海上保安庁は、ことし運用を始めた無人航空機「シーガーディアン」について、来年以降、新たに3機以上配備する方向で調整を進めていることが関係者への取材で分かりました。無人航空機で取得した情報を、海上自衛隊とリアルタイムで共有することも検討しているということです。

海上保安庁は、日本の周辺海域の監視体制を強化するため、地上から操縦を行う無人航空機「シーガーディアン」1機の運用をことし10月から始めました。

海上保安庁によりますと、搭載された高性能のカメラで高度3000メートル以上から船などを撮影できるほか、夜間も赤外線で探知できます。

また、連続で24時間以上飛行でき、地上でリアルタイムの映像を確認できるため、領海警備や海難救助などでの活用が期待されています。

関係者によりますと、海上保安庁は早ければ来年4月にも3機体制とし、さらにその後、1機以上配備する方向で調整を進めているということです。

「シーガーディアン」1機が監視などを行える時間やエリアは、有人航空機1機の2倍から3倍以上になるとみられ、有人航空機と役割分担をしながら配備を進めることで常時、海洋情報を把握できる体制を構築したいとしています。

尖閣諸島がある沖縄県には、有人航空機が多数配備されていますが、能登半島沖の大和堆周辺の海域などでは近年、北朝鮮や中国の漁船による違法操業が問題となっていて、こうした海域を中心に無人航空機を活用した監視業務を行うものとみられます。

シーガーディアンについては、海上自衛隊も来年度から試験的な運用を始める予定で、海上保安庁では警察権の範囲内で情報を取得し、リアルタイムで共有することも検討しているということで、役割分担しながらどのように情報共有を進めるかが課題となります。

無人航空機「シーガーディアン」とは

「シーガーディアン」は、アメリカの防衛企業「ジェネラル・アトミクス社」が軍用の機体をベースに海上の監視に特化する形で改良した大型の無人航空機です。

導入費用はおよそ40億円で、海上保安庁は最新の技術に対応するため機体をリースし、パイロットは外部に委託しています。

拠点は青森県八戸市にある海上自衛隊の航空基地で、コックピットを備えたオペレーションセンターが設置されました。

4人の海上保安官が交代で「運用官」として、パイロットに飛行するエリアや撮影する対象を指示し、映像やレーダーの情報をモニターで確認します。

導入の背景には、海上保安官の業務負担の増加があり、有人航空機に比べて要員を減らせるメリットを生かし業務効率を上げるとともに、海上監視の質も高めたいとしています。

また、災害や海難事故が発生した際にも長時間現場の状況を確認できるため、例えば、離島での被害状況について自治体など関係機関と映像を共有することも想定しているということです。

高性能機器で海域の「常態把握」強化

海上保安庁が、無人航空機の導入によって強化したいのが海域の「常態把握」です。

「常態把握」とは不審船の監視に加え、船の分布や気象など平時の海洋情報を蓄積しておくことで、異常な動きが察知できるという考え方です。

海上保安庁は今回の取材に対し、運用開始後にシーガーディアンから撮影した映像の一部を初めて公開しました。

高性能カメラの映像では、赤外線モードで機体の姿や音を確認できない高度3000メートル以上から撮影した船の様子が鮮明に映し出されています。

熱源や微量の光を探知することもできるということで、たばこの火が白く映り、船員がたばこを吸っている様子が確認できます。

運用にあたる海上保安官によりますと、夜間でも高い高度から船名や船の様子などを確認できるということです。

また、船の位置情報を発信する「AIS=船舶自動識別装置」を作動させていない不審な船を探知能力の高いレーダーなどで識別できる機能も備えています。

AI=人工知能を活用して船形で船を特定する機能もあり、今後、データを蓄積していくということです。

海上保安庁の渡邉保範警備救難部長は「無人航空機は有人航空機より、監視能力は優れているので、情報面では量・質において格段にレベルが上がる。海上保安庁としては今後の巡視船艇、航空機の運用に生かせるよう分析能力を高める必要がある」と述べました。

そのうえで、「常態把握」のための無人航空機の活用については、「例えば漁船の分布状況の情報などを何年か継続して蓄積すると、ある一定程度の傾向が出てくる。傾向と外れたような状況があれば、何かあるかもしれないと予測を立てることができ、巡視船艇、航空機を厚めに配備できる」と述べ、リアルタイムで海域の情報をより広範囲に把握するため、無人航空機の体制を強化していきたいという考えを示しました。

中国の海洋調査船を把握した事例も

「常態把握」によって異常な事態を探知した事例もあります。

3年前、民間企業から委託された中国の海洋調査船が、日本海の沖合で計画されている洋上風力発電の建設に向けた海洋調査を実施しようとしたケースです。

関係者によりますと、ふだん航行するはずのない海域を航行していた中国の調査船の動向を海上保安庁が衛星情報などで把握し、関係省庁の間で情報を共有した結果、船は新潟港に入港したものの、調査を行わずに中国に戻ったということです。

海上保安庁と自衛隊 連携強化の検討も

海上自衛隊は、来年度から八戸航空基地でシーガーディアンの試験的な運用を始めることにしていて、浜田防衛大臣は先月の会見で「海自・海保それぞれが取得した情報の共有や、施設の相互利用を通じた運用の効率化を図る」としています。

海上保安庁は、無人航空機を活用して警察権の範囲内で情報を取得し、海上自衛隊とリアルタイムで共有することを検討していて、渡邉保範警備救難部長は「海上保安庁が有していない分析能力を海上自衛隊は持っていると思う。すべての情報を提供してもらえるかわからないが、周辺海域の状況について共有してもらうことを期待している」と述べました。

こうした中、政府が年末までに改定する外交・防衛の基本方針である「国家安全保障戦略」をめぐっては、海上保安庁と自衛隊の連携の強化についての検討が進められています。

専門家「情報共有の枠組みを作る必要」

元海上自衛官で海洋監視に詳しい笹川平和財団の小原凡司上席研究員は、海上保安庁の無人航空機について、「実際には30時間以上飛べるというデータもあり、地上で操縦士を交代すれば時間いっぱいまで飛ばすことができる。速度はあまり速くないので、一定の空域にずっと滞空し、目標を定点で捉えられる。有人機の補完と、ターゲットの上空を長時間滞空するという両方の使い方がある」と述べました。

そのうえで、「排他的経済水域の中で、すでに日本政府の許可を得ない海洋調査や違法な漁業の操業が行われているが、船がどのように動いているかだけでなく、その船の上で何が行われているのかといった細かい情報まで取ることができる。周辺海域の詳しい情報が取れるようになるということは日本の安全や経済的な利益を守るうえで非常に有効なものになると期待している」と述べました。

一方で現状の課題としては「広い海上の目標をすべて常時把握しておくのは難しいし、膨大な情報を統合するためのシステムや施設がまだ不足をしている。情報共有の枠組みを作る必要があると思うが、データをどのような形で渡し、それが融合されるのかという部分は課題になる。どのようなシステムでどのように融合するのかは今後2つの組織で検討しなければならない」と述べました。