えている」と島田教授は言い、次のように続けた。

「その中には核兵器も含まれるかもしれない。だが、日本の核武装を主張するのはどの政治家にとっても自殺行為であることを彼は分かっている。それゆえ議論を活発化させたいと彼は思っている」

「日本政府の現在の公式な立場は、アメリカの核抑止力に頼るというものだ。しかし、日本はアメリカに核兵器の配備を認めていない。これは率直に言って利己的だ」

安倍氏は今回、日本が独自に核兵器を製造すべきだとは提言していない。アメリカからいくらか借りてはどうか、というのが彼の案だ。

冷戦後の世界では、ドイツ、ベルギー、イタリア、オランダの各国がアメリカの核兵器を国内に配備しているという事実は、ほぼ忘れられている。

それだけではない。それらの非核保有国は、核戦争になった場合、アメリカに代わって自国の軍用機で、それらの兵器を目標に「放つ」こともできるのだ。

これこそ、安倍氏が現在、日本に提案していることだ。

だが、実現性はかなり小さいように思える。日本の法律は1971年以来、いかなる核兵器の持ち込みも明確に禁じているからだ。ただ、この禁止について議論することを求めているのは、安倍氏だけではない。

加藤良三氏は、戦後最も長く駐米大使を務めた人物であり、おそらく日米同盟の最も熱心な支持者だ。しかし北朝鮮が核武装した状況では、日本はもはや、アメリカの核の傘に頼るだけではいられないと話す。

A man watches a television news broadcast showing a file image of a North Korean missile test, at a railway station in Seoul on March 9, 2020. - Nuclear-armed North Korea on March 9 fired what Japan said appeared to be ballistic missiles, a week after a similar weapons test by Pyongyang. (

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北朝鮮は長距離ミサイル能力を向上させている

「それは中国ではないかもしれない」と彼は言う。

「どこかの頭のおかしい指導者が、日本に向けて核兵器を発射しようと決心するかもしれない。または、政治的な脅しとして核兵器を使うかもしれない。日本は脅しにとても弱い。防衛面でもっと努力が必要だ」

日本の平和主義は、第2次世界大戦後にアメリカの占領によって押し付けられた。これを捨て去ることはあり得ないと、常に思われてきた。しかしそうすることを、米政府も日本の政治エリートの多くも、いまや支持している。

「多くのアメリカ人が、平和憲法で日本を縛らない方がよかったと思っている」と、ロウイー研究所のマグレガー氏は話す。

「安倍氏のような人たちは、アメリカがこの憲法を日本に押し付けたことに深い憤りを覚えていることを、私たちは忘れてはならない。それらの人々はアメリカとの同盟を望んでいるから、明らかに不満を抑えている」

「そうした人たちは、自分たちだけでは中国に対処し切れないと分かっている。太平洋を挟んだ両国には平和憲法をめぐって、売り手と買い手の後悔のようなものがある」

実際に日本は、憲法にどう書いてあれ、すでに真の平和主義国家とは程遠い。

海軍(海上自衛隊)はいまや世界有数の強大さであり、イギリスの王立海軍よりかなり大きい。日本にないのは長距離攻撃能力だ。

そうした状態は変わらなくてはならないというのが民意だと、前出の島田教授は言う。そして、日本が敵地を攻撃できる兵器をもつべきだというのは、与党・自民党では大多数の政治家の立場だろうと話す。

A view of destruction after missile attacks hit Petrovsky district in the pro-Russian separatists-controlled Donetsk in Ukraine on March 21, 2022.

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ロシアがウクライナに対して核兵器を使用する可能性があり、それが日本の政治家を震え上がらせていると島田洋一教授は話す。写真はウクライナ・ドネツク(3月21日)

島田教授は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナに対する脅威が、その緊急性をいっそう高めたと話し、次のように述べた。

「プーチン大統領は、非核保有国に対する核兵器の使用について言及した。これは日本の多くの政治家にとって、状況を一変させるものだ」

「ロシアは国連安全保障理事会の常任理事国の1つだ。プーチンが残忍であることは誰もが知っている。しかしその彼にしても、今回の発言は非常に衝撃的だ」

ウクライナと違い、日本はアメリカと完全な同盟関係にある。核兵器によるものを含め、日本を攻撃するいかなる国も、アメリカの報復を受けることになる。

アメリカの支配が圧倒的なうちは、それが機能してきた。しかしアジアでは、中国が急速に軍事力でアメリカと対等になりつつある。さらに、ドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれるということもあった。

「トランプ氏は自分の安全保障は自分でやるようにと言った」と、共著「The Abe Legacy」がある村上博美氏は言う。「彼は明確にそう言った。アメリカの全体的な流れは、基本的にトランプ氏の時と同じだと思う。もはやアメリカに頼り切ることはできない」。

元駐米大使の加藤氏のように、日米同盟の強化が答えであり、日本は近隣国を防衛する責任をもっと負うべきだと話す人たちもいる。

島田教授にとっては、日本がいつの日か自前の核抑止力を開発しなくてはならないことを意味するかもしれない。

私が話を聞いた全員が、日本は自国防衛について話すというタブーを乗り越えなくてはならないという意見で一致した。

「このことは非常に長い年月にわたって避けられてきた」と村上氏は言う。

「だが日本の指導者らはこれを議題にし、国民に示す必要がある。私たちはこれ以上、この偽りの世界で生きていくわけにはいかない」

「このウクライナの状況は本当に衝撃的で、指導者や一般市民にとって本当に考えるきっかけになることを願っている」

(英語記事 Will Ukraine invasion push Japan to go nuclear?